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第二十二話 秘密渦巻く三人組

 青薔薇遊園地での警護任務を終えた、後日。普段通りの赤見高校での学生生活へと戻った彼らは、昼の生徒会室にまた集っていた。


「パーティー感覚で反省会をお開きするぐらい心配なら、早くこっちの家に引き入れちまえばいいじゃねぇか。だるい対象の二人ごとよー?」


 机の上に座った藤林雷牙が、不遜に言い放つ。それは彼には珍しくまともに聞こえる提案だった。


「印、または一定以上の冥力を持たない一般人を引き入れることはNにより禁じられている。情報漏洩を防ぐため、不必要な交友は避けるのが鉄則だ」


 だが鶴橋綾子は、真面目な様子できっぱりと教科書通りの答えを返す。


 予想通り面白味のない答えが返ってきた。片耳をほじりながら呆れた雷牙は、自分も属する藤林家が行っているあの手この手のグレーゾーンをあげつらい揶揄する。


「ハッ、意味分かんねぇな。養子だの分家だの見合いだの、あいつら散々やってるくせに。今更かよ。だいたいそんなことっ、律儀に守ってる奴なんて本当にいるのかよ?」


「……それは、どうとも言えない。面倒の見方にはそれぞれある、ということだろう」


 鶴橋のあやふやな返答に、雷牙は鼻を鳴らす。


「はっ、なんだそりゃ。ま、俺は毎日戦えりゃ別にいいんだけどな」


「良いわけがないだろう……。ここ最近は落ち着いていたというのに。はぁ……」


 鶴橋の溜息には密かながらも切実な重みがあった。遊園地での一件のような規模の襲撃がまたあれば、何よりも戦費がかさむ。ご勘弁を願いたいと言ったところであった。


「警護対象二人、現状、家を挙げての完全なる保護は期待できない。あちらもそれほど重要視し望んでなんかいないんだろう。だからこそ、二人の印の発現……その兆候と経過を俺たちがここでじっくり見張り観察する必要がある」


 大地が冷静な物言いで口を挟む。大地と鶴橋は一瞬だけ視線を交わした。


「はぁーぁ、そんな気長なやり取り別に興味ねぇな。ははは!」


 雷牙は話に興味が失せたように机の上に寝転んだ。そして手元にあった黒い独楽をひょいと空中に投げ、突然話題を変えた。


「そんなことよりだっ。この間ゲーセンで遊んでやった奴は、まぁまぁ骨があったな。アレならどんどん来てもいいぞ。また食ってやる」


「冗談でも戦乱を望むな。あと……その帽子はなんだ……?」


 その金髪の男の頭には、どこから調達したのか「雷」と刺繍された奇妙な黒い帽子が乗っている。


「チャンピオンベルトがわり、撒き餌だ撒き餌。ははは!」


 問うて出てきた雷牙の不敵な答えに、鶴橋は思わず頭を押さえる。戦闘狂のこの男忍者は、学習能力がまるでないようだ。


「んな溜息ばっかつくなよ、老けるぞ? それに遊園地じゃ一人一殺! なんだかんだ口うるさいだけのおつるにも実力の方はあったんだな? いやぁー、俺は見直したぜ? やるじゃねぇか、ははは」


「おつるじゃない、鶴橋だ。老けるは余計だし冗談も言ってくれるな……勝負に勝っても、首が回らなくなっては意味がないんだよ。はぁ」


「あーん? どういうことだ? ヘマして怪我でもしたのかよ?」


「そ、それはだな……」


 雷牙は不思議そうに首をかしげる。彼女のする金勘定の苦労など、この自称最強忍者の頭には毛頭ないらしい。


 鶴橋の扱う金遁とは、雷牙のお気楽に垂れ流す雷遁と違い文字通りの金食い虫なのだ。


「種明かしは無理にするもんじゃないぜ。例え、仲間であってもな」


 大地が静かに釘を刺す。金髪ヤンキー女に絶賛ガンつけられ返答に詰まっていた鶴橋は、注目が彼へと移り、ホッと安堵の息を吐いた。


「はぁ? お前それ、俺への皮肉のつもりか? ていうか一番ざるなお前がなに賢そうに語ってんだよ、でぶっちょが。……あ、そうそう。こないだの〝ヘソの件〟さっそく良い場面で使わせてもらったぜ!」


