合鍵
妻は峯浩一郎の口から出た【合鍵】が怖かった。
合鍵が作られていたとは露知らず、そのまま引っ越した。
勿論、賃貸だったから「鍵」を替えてから、次の人に貸しているはずだ。
それでも、妻は怖かった。
何時、鍵を見つけて写真を撮ったのか?
誰がそんなことをしたのか?
分からないままだった。
⦅あの人が居なくなってから、家に来た人は……。
佐々木さん。
それから……後輩のお二人。
他に……居ない……。
佐々木さん……なのだろうか?
佐々木さんが?⦆
佐々木に聞きたいと思った。
何もせずに日だけが過ぎて行く。
もう終わった事であり、何も盗られてはいないし、今は住んでいない。
それでも、頭の中に靄がかかり心は晴れなかった。
夫には何も言わずに、相談せずに、妻は佐々木に会った。
「【合鍵】……作ったって言ってましたね。」
「ええ………でも、誰がしたのか分からないままなんです。」
「………………。」
「怖いんです。」
「そりゃそうですよね。」
「だから知りたくて、佐々木さんにお電話しました。」
「そりゃ……そうですね。
俺は何もしていません。
そう言われても信じられないともいます。」
「はい。」
「清々しいほど…ですね。」
「えっ?」
「はっきり話してくれますから……。
今、俺が分かっていることは……一つです。
俺意外にも峯浩一郎の指図を受けていた者が居る。
それだけです。」
「そうですか。」
「他に訪問したのは、俺と一緒に訪問させて頂いた後輩だけですか?」
「ええ、そうです。」
「後、疑わしいのは、後輩か………参ったなぁ……。」
「佐々木さん?」
「済みません!
全ては峯浩一郎がしたことです。
それと、俺もう会社を辞めたんで、後輩に聞くことは出来ません。
辞め方が……なんというか……その……急に辞めたんで……。
実は一回も行ってないんですよね。会社に……。
電話で退職願いを課長に伝えました。
すると、『もう既に退職している。』という答えでして……。
銀行の口座に給与と退職金らしき金額が振り込まれていました。
そんな訳で……会社の後輩ともそのままで、メッセージもブロックされてます。
ですから、済みません。
お役に立てなくて申し訳ありませんが、何も出来ません。」
「いいえ……佐々木さん、ありがとうございます。」
「いえ、お役に立てなくて申し訳ありません。」
佐々木と話して帰宅するまでの間、妻は佐々木を排除した後の二人を疑った。
疑っても今更のことだと分かっている。
そして、苗字を思い出そうとした。
会社に電話を架けて、その後輩達が今も会社に居るのなら話したい―そう思った。
何を聞きたいのか分からない。
聞きたいというよりも訴えたかった。
「怖いのだ。」と……。
そういうことをしたのだ―と知らしめたい。
ただ、それだけだった。
今の妻の姿からは、夫が失踪した当初の弱さは無い。




