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息子と若い女性

テレビではどの局のニュースや情報番組で、夫が提供したあの事件が報じられている。

議員たちは「身の潔白を……。」とか「それは秘書に……。」を繰り返している。

そのうちに検察庁が動き始めて、事は大きくなって「議員の逮捕」があるのではないかとの憶測を呼んでいる。

勿論、逮捕者は夫の会社からも出るだろう。

会社はペーパーカンパニーなどを経由して、議員たちに金銭を流していた。

そして、国や県が関わる仕事を請け負った。

テレビを見ている時の夫は険しい顔になっている。

自分が関わった仕事であり、内部告発をして閑職に追いやられて間もなく退職を余儀なくされた。

そのきっかけの事件だ。


「下の者は何も知らなかったんだ。

 知らずに仕事を懸命にしていたはずだ。

 ……あんな風にマイクを向けないで欲しい。

 俺は……何人の従業員の仕事を奪うのだろうか……。

 会社は……事業縮小せざるを得ないかもしれない。

 解雇される人が出たら……俺の責任……だ。」

「あなた……。」


俯いた夫に息子は近づいて「パパ、痛いの?」と聞いた。


「ううん、痛くないよ。」

「ほんと?」

「本当だよ。」

「痛かったら、僕が治してあげる。」

「えっ………ひ―くんが?」

「うん、僕ね。

 『痛いの、痛いの、飛んでけ~っ!』が上手なんだよ。」

「そっかぁ……じゃあ、パパが痛い時は頼むよ。」

「うん!」


妻が離婚を回避したのは息子の為だった。

息子は妻と夫にとって唯一の(かすがい)なのだ。

妻は忘れられない。

北海道の元カノのこと、夫の子を妊娠したと言った佐々木の妻のこと。

ただ、佐々木の妻に対して⦅何も無かったのかもしれない。⦆と妻は思っている。

妊娠したと佐々木には告げたのに、肝心の夫に何も言って来ないからだ。

妻に対しても何も言って来ない。

もし、事実ならば夫が戻ってくるまでに妻にも何か行動を起こしているはずだと妻は思っている。

事実ではない可能性が大きいように思えて妻は⦅佐々木さんと離婚したいから嘘を言ったのかな?⦆と思い始めている。



そんなある日、息子が泣きながら帰って来た。

妻の母は優しく泣き止むまで待った。

そして、泣き止んでから聞いた。


「ひーくん、どうしたの?

 何があったか、ばぁちゃんに教えて。」

「ばぁちゃん……ママ……いなくなるの?」

「へっ?」


息子は、より大きな声で泣き続けた。

背中を優しく撫でながら、尚も聞いた。


「ママは居なくならないわよ。」

「ほんと?」

「ほんとよ。ママがひーくんを置いて居なくならないわ。

 どうして?

 どうして、ママが居なくなると思ったの?」

「………まーちゃんがね……言った。」

「まーちゃん?」

「まーちゃんが僕のママになるんだって……言った。」

「まーちゃん? まーちゃんって誰?」

「まーちゃん……。」

「ひーくん、まーちゃんのお名前分かる?」

「分かんない。分かんないよぉ―――っ。

 うええ~~~ん。」

「ひーくん、大丈夫よ! 大丈夫!

 ママは居なくならないわ。

 それにね、まーちゃんがママにならないわ。」

「ほんと?」

「ほんとよ。ひーくんのママは、ママだけよ。

 ひ―くんのママは加納美月だけよ。」

「…………うん。」


妻の母は、泣き止んでから妻に連絡のメッセージを入れた。

妻は帰宅途中でメッセージを読み、息子の身体に怪我など無いかどうかのメッセージを送信した。

怪我が無かったことを返信メッセージで確認した妻は、その点だけ安心した。

妻の頭の中に思い浮かんだ名前は………麻都香(まどか)……。


⦅麻都香……なら、まーちゃん………。

 ………佐々木さんの奥さんの麻都香さんなの?⦆


妻は直ぐに夫にメッセージを送った。


「陽向が今日、学童保育からの帰り道で若い女性に『ママが居なくなり、私がママ

 になる。』と言われたそうです。

 私は帰宅途中です。

 若い女性のことを陽向は、まーちゃんと呼んでいます。

 万が一、まーちゃんが麻都香さんだったら、あなたの責任です。」


そのメッセージを夫に送り、妻は自宅へ急いだ。

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