第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その71)
「確かに、ひとりで留守番をしたことは後悔したさ。怖い目にもあったし、痛い目にもあったし・・・。
だから、ある意味では、留守番を言いつけたお爺ちゃんに対する恨みつらみもあった。
でも、それはそのときだけ、つまりは一時のことだ。」
父親は、孝が抱いた疑問を意識してか、改めてそう言ってくる。
「そのときだけって・・・。」
それでも孝は納得がいかない。
「だって、そうだろ?
お爺ちゃんを恨もうがどうしようが、台風のような強風で折れた木の枝が窓を突き破ってきて、階段部分にガラスが散らばって水浸しになったという現実はどうにもなりゃしないんだ。
ひとりにしやがってっと文句を言ったところで、そうした事実は変わりはしない。
お爺ちゃんが一緒にいたとしても、きっと同じことが起きただろうからな。」
「そ、それはそうだけど・・・。」
「だろ? だったら、文句を言う前にやるべきこと、いや、やれることがある筈だ。
お父さん、そう思ったんだ。」
「・・・・・・。」
「お爺ちゃんやお婆ちゃんが一緒だったら、きっと、窓の修復はお爺ちゃんがしてくれただろうし、階段の掃除はお婆ちゃんがしてくれただろう。
だから、お父さんは、ただ黙ってそれを見ているだけで済んだ筈だ。」
「で、でしょう?」
「その代わりと言ったら変かもしれないが、翌日からはまともに生活が出来なくなっていたかもしれんのだ。」
「んん? それって、どういうこと?」
「その春の嵐で、お爺ちゃんの果樹園があった山間地区では風速70メートルを超える突風が吹いたんだ。」
「な、70メートル!?」
「ああ・・・、そうだったらしい。その地区には風速計が設置されていなかったから具体的な数値は特定されていないんだが、お爺ちゃんの果樹園の近隣では、殆どのビニールハウスが吹き飛ばされてほぼ全滅状態だったんだ。
それでも、お爺ちゃんの果樹園では事前に相当な補強をしていたこともあって、1棟が半分持って行かれただけで、その他は何とか耐え忍んで無事だったんだ。」
「そ、それは凄い・・・。」
孝は、父親がその前日に遅くまでその補強作業を手伝わされたという話を思い出していた。
(つづく)