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第十六話 任務、デート? 青薔薇遊園地

 赤見市から離れた青足市に位置する【青薔薇遊園地】。そこは様々な遊具アトラクションに加え、のどかな緑と花畑、そして名物の薔薇園が広がる。そんな遊園地でありながら公園のような穏やかさの面も併せ持つ、休日を過ごすのにぴったりの場所だ。


「あー、西嶋くんいた! ごめん待った?」


「もっ、もつこさん! いえいえ全然今来たとこです!」


 いつもの制服姿とは違う私服姿の金髪のギャルが、手を振って駆け寄って来る。その可憐な姿を視界に入れ途端、突っ立ち待っていた背丈の高い帽子被りの男、西嶋虎彦は胸の鼓動を跳ねさせた。


 彼は手に入れた「ペア招待プレミアムチケット」を握りしめ、この日、奇跡的にも丹波もつことのデートに漕ぎ着けていた。


 『大事な話があります。詳しくは今度の日曜日、遊園地の中でお話します』そんな人が変わったような丁寧な文章でメールを送ったことが功を奏したのか、丹波もつこもその誘いを断ることはなかった。


「もつこさん、あの、その、今日は!!」


「あはは。せっかくだから色々見て回ろうよ! 乗り放題だし、損損だよーっ!」


「はっ、はいぃーーっ!! ジブンっ、既にぐるっと二周下調べしてきたんで、この庭のことならなんなりと!!」


「ええ!? 庭ってここ広いのに!? ってもう汗だくじゃん、あはは」


 黒服黒キャップの男と、青いジーンズ姿のギャル。凸凹な二人が、待ち合わせ場所の噴水広場から園内を東へと歩き始めた。


「対象②確認、ユニット②これより尾行を開始する」


 その数メートル後ろには、トレードマークの眼鏡を外し、さらに髪型をツインテールに結い、黒い耳付きのリュックを背負う。そんなお一人様の行楽客へと変装をし、二人を尾行する鶴橋綾子の姿がある。


 対象②丹波もつこの姿を確認した鶴橋は、ボタン通信機の近くに息を吹き込み、仲間との連絡を取った。





「あぁー? りょうかいりょうかいパワーボム」


 金髪の男は気怠い返事をしつつ、座る筐体のレバーをガチャガチャと動かしコマンドを入力する。


『……ってお前、ゲーセンなんかいんじゃねぇ!! おいこら任務中だぞ藤林……えーっと今は雷牙か!! ユニット①ちゃんと警戒しろ!! 誰も行く予定はない、そこはもういい』


 やけにうるさいガチャガチャ音と、騒がしい機械音にすぐソイツがどこで何をやっているかを、鶴橋綾子は通信機ごしに拾った音で気づいた。


 即座にゲームセンター内の騒音に負けないボリュームで叱責し、ユニット①藤林雷牙のことを任務へと戻るように伝え促した。

 

「わーったよ。今あったまってきたところだから、ちょっと待てよ。──へっ三連勝。こっちでもどうやら俺様のサンダーマスクレオは最強だぜ!!」





 次の叱責の言葉も待たずに、ユニット①との通信がプツリと切れる──。


「ダメだこりゃ、完全に地元のヤンキーが格ゲーで井の中の蛙ムーブをしてやがる……。──対象①は……まぁアッチはユニット③……と⑤がいるから大丈夫か。はぁ……てことは、私は私の仕事に集中だ」


 おもむろに手鏡を見て髪を整えた鶴橋綾子は、目先に映る丹波もつこと西嶋虎彦のデートの尾行を開始した────。

















 日曜午後二時前。こどもショーの開演を待ちわびる小さなファンたちのざわめきが、いっそう高まっていく。


 野外広場にある舞台の上には、水色のストライプの衣装を着た黒髪の歌のお姉さんが一人。舞台の端っこでギターをさげたまま、マイクに向かい黙り固まっていた。


 「こんなにいるなんて……」この日初めて歌のお姉さん役を務めることになった町原由璃は、舞台を取り囲む外の元気な盛り上がりと、椅子席のない青いマットのフリースペースで小さな子供たちの跳ね回り走り回りはしゃぐ光景に、圧倒されていた。


 青空から陽気の射す、そんな観客席に集まった子供と親の数は想像以上。とても寂れた遊園地の盛況ではない、努力の集客の成果がそこに大挙して集っていた。


「ねぇまだはじまらないのー」

「はやくー」

「ぜんぜんでてこないしぃー」


「えーと、えーと(どうしよっ、前説全部とんじゃったかも……!?)」


 子供たちのざわめきに不満の声が混じり始めた。


 歌のお姉さんは、場を落ち着かせ温める前説を任されていたものの。事前に叩き込んでいた一字一句のセリフが、緊張する町原の頭の中でばらばらになって見つからずにいた。


 果たして、このまま演奏を始めるべきなのか。何か気の利いたアドリブで子供たちを落ち着かせるべきか。町原由璃は額に汗を滲ませながら、スタンドマイクの前で焦り考えていく。


