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娘の代わりに、産んで。~不妊を装い、実母を『代理母』として利用した悪魔の娘~  作者: 品川太朗


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8/10

第8話:誕生、そして同居


 痛みで、意識が飛びそうだった。


 骨盤が砕けるような衝撃。  全身の血液が沸騰するような熱さ。


「うあああああッ!」


 分娩室に、私の獣のような絶叫が響く。


 二十五年ぶりの出産は、想像を絶する難産だった。  高血圧の影響もあり、母子ともに危険な状態だと医師が叫んでいるのが遠くで聞こえる。


 死ぬかもしれない。  いっそ、このまま死んだほうが楽かもしれない――。


 そんな薄れゆく意識の中で。


 オギャア、オギャア、という元気な泣き声が聞こえた。


「産まれましたよ! 女の子です!」


 助産師さんの声と共に、私の胸の上に小さな、温かい塊が置かれた。


 赤く、皺くちゃで、必死に生きようとしている命。


 愛しい、と思った。  理屈も事情も超えて、ただただ、愛しいと。


 けれど、その温もりは一瞬で奪われた。


「キャー! 産まれたー! 可愛いー!」


 分娩室の隅でスマホを構えていた莉奈が、駆け寄ってきたのだ。


 彼女は私の胸から赤ちゃんをひょいと持ち上げると、慣れた手つきで抱っこした。


「見て健太! 私と健太の子だよ! 超可愛い!」


「お、おお……! 莉奈にそっくりだ!」


「でしょ? あー、よかった。ママ、お疲れ様ー」


 莉奈は私の方をチラリと見ただけで、すぐに視線を赤ちゃんに戻した。


 私は酸素マスクをつけられ、点滴を打たれ、ボロ雑巾のようにベッドに横たわっている。  なのに、世界の中心は完全に「新しい家族」に移っていた。


「よし、写真撮ろ! 健太、ライト当てて!」


 パシャ、パシャ。


 産まれたばかりの我が子が、フラッシュを浴びる。


 莉奈は満面の笑みで、「出産頑張りました♡」というコメントと共に、それを世界中に発信するのだろう。  実際に痛みに耐え、血を流したのは私なのに。


「あ、なんか泣き出した」


 撮影が終わった途端、莉奈が眉をひそめた。


「なんか重いし、腕疲れちゃった。はい、ママ」


 莉奈はぐずる赤ちゃんを、私のベッドの脇に無造作に戻した。


「おっぱいあげておいてよ。私、感動して疲れちゃったから、健太と休憩してくるね」


「え……」


 待って。まだ産後数十分よ?


 私が言葉を発する前に、二人は「名前どうするー?」とはしゃぎながら、分娩室を出て行ってしまった。


 残されたのは、泣き叫ぶ赤ちゃんと、動けない私だけ。


 私は震える手で、我が子を抱き寄せた。  この子は私が守るしかない。改めてそう確信した瞬間だった。


 ◇


 退院の日。  地獄はここからが本番だった。


 自宅に戻ると、リビングには見たことのないダンボールの山が築かれていた。


「え、これ……なに?」


 抱っこ紐で赤ちゃんを抱えた私が呆然としていると、奥から莉奈が顔を出した。


「おかえりー! あ、その荷物? 私たちの服とか」


「……私たちの?」


「うん。今日からここで暮らすことにしたから」


 莉奈は事も無げに言った。


「だってさ、初めての育児だし、ママがいないと不安でしょ? それに、あっちのアパート引き払っちゃったし」


「引き払った!?」


「家賃浮くし、その分ベビー用品にお金かけられるじゃん。パパも『賑やかになっていい』って許可してくれたよ」


 夫の博を見ると、彼は私と目を合わせず、新聞に視線を落としたままだった。  彼もまた、孫(実子)の可愛さと、世間体という隠れ蓑のために、娘の寄生を受け入れたのだ。


「部屋割りだけど、日当たりのいい二階の部屋、私たちが使うね」


「ママは一階の和室で、赤ちゃんと寝てよ。夜泣きとかで健太が仕事に響くと困るから」


 完璧な論理だった。


 美味しいところは娘夫婦のもの。  面倒なところは、すべて私のもの。


「さ、ママ。ご飯まだ? 母乳出すためにも、栄養あるもの作ってよね」


 莉奈がソファに寝転がり、テレビをつける。  健太君が冷蔵庫からビールを取り出す。    私の家なのに。私の子供なのに。


 私は赤ちゃんの重みを腰に感じながら、ふらつく足でキッチンへと向かった。


 こうして、奇妙で歪な「二世帯同居」が始まったのだった。

お読みいただきありがとうございました。


 壮絶な出産。  しかし、喜びも束の間。待っていたのは、娘夫婦による「家の占拠」と「育児の丸投げ」でした。    「産ませる」だけでは飽き足らず、生活のすべてを搾取し始める莉奈。    次回、第9話:『幸せな家族』の奴隷。    一歳になった子供を前に、由美の心身は限界を迎えます。  物語はいよいよ、衝撃のクライマックスへ。

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