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第二十八話 悪の巣窟

 夜の海鳴りが響く、寂れた港湾倉庫。

 『キコ……キコ……』一輪車に跨りこぎ、ゆっくりと無機質な空間に入っていく奇妙な影がある。


 それは色彩豊かな着物を纏い、ホワイトブリムを頭に乗せ、長く艶やかな黒髪を垂らした女の姿。一輪(いちりん)は、感情を排した声で告げた。


「モリヨシが、しくじったヨウデス」


 彼女はおぼんに乗せ運んだタブレット端末を、リーダーらしき天狗の面の者へと渡した。そして丁寧にお辞儀の動作をし、また一輪車を漕ぎながら、倉庫の入り口の方まで引き返していった。


「おいおーい、ありゃ元上忍。結構な手練れだって聞いてたんだけどねぇー? 逆に歓迎されちゃったってわけぇ?」


 ドラム缶の上に座り、黄色い帽子を被った赤い三つ編みの者。釈梵(シャボン)が、その報告に笑いつつも驚いた様子で反応した。


「フンッ。だから言ったのだ。あのような気色悪い俗物ッ、ダイヤ様の相手になるわけがない。最初から礼を尽くしてお誘いすれば済む話だ」


 薄い雑誌を片手に読みながら暗がりに立つ女性、刹那が不機嫌そうに吐き捨てた。


「じゃあ、次はお姉さんが行ってみなよー? ほらほら、そんなに好きなら行っちゃいなよぉー? 良い出目がでるかもよぉー?」


 釈梵が自信のありそうな彼女のことを囃し立てる。


「それはっ…… 物事には、その……順序というものがぁ……あるからだっ!」


 しかし刹那は急に恥じらう乙女のように取り乱した。その場でもじもじと踏んでいるのが順序だとでも言うのだろうか。


「なんだこいつぅー……? クールぶって実は恥ずかしがり屋さんかぁ?」


「うっ、うるさいっ! お前に何が分かる」


「えー、わっかんないかもぉー。ははは」


 ニヤニヤと刹那のことをからかう釈梵を尻目に、コンテナの上に怠そうに座っていた男リカルドが、さらに露骨に悪態をついた。


「チッ、いけすかねぇな……。百鬼だかボッキだかなんだか知らねぇが、所詮は今や下っ端のやる任務に甘んじてる雑魚じゃねぇか。過去の栄光に縋って落ちぶれた弱者!! 牙を研ぐことをやめたゴミ!! ハハハハそんな塵屑如きァがっぁぁあああ!? 痛でぇっ!!?」


 饒舌に機関銃のように吐いていたリカルドの言葉が途切れるのと同時、コンテナの上に忽然と現れた刹那のナイフが、彼の頬を躊躇なく切り裂いた。


「ダイヤ様を汚い口で語るな! 何も知らぬ三下のクズがっ!」


 突然の強襲。リカルドが切られた頬を抑え、悶えながらコンテナの上から転げ落ちた。


「おっとぉ、大変だぁ! ちょっとお姉さんいきなしなにやってんの、あははは狂ってるゥ! おーい、リカルドくぅん、大丈夫? 治療費ある?」


 間一髪、地に敷かれていた泡の集合体のようなモノに、灰色のモヒカン男は落ち、その落下の衝撃を和らげた。


 近寄った釈梵がそのそばかす顔で手を叩いて笑う中、それまで沈黙を守っていた天狗の面の男が、眺めていたタブレットの映像から今ゆっくりと顔を上げた。


「……ふぅーん。これが爺の言ってた天才三技使い、百鬼の大也か。なるほどね、そうだなぁ……今の彼が相手なら、──間違いなく〝僕が勝つ〟よ。三技が多少上であったとしても僕の印に彼は(かな)わない」


 天狗面は、タブレットを手のひらの上でまるで風に踊らせるように回し出した。


「ぬけぬけと世迷言でダイヤ様を……舐めるなっ!!」


 そんな男の不遜な態度、身の程知らずな言動を聞いてピクリと逆上した刹那が、天狗に向けてコンテナの上かれ飛び出し、最短距離で刃を突き出す。


 だが、上空から襲った刹那の渾身の突きは、天狗の差し出した指一本によって、その勢いを完全に殺された。


「っ……!?」


「三下は少し、黙っててくれないかな。……今、久々にワクワクしているんだ」


 天狗がギロリと刹那を斜め上に睨み据える。刃を伝い、纏う衣服までをそよがせた冷たい冥力に、危険を察した刹那はナイフを手放し後ろへと飛び退いた。


 地に舞い降りてもなお衣服がまだ騒いでいる。奇妙な風に身を包まれていた刹那は、なおも全身の警戒を解けずにいた。纏わりつく奇妙な風の冥力に対抗しようと、自身の身に宿る冥力を上げようとしたが──。


「あははヒステリックもいいけど、ちょっとそれは相手が悪いさ。──後ろだよお姉さん、ふぅ〜……」


 忠告しつつ笑う。釈梵が冥力で作った泡を一つ、口元から息を吹き飛ばした。


 彼女がさっき握っていたはずのナイフが前方の視界にない。泡玉が反射し映し出す刹那の背後には既に、ひとりでに浮かぶナイフが一本。鋭い切先を向けて配置されていた。



 タブレット端末がチカチカと明滅を繰り返しながら、回転、舞い上がり──やがてぐしゃりと捻り潰れた。


 一枚の鉄板、その落っこち果てた無惨な様に、天狗の面を外した男は、微笑わずにはいられなかった。

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