 雷牙は何を思い出したのか。今手に取った独楽の先端を、自分の腹の中央にある臍の溝へと乗せた。そしてそのまま、机と机の上で鮮やかなブリッジを体を柔軟に反りあげ披露した。


「もっとも冴えないテメェの方には、よっと──礼は言わねぇがな、ははははは!」


 青い電流が流れ、臍の上で独楽が回り始めた。逆さまの視界で笑う雷牙が、でぶっちょの大地を見つめて挑発するように舌を出した。


 一瞬、奇妙な曲芸を披露するその金髪男の面が、明滅するように女顔へと変わっていた。


 逆さに映るソイツの不遜な笑みに、大地はもはや苦笑するしかなかった。









「ま、何はともあれそんなところだ。遊園地の一件で警護状況の見直しは多少は必要だが……それも見失った私が言うのもなんだがな……」


 話のまとめにかかった鶴橋であったが、青薔薇遊園地の古城で警護対象を見失った失態を忘れずにいたためか、言葉途中で少しトーンダウンした。


「今のところこれ以上の人員増強はあまり期待できない。だが今後も任務は続ける。以上だな。改めるのは勝手だが引きずるなよ、おつるのユニット②」


 大地がそうつづけ、これまで繰り広げた昼の話をまとめきった。


「お、おう。随分と気遣いだな桃乃木……ありがとう。おつるのは、いらないが……」


 そう言う桃乃木大地もいつもの調子を取り戻したように見える。鶴橋綾子はそのほんのちょっとユーモアのあるお言葉に甘んじて、あまり失敗を引きずらないことにした。


「はははそうだぜ、おつるのユニット②。真面目ちゃんぶった忍びとしては失格だが、出てきた敵はしっかり倒したじゃねぇか? ま、任せろよ。そんなに気張らなくても、余った分は俺様が全部喰らってやる! じゃんじゃん来やがれ」


 相変わらずの調子の雷牙は、彼女のことを褒めているのか慰めているのか貶しているのか分からないが、戦闘に関するやる気は十分のように伝わってくる。


「その『じゃんじゃん』がなければ頼もしいと言えるんだがな……。……とまぁ、正直、〝一応〟五人体制なら少ないと文句は言えない。こちらとしては実力は疑っちゃいない、これからもよろしく頼んだ。調子乗りのユニット①、小ボケのユニット③」


 藤林雷牙、鶴橋綾子、桃乃木大地、藤林蕾華、ダイヤ。長期任務にあたる忍びたちのユニットは、一応五人である。一人二役が二人いるものの、はぐれ者の対象二人の警備体制としては既にこれは十分である。


