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プロローグ
とある地方都市。
かつては大都市の衛星都市と言われたこともある人口5万人程度の小規模な街である。
ご多聞に漏れず、この街も駅前の商店街ですらシャッターが降りた商店が目立つようになっている。
そうした商店街に、新たに店を開いた愚か者がいた。
名前を角田嘉一と言った。
もちろん、それが本名かどうかは分からない。
あくまでも自称である。
歳は、本人曰く65歳だそうだが、その風貌からすればもっと年寄りではないかと思われた。
白髪で、蓄えた髭も真っ白である。
そんな爺さんが、元布団屋があった角地に店を構えた。
店名を『がきだな』と言うらしい。
まことに変梃りんな名前である。
何屋なのか、つまりはどんなものを売っている店なのかもよく分からない。
爺さんが店を構えたビルは、実は2階建てとなっていた。
そう、俗に言う「店舗兼住宅」という造りだ。
1階が店舗で、2階が住居である。
高度成長期によく作られたビルの形式でもあった。
もう、築40年は過ぎているだろう。
どうやら、その爺さん、その2階に住んで商売を始めるつもりらしい。
開店より先に引っ越してきた。
(つづく)