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第二十七話 三神拳、漆阿からかう

 オレンジに染まる校舎、夕暮れの学校。独り、生徒会室に残る鶴橋の溜息は、他の作業中も思い返しては尽きることはなかった。


「はぁ……。とりあえず今は、自分のことに集中すべきか」


 まとめ終わった手元の資料を整理しながら、独り言が漏れる。


「この前のやつも髪縛りが相手だったから勝てたようなものだ。そしてただ勝つだけではなくもっと楽に勝たねば、ってちがうちがうちがう……私もアイツに釣られて戦いそのものを求めてどうする?」


 未だに引きずっているのは、この前の青薔薇遊園地での髪縛りの術の使い手、緑八郎との戦い。特殊な宝石特殊な金遁を扱う彼女にとってはアレはいただけない戦費であった。


 そんな戦いのことに心が偏重していた鶴橋は首を横に振り、新しく調達した宝石への刻印と冥力充填作業の続きを開始した。


「……百地大地。同世代最強の忍び、それに藤林家のエリート忍者……そもそもこれ以上の贅沢は望めないか。しかし脳筋かと思いきや変なところがデリケートだな。いや、私が悪いのか? てかなんで私は余計なことを喋ってしまった。はぁ……もしかして一番デリケートなのは私か?」


 ルーペを手に取り、小さなノミを手に持つ。黒い台の上に冥力需要量の高い特殊鉱石をしっかりと固定。鶴橋綾子はN研究所から請け負った秘密の作業を続けながらも、直近の厄介事を振り返っていく。


「とにかく無駄なことを悩んでいても仕方がない。一つ一つ任務における状況を、今一度整理し片付けていこう」


 鶴橋はネガティブになりそうだった心を切り替えて、現状を今一度整理してみることにした。


「①西嶋虎彦と丹波もつこに見受けられた脱鬼の印。こちらの調べは大きな進展もあり、今のところ順調。報告材料も揃ってきているのは幸い」


 丹波もつこから西嶋虎彦に今も寄生し影響を及ぼしている脱鬼の印。西嶋につけた忍びの鍛錬の成果か、大きな進展があったと鶴橋は桃乃木大地から報告されている。大まかな能力の把握はこれからだが、見通しはできていた。


「次いで、まだ発現せぬ町原由璃の印。こちらはこのまま発現しない可能性も大いにありそうだ。はぐれ者でもどうやら必ず印が刻まれるという訳ではないらしいからな。そして、問題はそっちではなく、歌手としての活動の幅が広がった方だが……ユニット③と⑤が頑張ってくれているからなんとかなると信じたい」


 町原由璃に関してはまだまだ要観察だが、このまま印の才を持たずにいる可能性の方が高いと鶴橋綾子は踏んでいた。忍びの家系でも冥力はあっても印の才能のない者はごまんといるからだ。特段、開花しなくても珍しい話ではなかった。


 桃乃木大地そしてダイヤの手厚い警護があるので、鶴橋としては流れてくる報告を注意深く聞くだけであった。


「そして三つ目──問題児、藤林雷牙と蕾花。私は子守じゃないし、ましてや(クソ)おつるじゃないが……。アレだけ対象のことを嘲笑い腐していたんだ。まさかそれで嫌な奴と自覚していなかったとはどういうことだ? 私がおかしいのか、それともアイツがおかしいのか? うーん……あ、もしかする──ん?」


 冷静に整理していたつもりが、また同じところに戻って来ていた。藤林雷牙やはりこの問題児との一悶着が、鶴橋の中ではまだ燻っていたようだ。


 鶴橋は愚痴りながらも、台に固定した次の宝石にルーペを向けた。彼女の武器である番匠鳥(たくみどり)をその性能通りに動かすには、これらの煌びやかでお高いアイテムへの仕込みが欠かせない。


 だが、彼女が目を凝らし覗くレンズの向こうにあったはずの輝きが、唐突に消失した。


『まわりくどいことをしよるのぉ。あくびが出そうじゃったぞ』


「っ、誰だ!?」


 異変を悟った鶴橋は椅子を蹴って立ち上がり、傍に置いていた番匠鳥を手に取り素早く構えた。視線の先には、窓枠に腰掛けた一人の女がいた。


 褐色肌に、淡い青とピンクが毛先に混じった白髪。身体のラインを強調するしなやかな黒と水玉模様のスーツを纏った彼女は、今奪った宝石を摘み、それを片目で品定めするように見ていた。


漆阿(るーしゃ)じゃ」


「るーしゃ……? だから誰だと聞いている!」


 警戒を解かない鶴橋に対し、一言の自己紹介をした漆阿は楽しげに笑い目を細めた。


「ほれっ。……じゃ、あとはいただくかの。この輝き、少しくすんでいるが物好きのワシにはぴったりじゃ」


 漆阿は一つだけ宝石を投げ返すと、残りの全てを手に取った。さらに手のひらをぴったりと当てた窓を、開閉音もなく、なんと不思議にもくり抜くように開けた。


 そして、躊躇なく外へと身ごと飛び出し、その場から消え失せた。


「おい、待て!!」


 オレンジ光の中消え失せた白髪の盗人の姿。鶴橋が急ぎ室内から窓外を見上げ見下げるも、既にその盗人の姿は見えなかった。


 やがて廊下へ飛び出すが、そこには静寂があるのみ、消えた盗人の手がかりと痕跡が何一つとしてない。瞬く間に大事な宝石を盗まれ、焦り困惑する鶴橋の耳に、突如として全校放送が響き渡った。


『お主の大事な宝石をこの校内のどこかに隠した。欲しけりゃ見つけてみぃ。制限時間は十分。全て見つけられなければ、そうじゃな? ──ワシがゼンブいただくことにする♡』


「はぁー!? くそぉ、なんてこった……なんなんだアイツは!」


 こんな茶番、罠の可能性も考えられる。だが、そもそも宝石がなければおそらく──。


 鶴橋は握っていた手をおもむろに開き、手のひらに乗せた一粒のダイヤモンドを見つめた。その宝石に施された冥力の質は──。


 鶴橋を乾いた唾を飲み込み、裸眼に赤い眼鏡をかけた。


 制限時間は十分。ここはその漆阿という女の提示するゲームに乗るしかない。鶴橋綾子は再度握りしめた一粒の生む奇妙な冥力と感覚を頼りに、あてもない〝宝探し〟へと駆け出した。

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