麻都香
麻都香の婆やの坂田静子から連絡が入ったのは、麻都香が急に訪ねて来た日から2週間も経っていた。
「先日は大変ご迷惑をお掛け致しました。」
「いいえ、その後、何かありました?」
「峯浩一郎様からお嬢様にご連絡がございました。」
「そうですか!」
「日時と場所につきまして、この電話の後に当家のパソコンから詳しくお伝え致し
たく存じます。
つきましてはメールアドレスを教えて頂けませんでしょうか?」
「お伝え致します。○○○○@………です。」
「複勝致します。○○○○@………でございますか?」
「はい。」
「承知致しました。お送りさせて頂きます。」
「宜しくお願い致します。
所で、麻都香さんはその後……お具合は……。」
「お嬢様は記憶の一部が失われておりまして、現在は入院中でございます。」
「そうですか。」
「誠に申し訳なく存じます。
妊娠もしておられません。」
「……妊娠していたとしても僕の子ではありません。」
「勿論でございます。
誰の子も妊娠していらっしゃいません。」
「では、嘘を?」
「いいえ、想像妊娠のようなものだと……思います。
お嬢様は夢の中で過ごされているように……思います。
加納様と結婚して、加納様のお子さんを身籠っている夢の世界に……。
お嬢様の夢の世界でございます。」
「………………。」
「医師の診断は伺っておりません。
私は辞めた身でございますから……。
妊娠につきましては、妊娠していないことの確認を旦那様がなさいました。
自宅へ産婦人科医を招き診断を……。
それは、旦那様の口から伺いました。」
「そうですか。」
「旦那様がお嬢様を精神科のある総合病院へ入院させられたことも伺いました。」
「加納様への連絡だけは私にさせて下さいましと、旦那様にお願い致しました。
それで、このように連絡をさせて頂いた次第でございます。」
「そうですか……ご連絡、ありがとうございました。」
「峯浩一郎様とのお話合いが上手く終わりますよう、祈っております。」
「ありがとうございます。」
「最後になりましたが……
お嬢様が多大なるご迷惑をお掛け致しましたこと……心よりお詫び申し上げま
す。申し訳ございませんでした。
どうか、奥様にその旨お伝えくださいまし。」
「承知しました。」
「どうかお健やかでお幸せにお暮し下さいまし。」
「婆やさんも……御元気で……。」
「ありがとうございます。
では、失礼致します。」
麻都香がどうして記憶を失ったのか、何時から記憶を失ったのかは分からないままだった。
ただ、入院したということは何らかの精神的な治療を要する状態だったのだと夫は思った。
妻に話してから、パソコンを起動した。
婆や……坂田静子からのメールが届いていた。
メールをコピーして、佐々木へメールを送った。
指定された日時に、指定された場所へ妻と二人で向かう。
まだ日があるというのに、今から緊張していることに気付いた妻だった。




