第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その70)
「で、でも、それって、無責任じゃない?」
孝が思わずそう呟いた。
もちろん、父親に聞かせようとして言った言葉ではない。あくまでも「呟き」である。
「ん? 無責任って?」
父親がそう反応する。
「だ、だって・・・。」
孝は後悔をする。呟いただけのつもりが、父親の耳に届いてしまったことをだ。
それでも、孝は前言を取り消さなかった。
「い、いや、何でもない」と逃げることも出来たのに・・・。
「どういうことだ?」
父親は、できるだけ静かに話そうと努力をしているような口ぶりで言う。
「だ、だって、お父さん、その時は小学生だったんでしょう?
それなのに、そんなお父さんひとりに留守番をさせるなんて・・・。
しかも、そうして嵐が来ることが分かっていたのにって・・・。」
孝は、意識して「お爺ちゃん」という主語を抜いている。
やはり、直接的には批判できない気持ちがどこかにあった。
「な、なんだ、そのことか。」
父親は、どうしてか安堵した顔を見せる。
「さっきも言ったことだが、お父さんにとって、いや、この家、この家族にとって、お爺ちゃんは言わば絶対的な存在だったし、それは今でも同じだ。」
父親は、孝が指摘することを理解したうえで、敢えて同じ言葉を繰り返してくる。
そう、「絶対的な存在」という言葉をだ。
「そ、そんなぁ~・・・。」
孝は承服できない。今時、絶対的な存在なんて・・・と思う。何と時代遅れな発想だろう、まるで、江戸時代の家長制度のようだと。
「お父さんは、そんなお爺ちゃんを誇りに思うし、まだまだなんだが、少しでもお爺ちゃんに近づきたいと願ってるんだ。」
「ど、・・・・・・。」
孝は、言葉が喉につかえるのを覚える。
「どうして?」と言いかけたのだが・・・。
(つづく)