 改まって最後に、鶴橋綾子は彼らに「よろしく」と伝えた。


 忍び三人組のお昼の会議も、ある程度まとまった。


 ──しかし、その三人の忍びたちのやり取りの中に、一人だけさっぱり状況が分かっていない大柄の男がいた。


『おい、桃乃木、お前もこいつらもさっきから一体何を言っちょる?』


 一人ぽつんと体躯に合わない学習机の前に座り、会議の様子を傍観していたのは、西嶋虎彦。この前、青薔薇遊園地の氷淵の間で仁王立ちのまま気絶をしたと話題の男だ。


 西嶋が桃乃木大地に近寄り耳打ちし尋ねる。どうやら話の一割ほどもついて来れていない様子だ。


「ところでよ。なんでその死にかけのゴリラがここにいんだ、でぶっちょ?」


「それは私も問いたいぞ桃乃木……」


 雷牙と鶴橋は、部屋の片隅に放置していたそのゴリラのように大きな一般人の男のことを、大地に尋ねた。


「あぁー、またこの前みたいなことがあったら任務の邪魔だろ。見学したいってしつこく言うから連れて来てやった次第だ」


 何故、忍びである彼は平然な顔で一般人の男を連れて、そんなことを宣っているのか。返ってきた返答に、鶴橋は苦笑を浮かべるしかなかった。


「いっそここで消すか?」


 じろりと、西嶋の濃い顔を覗いた雷牙が、両手をバチバチと妖しく帯電させながら提案する。


「それも既に考えた」


 大地は、冷静な仕事人のように答え、パキパキと両手の指を鳴らす。それは一体何の準備体操なのだろうか。


「いや、まだ考える余地はあるんじゃないか?」


 鶴橋は、報告書を書いていたボールペンから鋭い針を出す。銀色の尖りが、何故か冷たく西嶋のことを見据えている。


「おいおいなんだおまえら? なに雁首そろえてガンつけてくれちょる……って近い、近いぞ、それ以上俺に近づくな!! おいやめっ────!?」







 役五分後、忍びたちからの手洗い歓迎と、噛み砕いた説明を改めて受けた素人の男の取った決断は──。


「忍び? イン? メイリョク……? 相変わらずおまんらの言う話はさっぱり分からんが……分かった。なんでもいい! それでもつこさんを守れるなら、俺は協力する! いや、どうかこの男西嶋虎彦にも一役協力させてくれェ!! 盾でも傘でも鉄砲玉でも何でもどんと任せてくれ!!!」


