第1章 爺さんの店は何屋さん? (その9)
『流:こんち、TonTon、R、で、お初です、サフランさん!』
『TonTon:ああっ! お久~、流。元気だった?』
『R:こんち、流。』
『サフラン:初めまして、流さん。よろしくです。』
『R:流、ずるいぞ!』
『流:ん? R、どうしてよ?』
『R:だって、サフランさんにだけはタメ口じゃあないし・・・。』
『流:だ、だって、サフランさんだけ、大人みたいだったし・・・。』
『R:ふん、どうせ、俺たちはガキだよ。悪かったね!』
『TonTon:R、咬みつかないの。そんなことをするから、流に子ども扱いされるのよ。』
『サフラン:みなさん、お知り合いなんですねぇ・・・。』
『TonTon:はい、私が建てたスレッドに皆さん来てくれるようになって・・・。』
『R:もう1年以上になるよね?』
『TonTon:流はもっと以前からだよね?』
『流:そうだったかなぁ・・・。でも、オイラがそのがきだなに通うようになってすぐのときだったから・・・。もう2年になるのかも・・・。』
『R:て、ことは、流は大先輩なんだ。へへェッ~・・・。』
『TonTon:R,何よ、ソレ?』
『R:い、いや、流大先輩に平伏してんの・・・。』
『TonTon:ぎゃははは・・・。あっ、失礼。おしとやかさを疑われるわよね。』
『流:TonTon、大丈夫だよ。もう、化けの皮剥がれてるし・・・。』
『TonTon:そ、そんなぁ~・・・。流だけは、もっと優しいって人だって思ってたのに・・・。』
『流:現実は厳しいのよ。何事にも・・・。』
『TonTon:流ったら、随分と大人になっちゃって・・・。』
『R:ん? サフラン、落ちた?』
『サフラン:い、いえ・・・、いますよ。Rさん。大丈夫です。』
『TonTon:そうそう、サフランさんが仰ってた、お店が閉まるかもしれないって話・・・。本当なのでしょうか?』
『R:それ、俺も知りたいなぁ~。』
『サフラン:う~ん・・・、今のところ噂だけですから・・・。』
『流:その話、どうやら本当のようです。オイラ、後輩から聞きましたよ。』
『TonTon:流、それって本当? だったら、私、一度も行けないままじゃない・・・。』
『流:だからって、今、存続の運動が起きてるみたいです。』
『R:存続運動って?』
『流:今通っている子たちが中心になって・・・。何とか、店を続けて欲しいって・・・。』
『サフラン:閉店される理由ってご存知なんですか? 流さん。』
『流:詳しいことは・・・。でも、どうも、角田さん、引越しをされるみたいで・・・。』
(おおっ! つ、角田って・・・、あの爺さんのことだよなぁ~・・・。)
パソコンの画面に顔をくっつけるようにして読んでいた小池のおっさんが息を呑む。
「山羊」とか「八木」という名前が出ていたから、「これは違うのかも」と思っていたのだが、ここに来て、はっきりと「角田」という名前が表れたのだ。
俄然、この画面から離れられなくなる。
「い、今、何時だ?」
おっさん、自分で自分に問う。やはり、時間が気になるのだ。
会長から、「この蕎麦券、早急に配ってくれ」と言われている。
会員の店は、約70軒。
しかも、真ん中の十字路を挟んで、東西南北に広がっている商店会だ。
全戸を渡り歩くだけでも、2時間弱は掛かる。
おまけに、その蕎麦券の趣旨まで説明が必要になる。
何しろ、あの町村氏が関係しているのだ。
そう簡単に、配るだけでは、後で会長から叱られるだろう。
「も、もう2時を回ってるのか・・・。」
おっさんは、考える。
ここの定時は午後5時である。
今からすぐに配り始めるとすれば、何とかその定時までには終わるだろう。
だが、これ以上グズグスしていると、明日になる部分も出てくる。
「う~ん・・・、仕方が無い。今からやるか・・・。」
おっさんは、そう決意する。
残業をしても、残業手当はもらえないだろう。
だとすれば、何としてでも今日の午後5時までには配り終わりたい。
そう思ったからだ。
で、出かける準備をする。
鞄に長さんが持って来た蕎麦券のポチ袋を入れ、受領印を貰うための一覧表も入れる。
だが、パソコンの前に立っても、その電顕を落とす気持にはなれなかった。
そのままで、出かけることにする。
戻ってきて、時間があれば続きが読みたかったからだ。
(つづく)