全員集合?
妻が出した物を無邪気に食べる麻都香。
何も出来ずに、申し訳なさで俯いたままの佐々木。
「ねぇ、まだ先生は帰って来ないの?」
「仕事が忙しいのだと思います。」
「そうなの?」
「はい、そうですよ。」
「ふぅ~~~ん。」
佐々木は呟いた。
「あんな幼い話し方……初めて聞いた……。」と……。
妻には、その呟きは聞こえなかった。
「先生……まだかなぁ……早く帰って来て。」
鍵を開ける音の後に玄関ドアが開く音がした。
「美月!」と妻を呼ぶ夫の声がした。
「先生っ!」
「美月っ! 大丈夫か?」
「先生!」
「大丈夫よ。」
「陽向は? お義母さんが?」
「ええ、連れて行ってくれたわ。」
「良かった……。」
「先生っ!」
「加納……済まない。」
「佐々木、お前は何もしてないじゃないか。」
「先生っ!」
「麻都香ちゃん……。」
「先生っ! 待ってたの。」
「麻都香ちゃん、待ってくれても俺は加納美月の夫だよ。」
「違うわ! 私と先生は結ばれる運命なの。」
「違うよ。そんな運命は無いんだ。」
「私! 先生の赤ちゃん、居るのよ。」
「そんな訳ないじゃないかっ!」
「居るんだもん。」
「俺と麻都香ちゃんは、そんな仲じゃないだろう。」
「そんな仲よ。」
「ふぅ――っ、前と同じ会話になるのかな。
麻都香ちゃん、俺は君を女性として見たことは一度も無い。
俺にとって君は大学の頃の家庭教師先の女の子というだけなんだ。」
「嘘よっ!」
「何度も言ってるよ。
大学の時も、北海道でも、言った。」
「先生は言ったわ。」
「何て?」
「大事って……。」
「えっ?」
「試験の合格した時、先生言ったわ。
大事なんだって……言ったわ。」
「えっ? 大事?」
「覚えてないの?
先生、パパやママの代わりに一緒に合格を祝ってくれたの。」
「あぁ……そうだったね。」
「その時に言ったの。
大事だって……。」
「えっ?」
「加納、言ったのか? 言ってないのか……覚えてないのか?」
「全く記憶にない。」
「あの……その大事が……今もずっと……と?」
「そうよ。先生には私だけなの。
私には先生だけ……うふふっ……だから、貴女は居なくなって!」
「居なくなられたら俺が困る。
俺の妻は美月だけだから……傍に居てくれ。ずっと……。」
「どうして? どうしてよぉ――!」
麻都香は泣き叫んだ。
インターフォンが鳴った。
妻が出ると、高齢の女性が「夜分恐れ入ります。私は麻都香様にお仕えしておりました坂田静子と申します。」と名乗った。
「婆やさん……ですね。」
「はい。左様でございます。」
「お待ちください。」
「はい。恐れ入ります。」
麻都香の世話をしていたという坂田静子がリビングへ入った。
妻は思った。
⦅これで、全員かしら?⦆