 ガタガタと細い鉄の四脚が地を打ち揺れ動く。


 椅子にロープできつくその身を縛り付けられながらも、西嶋虎彦はそう雄叫びを上げるように、忍びのプロである彼らに懇願した。


「──と。いつまでも対象丹波もつこに熱くついて回られるより、いっそ内輪に入れた方がマシって判断したわけだ。ご意見どうぞ」


 大地の判断し提案したものは、丹波もつこを諦めきれない男西嶋虎彦を、協力者として自分たちの内輪に加えることであった。


「ハァ? 子供の遊びじゃねェんだぞ? ──まぁ、あの汚ねぇ仁王立ちの根性だけは認めてやるがな。ははは」


 雷牙は西嶋を指差し、前のめりにガンつけるも、やがて高く笑い上げた。


「はぁ……報告書を書き直すか。(増殖した脱鬼の印の影響の観察も続けなければならない。抜け目のない奴……いや──)」


 この長期任務にも、もしかするとゴールの兆しは見えてきたかもしれない。先行きは不安ながらも鶴橋綾子は、机の上の紙にペンを走らせた。













 昼休み明けの五時間目。いつぞやと同じこの屋上の場で、特別授業の時間はやって来た。


 屋上の乾いたコンクリートの上で、二人の忍びが静と動、そんな対象的な様で対峙していた。


 変化のコツは、臍にあり。

 かつて大地から聞き齧ったそのコツを自分なりにアレンジし、雷牙は敵から盗んだ黒い独楽を自身の腹の上で高速回転させた。


 独楽は昂る雷電を放ちながら、次第に冥力を渦巻き増していく。

 そして、雷光が収まった後に現れたのは────金色の髪を逆立たせ鋭い眼光を放つ、藤林蕾華、変化した女の姿だった。


 演出過剰な変化をし登場した彼女は、男だった 時の制服のズボンを履いたまま、目の前に立つ太った奴へと問いかけた。


「知ってるか。お前、〝敵〟に塩を送ったんだぜ? ははは、むざむざナ」


「敵? そんなの最初からいないが」


 大地はとぼけた様子で淡々と返す。その微動だにしない奴の余裕が、蕾華の闘争心に余計に火をつけた。


「おいおい、ふてぇいい度胸じゃねぇか? ハハハ、なら……その厚い化けの皮今すぐ剥がしてやるよ、でぶっちょおおお!!!」


 開始の合図は、彼女がその昂る闘争のスイッチを全力で入れた時。


 金毛の獣娘が自慢の雷を唸らせて、巨漢の男子生徒へと襲いかかった。









 激しい雷光が青く青く屋上の舞台を染め上げた、その痺れる勝負の行方は────。



「ぎゃふっ!? ……っ、なんで……効いてねぇっつぅんだよ……! ぅげふっ!?」


 1分足らずで終着した、なんともあっさりなものだった。


「冥力の底がいくら上がっても、変化するのにその冥力を消費してりゃ本末転倒だ。あげく術一発打って即電池切れなんて、杖ついた老人相手の方がよっぽど怖いぜ?」


 気づけば、変化の解けた雷牙が床に転がっていた。そして、その背中の上には、巨漢の大地がどっしりと腰を下ろした。


 勝利者特権か、大地は好き放題なことを言いつつ、尻に敷いた相手の敗因を分析し出した。


「るせぇ……まったく、ふざけた野郎が……ッ」


 下敷きになったまま、雷牙が恨めしそうに顔を歪める。さらに、じたばたと今更暴れようとするも、勝負はもう肥えた生徒の尻の下でとうに着いている。この敗者の背へと乗せた重しを跳ね返し覆すことはもはや不可能だ。


「って、んなこたぁどうでもいいんだよっ! おい、さっきのはなんだ! なんであれだけ受けて、奇妙にもお前は無傷でいやがる! 説明しろ!」


 敗因はもう十分説明したはずだが、金髪の彼はまだ足りないらしい。


 だが、大地はまたとぼけた言葉を選び言い渋った。


「んー、種明かしは野暮ってもん──」


「んな小ボケはいいからさっさと教えやがれ!!」


 相当、教えて欲しいようだ。やがて言い渋るフリをやめた大地は、今度はなんともあっさりとネタバラシをした。


「下敷きになりながら吠える台詞かよ。──三技ノ(しつ)。【漆張(うるしばり)】だ」


「さんぎの……なんだって?」


 彼は〝三技〟を知らない。しかしその年ではそれも無理もないと、大地は茶化さずに説明を続けた。


「簡単に言えば、今まで垂れ流すだけだった素の冥力をもっと防御向きに転用してみようっていう発想から始まったもの、それが三技ノ漆。そして今使った忍法のイメージとしては、粘りをもたせた冥力の膜を己の身に一枚一枚羽織らせる……といったところか。とにかく色々やり方はあるが、基本は防御用だ」


「素の冥力を防御向きに……冥力を一枚一枚……だと? まさかその膜ってヤツだけで、俺様のパワーアップした至近距離からの四尾雷(しびらい)を防いだっていうのか……!?」


 説明を受けてもまだ信じられないといった様子の雷牙に、大地は淡々と問いを重ねる。


「お前、この前コンクリ武者と戦っただろ」


「あぁ? それがどうした。今関係ねぇだろ?」


 何故今そんな昔のことを蒸し返したのか。雷牙は大地を訝しみ見る。


「気づかねぇか? 土の印だけじゃなく、そいつも三技ノ漆を使っていたことに」


「あのコンクリ野郎も……? へっ、なら俺の四尾雷の威力で、余裕で抜ける算段じゃねぇか」


「ああ、すまん。正確には『お前がボコボコにされて寝た後に、俺にだけ本気を出して使っていた』だ。訂正、訂正」


「おいおい、てめぇ……どこまでも良い性格してやがんな? ──チッ、まぁいいぜ。俺様が最強になった暁には、ぜってぇ真っ先に下敷きにしてやるから覚えてろよ!」


 吠える雷牙を見下ろし、立ち上がった大地は少しだけ目を細めた。


「最強、か。……ま、お前がさらに強さを求めるっつぅなら覚えておけ。忍びの三技──【冥】【漆】【剥】。三技使いは、ある意味じゃへたな印持ちより相当に厄介だ、ってな」


「……はっ、どのくらいだって言うんだ?」


 そう忠告まがいの言葉を告げて立ち去ろうと背を向けた大地が、背に聞こえた挑発するような一声に、一瞬だけ振り返る。


 その刹那、泉のように溢れる冥力が恰幅のいい男のことを覆った。


「──これぐらい」


 ソイツの右手に滾る炎の如く揺らぐ冥力が、消えていく。振り返り静かに睨む黒髪の王子が、やがてその場を去ってゆく。


 彼の立っていた足元は、まるでそこだけ波紋を広げたような綺麗な亀裂を入れていた。


 目の当たりにしたその絶対的な実力の片鱗に、雷牙は武者震いだと体を伝う震えを押し殺し、ただ去る男の背に向けて不敵に笑うしかなかった。


肥えても最強忍者をお読みいただきありがとうございます。

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