 その時──、勝手に舞台袖から出てきたのは、青いヒーロー。ギターの演奏と共に現れる予定の彼が、突然舞台の中央へと飛び出して来た。


「おうおう今日のちびっこどもは元気だなぁー。みんな、その元気さで、歌のお姉さんのことをいっちょ応援してあげてくれ!」


 青いスーツのヒーローは、子供たちに語りかけ、まさかの応援のコールを要求した。


 そんなものは台本にはないが、子供たちや観客は知る由もない。ヒーローのお兄さんの声に従って、「マチハラお姉さーーん」のコールを届けていく。


「もっともっとーーっ、よーしもっとマチハラコール、できるぞーっ!」


「まだまだ声援が足りてねぇぞーー、それで全力のマチハラかーーっ、あの雲を飛ばす勢いで頼むぜ?」


 もっともっと青空にある白雲まで散らすような大きな声援をみんなに求めて、青いヒーローは会場を盛り上げる。


「今日のあおばらレンジャー、なんかちょっと口悪くない? 中の人変わった?」

「そう? わたしはアレぐらい、ぐいぐいってタイプの方が好きかもっ」


 青いヒーローの暴走が、結果的に子供たちや主婦たちの熱い声援を舞台の上へと呼び集めた。



 汗ばんでいた指先をストライプの布地に拭く。青いヒーローの足踏みのリズムに合わせて、彼女はギターを叩く。


 高まるボルテージとみんなの声援に、もう──マチハラはギターを掻き鳴らし、喉の奥から込み上げるその歌声でレスポンスした。




「勇気をあげ 旅立つさ」


たたかおう あおばらレンジャー



たった一輪 散ることなく


彷徨いつづけた 時の流れ


闇の中で 咲きつづけた


輝くブルーの戦士



あおばらーーーー

あおばらーーーー


染まった(セイギ)を 拳にこめて


あおばらーーーー

あおばらーーーー


「みんなで 応援してねー!」


(間奏♪)




 ギターのサウンドと共に開演した日曜二時のこどもショー。彼女の青くクールなその歌声が、野外広場の奥まで届き包み込んだ。


 舞台の端で縮こまっていた緊張なんてどこへやら、掻き鳴らすギターサウンドに迷いはない。むしろ、ノリすぎているぐらいだ。


「ふっ、声出てんじゃねえカッ──!?」


 歌のお姉さんの歌に乗り、踊っていたあおばらレンジャーの喉が不意に締まる。


 同じ舞台上で陽気に踊っていたはずの灰色の猫怪人の髭が奇妙にも伸び、青いヒーローの首に巻き付いていた。


 あおばらレンジャーが両手で絡みつくそれを外そうともがいている演技をしている間に、ざらざらとした舌で大きな化け猫が、自分の腕の毛をおもむろに舐め始めた。


 そして──


「──ニャアン♡」


 猫撫で声の後、灰色の猫怪人の口から激しい炎が吹き出す。大きな猫面から放射された炎のブレスは、締め上げ拘束していた青いヒーローのヘルメットを焼いた。


「へっ──!?」


 台本にない肌を熱くする炎の演出に、歌のお姉さんの軽やかに奏でていたギターのサウンドが、一瞬音を外した。










「あおばらレンジャーがやられちゃった……?」


「いや、見ろ。胸の薔薇はまだ散っていない」


 子供たちが驚くも、大人の男客が指を差し指摘するよう、あおばらレンジャーのスーツにあるその胸にある青い薔薇は散っていない。この薔薇が散らない限り、ヒーローは負けることはない。


 皆が緊張の面持ちで見守る中──やがて、猫怪人ビッグキャットマンが口から放った火炎が失せると、そこには少し焦げついたヘルメットを被る健在の青きヒーローの姿があった。


(やけに敵怪人の着ぐるみのクオリティがもふもふでおかしいと思っていたが……なぁーにがビッグキャットマンだ、ただの変化の印の化け猫じゃねぇか、よっ!!)


