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第十四話 屋上のカオス

「やっぱりな、俺は女であればあるほど冥力がすこぶる上がっているぜ」


「あぁ? 何さっき廊下で聞いたようなことを言ってやがる。頭でも打ったか?」


 さっき廊下で聞いた同じようなことをまた、目の前に組み伏せられて寝転ぶ金髪女子が、改めて言っている。


 今更そのような印の説明を繰り返しされなくても、大地も彼女のその冥力の変動する性質を認め把握しているところだ。


「はははっ。オイ、お前、俺に協力しろ」


「協力? 何をだ?」


「俺様がもっと強くなるために、〝彼氏〟になって付き合えって言ってんだよ」


 今度は何か、今一瞬耳を疑うワードが大地の耳に入った。藤林蕾華のする思考の遥か斜め上の協力の提案を聞いて、大地の端正な顔が呆れたように歪んだ。


「あぁ……? 正気かお前? 強くなることにそれの何が関係してんだ? だいたいお前元は男だろうが、ふざけんなっ」


「あぁ? 元が男だ女だなんてどうでもいいだろ? ほら、なんせ可愛い。これがタダでもらえたらお得だろ?」


 歯をニッと笑う。そこにいる吊り目の自称可愛い女など実体のある外っ面だけの幻想に過ぎないことを、百地大地は知っている。


「なぁーんの得だ! しかも、割とどうでも良くはねぇ!」


「ははは、焦りやがって! まぁまぁよく聞けっ、つまりッ、ずっと女の状態で冥力のコントロールとパワーをこの調子で鍛えていけば俺様は益々、最強のライトニングビーストになれるってことだ!」


「まるで支離滅裂だな……〝つまり〟の使い方知らねぇだろお前。なら勝手に女でいろよ。俺というクッションをそこにかませる意味がねぇ。無駄な喧嘩ならもう付き合わねぇぞ」


「おいおい同じ変化の印持ちだ、呪いじみたデメリットが自分ではそう簡単に打ち消せねぇのは分かってんだろ? あいにく女になれる当たりの日は、一週間に一度ぐらいの気まぐれなサイクルなんだぜ? ──そこでだ! たった今俺様は気づいたってわけさ。面の良いヤツがこうして近くにいれば、俺はこの女の状態をおそらく長く保てる……と、俺の体から今も湧き出る冥力がそう言っている。ははははこれはノーベル賞級の革命的な発見だ、ははは!!!」


「はぁ? 革命的って、んなわけあるわけねぇだろイグノーベル……。って、お前もうそろそろ手ェ離せ」


「はははは! そっちから襲ってきたのに酷い言いようだな。──やーだよっ♡」


「うげぇ!?」


 イグノーベル賞級にも満たない論説に呆れ苦笑した大地は、倒れ込んだままの蕾華からもう手を離そうとした。だが、彼女はその手を逆にがっちりと掴み、力一杯引き寄せる。


「お前が協力するって言うまで離さねぇ」


「あぁー……ぜってぇヤだ。ぜってぇ無理」


「いんや、絶対お前は俺に協力する! てかそれしかない、決定だ! さっき俺の尾雷を練り返したな? そんなスカした芸を披露したのもその気があるから、俺の底知れぬ強さに興味があるッ、そうなんだろ? 素直になりやがれっはははは」


「あぁーめんどくせぇなこいつ……どんだけ自信──って足絡めんなお前まじで!?」


「はははははおもしれぇ、ぎゅーっ♡」


「ぐげぇ!?」


 力尽くで身を起こそうとするそんな大地の邪魔をするように、蕾華は、その自由になっていた両足を大地の背までしっかりと挟み込み絡ませた。




 なぜ彼らは授業をサボり、屋上で醜いプロレスごっこを繰り広げているのか。


 歪んだ線を引く鉛筆を折り、美術室から天の騒ぎに駆けつけた鶴橋綾子はそれを理解できなかった。


 もはや今映る状況のその一片足りとも分からない。何故そのようになったのかを。


 任務を丸投げし王子として颯爽と去ったあの男と、飼い慣らせない狂犬のような女子(男)。


 暴言と作った女声を吐き合い絡むそいつらのことを、鶴橋綾子は黙って突っ立ち見ていることしかできなかった。


 そんな無言で見つめる鶴橋の視線に今更気づいたのか、それともあえて分かっていながら放置していたのか。取っ組み合っていた二人は、その首だけをメガネを掛けた彼女の方へと向け、一言──。


「「混ざる?」」


「ざけんなっ!」


 起き上がった黒髪の王子に、いつまでもコアラのようにしがみつく金髪女。そんな珍妙なやり取りをする二人に真面目に付き合う必要はない。鶴橋綾子は一言、キレの良い冷静なツッコミを入れた────。


肥えても最強忍者をお読みいただきありがとうございます。

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