第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その69)
「それからがまた大変だった。」
父親はまた湯飲みの茶を一口飲んでから言う。
「ん?」
孝には、父親が言う「それからが・・・」が理解できなかった。
事実、父親は割れた窓を自分の才覚で塞げたことでほっとしたと言ったのだ。
それなのに・・・と思う。
「そりゃあ、そうなるだろ?」
父親は、孝が抱いた疑問が分かったようで、敢えてそう切り返してくる。
「他にも被害があったってこと?」
孝も引き下がらない。
「いや、そうじゃあないんだが・・・。
窓が割れて、雨が大量に吹き込んで来たんだ。階段のところは、水浸しだし、かつガラスが散乱していたんだからな。
それをそのまま放置しておくわけにもいかんだろ?
第一、そんな状況なんだから、迂闊に階段を下りていくことも出来んかったしな。」
「ああ・・・。」
「まずは階段の掃除をしなくっちゃ・・・。そう思ってな。
ところが、よくよく考えれば、バケツにしろ雑巾にしろ、全部が1階にあった。
だから、どうしたって、1度は階段を降りなきゃいけない。」
「・・・・・・。」
「で、電気をつけようと思ったんだ。明かりをつければ、階段のどこにガラスがあるかが少しは見えるだろうって思ってな。
ところがだ。」
「ん?」
「スイッチを入れても電気がつかない。壊れたのかと思って何度も入れたり切ったりしてみたんだが、駄目だった・・・。
で、お父さん、部屋に戻ったんだ。部屋の電気がつけば、直接的ではないにしろ、その明かりで階段の状況が見えるかもしれないって思ったからな。
ところがだ、部屋の電気もつかなかったんだ。
で、ようやく、停電になったらしいって気がついた・・・。
随分と雷が落ちてたからなぁ~・・・。」
「ああ・・・、そっか・・・。」
「そうと分かってから、お父さん、一旦は『電気がつくまでじっと待とうか』って思ったんだ。布団も敷いたままだったしな・・・。」
「・・・・・・。」
「でもな、そんとき、またお爺ちゃんの顔が、いや、声がしたんだ。
『お前も男の子だ。ひとりで家を守れるよな』って・・・。」
父親は、意識してなのか、孝から目をそらすようにしてそう言った。
(つづく)