「ニャオーーん!!?」


 また前足を舐めて余裕をかましていた灰色の猫怪人、あおばらレンジャーはその長く伸びていた髭を引っ張る。


 そして、毛むくじゃらの大きな猫面へとパンチを一発入れた。無事であったあおばらレンジャーは、さらにその有効打のパンチを拳を突き上げ、舞台上から観客たちへとアピールした。


「なんかえらい気合い入ったアクションだな」

「そう? たしかになんかキレがいいかも?」

「今日のあおばらレンジャーさん、それに怪人役のビッグキャットマンもなかなか良い機敏な動きをするな」


 子供たちの歓声に紛れ、何人かの大人たちも舞台上の歌と戦いのショーを唸りながら観ているようだ。


 しかし青いヒーローと灰色の猫怪人、激しい戦いを繰り広げている当の本人たちは──


『おいてめぇ。町原さんが歌ってんだぞ。今度変な火遁を飛ばしてこのスーツを焦がしてみろ、寸止めではすまねぇぞ? よし、お前に俺から新たな任務だ、大人しく俺に合わせてショーの最後まで可愛く踊れ、そしたら命だけは助けてやる』


『ひっ!? わかった!? じゃなくてわかったニャ!?』


 密着していたヒーローと怪人は、密談を済ませた。


 突き出しピタリと止めた拳の前で、耳を垂れ何度も頷く猫頭に、任務を承諾したのを確認すると──。


 あおばらレンジャーは前蹴りを入れる。大人しくなったビッグキャットマンへと気合いを注入しつつ距離を取った。


「あおばらレンジャーぁ、はやくーぅ、必殺技ーー!!!」


(必殺技だと?)


「「「必殺、【薔薇色エブリデイ】!!」」」


(ばらい……なんだそれ聞いてねぇ……本当にそれ必殺技か? お昼の情報番組とかじゃねぇだろうな。ふぅーむ、適当に叫んで殴りゃいいか?)


 大声を張り上げる子供たちからの突然の【必殺技】の要求に、そんなものは聞かされていないあおばらレンジャー役の男は、とりあえず拳を握り敵へと勇ましく構えた。


「いやちがう。あれは、あの構えは……出るぞ──【薔薇薔薇・青・雑殺劇(ざっさつげき)!】」


「ざっさつぅ? おじさんなにそれー?」


「いいか、ぼうず。花弁を一枚一枚散らすような怒涛の十三連撃をたたきこみ敵をバラバラにする。怪人と同じ青き血をその身に宿す孤高のヒーロー、あおばらレンジャーの隠し技だ。ここにはもう十数年は日曜二時に足を運んでいるが、こどもショーでその技を見たのは一度きりだ……それをやろうと言うのか? あの伝説の殺劇を……再びっ……」


 観客の一人であるマニアの男が、また演者の知らない必殺技を唱え出した。


(な、なんだそれ……てかこのマニアの男客はなんだ? しかも軽くネタバレしやがって……はぁ……十三連撃……ひぃふぅみぃ、めい、しつ、はく、──よしだいたいのイメージはできたぞ。ふっ、その元キッズの夢再び叶えてやるよ)


 しかし、舞台上から客席を眺めるヒーローにはその大人の男の熱意溢れる語りよう、真剣な眼差しは、遥か昔の誰か知らない少年のものと同じ輝きをしているように見えた。


 ならばと、イメージし仕上げたその拳を、青きヒーローは再び握り直した。


『じょっ、じょうだんじゃニャぁ!? アレを十三にゃにゃんて、むりむりむりむり──』


 灰色の猫怪人は首を横にぶんぶんと振りアピールするが、知らずか尻尾も同時に振ってしまっている。


 客席も舞台上も、ギターの音も最高潮のノリノリだ。灰色の猫が尻尾を振るほどに喜んでいるならば、全ての期待に応えなければヒーローではない。


「さぁて、じゃあそろそろいっちゃおうかなー……。──必殺!! 【薔薇薔薇ぁーー・青・雑、殺、劇ぃぃ!!!】」


「にゃぎゃぁーーーー!!?」


 疾風怒濤、目にも止まらぬ青き十三連撃が、狼狽える化け猫の体へと、殴り蹴り叩き込まれた。


 宙を綺麗な放物線を描き流れ、やがてどすりと地に落ちる──化け猫の巨体。


 客席からの喝采と共に、灰色の毛がステージ上を粉雪のように舞い、飾っていく。


「あおばらーーーーっ、さよならーーーーっ、来週もまた会いに来てぇ……薔薇ららんっ──♪」


 締めくくる彼女のギターの音に合わせて、客席に向かい、ヒーローは胸にあった一輪の青い薔薇を投げ捨てた。


 心地いい歌声と、キレの良いアクション、日曜二時のこどもショーは、客席からの拍手とコールの鳴り止まない大盛況のまま幕を閉じた────。


肥えても最強忍者をお読みいただきありがとうございます。

この小説を楽しめたって方は、是非ともブックマーク登録と評価感想をお願いします。とてもやる気が……出ます!

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