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娘の代わりに、産んで。~不妊を装い、実母を『代理母』として利用した悪魔の娘~  作者: 品川太朗


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7/10

第7話:妊婦はつらいよ


 妊娠七ヶ月。


 四十五歳の体にとって、それは想像を絶する重労働だった。


 常に腰は鉛を仕込まれたように重く、足はパンパンに浮腫んで感覚がない。  夜は寝返りを打つたびに激痛が走り、細切れの睡眠しか取れなかった。


 博の体面を守るため、私は「病気療養」という名目で実家に身を寄せていた。  人目を避け、籠の鳥のような生活。


 そんな私の唯一の来客は、莉奈だった。


「ママ、おはよー! 今日も暑いね」


 週に一度、莉奈は「体調チェック」と称してやってくる。  もちろん、手ぶらではない。


「はいこれ、今日の夕飯の材料。健太がママの肉じゃが食べたいってうるさくってさ」


 莉奈がキッチンに置いたのは、大量の食材が入ったスーパーの袋。


「莉奈……。私、今日はちょっと目眩がして、立ってるのも辛いの」


「えー、でも健太、楽しみにしてるんだよ? 妊婦は動いた方が安産になるってネットに書いてあったし、リハビリだと思って作ってよ」


 莉奈は私の体調など、これっぽっちも心配していない。  それどころか、私を「便利なデリバリーセンター」か何かだと思っているようだった。


 ◇


 大きなお腹を抱え、台所に立つ。  煮物の湯気が顔に当たり、吐き気がぶり返す。


 それでも私は、娘夫婦のために包丁を握り続けた。  そうしなければ、自分の存在意義が消えてしまいそうで怖かったのだ。


「あ、そうだママ。赤ちゃんの名前、もう決めたんだ!」


 莉奈はリビングのソファでくつろぎながら、自身のスマホを私に見せてきた。  画面には、キラキラしたベビー服の数々。


「女の子だから『美奈みな』。私の名前から一文字取ったの。可愛いでしょ?」


「……そうね。可愛いわ」


「健太も超張り切っててさ。もうベビーカー買っちゃった。最新の、十万もするやつ!」


 莉奈は楽しそうに笑う。  その光景だけを見れば、幸せなプレママそのものだ。


 けれど、その幸せの土台になっているのは、私の苦痛だ。


 健太君も、たまに顔を出す。  彼は私と目を合わせようとはしない。  ただ、私のお腹に向かって「元気で産まれてこいよ」と声をかけるだけだ。


 そこに「私の体への労わり」は、欠片も存在しなかった。


「あーあ、早く産まれないかな。ママのお腹、もうパンパンじゃん。重そうだね」


 莉奈が他人事のように言う。


「……莉奈、産んだ後のことだけど。しばらくは私も育児を手伝うわよね?」


 私の問いに、莉奈は当然といった顔で頷いた。


「当たり前じゃん。私、育児なんて自信ないし。夜泣きとか無理だよ。ママがこっちのマンションに来て、全部やってよ。私は『外向きのママ』をやるから」


「……全部?」


「そう。授乳は……あ、私、胸の形崩れるの嫌だから完母は無理。ママ、ミルク作って飲ませてね。あ、でもママからも母乳出るなら、それ飲ませれば安上がりだよね!」


 莉奈はケラケラと笑う。


 それは、冗談には聞こえなかった。


 彼女が欲しがっているのは「可愛い赤ちゃん」というアクセサリーであって、育児という泥臭い現実ではないのだ。


 私から「産む権利」を奪い。  次は「育てる義務」だけを押し付ける。


 お腹の中の赤ちゃんが、ポコリと動いた。


 愛おしいはずの胎動が、この時ばかりは、私を食い荒らす寄生虫の蠢きのように感じられて、私は震えながら鍋を見つめた。

第7話をお読みいただきありがとうございました。


 膨らんでいくお腹と、反比例するようにすり減っていく由美の心。  莉奈の「搾取」は、もはや隠そうともしないレベルにまで達していました。


 そしてついに、その時がやってきます。    次回、第8話:命懸けの出産。    四十五歳の高齢出産。  壮絶な痛みの末に由美が手にしたのは、希望か、それとも――。

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