第2章 タカシの夢はお笑い芸人? (その68)
「ほら、写生会のときに使う画板ってのがあったろ?」
父親は、両手で顔の前に四角い空中図を描きながら言う。
「ああ・・・。」
孝も画板は知っている。今はもう使いもしていないが・・・。
「そいつを使おうって思ってな。」
「ん? 画板を使うって? どう?」
「薄いが、それでもちゃんとした板だろ? であれば、割れた窓を塞ぐのに使えるだろ?」
「ああ・・・、そ、そういう意味?」
「で、そいつを階段のところまで持っていってから、半分ほど外に出た状態のバットの尻を押したんだ。
バットは滑るようにして外に落ちた。で、屋根を転がって庭に落ちた。」
「み、見えたの?」
「いや、見えはしなかったが、音で分かった。カンカラカンって結構派手な音がしたからな。
で、用意した画板をその窓に押し当ててセロテープで止めたんだ。」
「セ、セロテープ?!」
「もちろん、本当はガムテープか何かの方が良かったのは分かっていたんだが、そんなもの、傍になかったからな。で、セロテープで代用したんだ。」
「そ、そっか・・・。」
「それでも、えらいもんだな?」
「ん? 何が?」
「そんな薄い板1枚なんだが、雨も風も、そして雷の音さえも遮断してくれる。」
「・・・・・・。」
「お父さん、その静かさを『凄い!』って思ったんだ。家に守られてるって感じてな。で、お爺ちゃんに言われてた『家を守る』って意味が少し分かったような気がしたんだ。」
「・・・・・・。」
「『やったぞ!』って叫びたくなった。いや、そう叫んでいたのかも知れん。
これでお爺ちゃんに褒めてもらえるって思ったからな・・・。」
「そ、そんなぁ・・・。」
孝は、小さな声でそう言った。意識して、父親には聞こえないようにしたのかもしれない。
孝には、「父親に褒めてもらいたいから」と何かに取り組んだ記憶はなかった。
だからなのだろう、誇らしげに「これで褒めてもらえる」と喜ぶ父親の感性が理解できなかった。
(つづく)