一人っ子
妻は息子と迎えに来た夫の車に直ぐに乗った。
それを遠くで見つめる2つの瞳に気付かぬまま、車は夫の実家へ走った。
夫の両親の心温まる出迎えを受けた。
一人っ子の夫をまるで婿養子のような形の妻の両親との同居だった。
妻も一人っ子である。
一人っ子同士の結婚。
妻は義両親の本心は、以前のように両家の中間で暮らすことを望んでいると思っている。
謝り続ける義両親に妻は⦅もう謝って欲しくない。⦆と思っている。
義母は自宅で入院を控えている。
義母は早期の胃がんが集団検診で見つかった。
ステージ1aの胃がんで内視鏡での治療を控えている。
孫息子に会うのが義母にとって最高の幸せなのだと夫は言う。
義両親の家で息子は「胃がんに罹患した」ことで、義母は周囲を安心させようと無理をしているように義父も夫も感じていた。
無理に笑顔を見せているように感じていたが、愛する孫息子の訪問は義母から無理な笑顔を消し去って、自然な笑顔にしていた。
大きな声で朗らかに笑う義母を見て、妻は息子を連れてきて良かったと心から思った。
義両親の家から自宅に帰り、義母の入院日には三人家族と妻の両親とで病院へ見舞った。
内視鏡手術の日も、退院の日も三人家族と妻の両親の5人で見舞った。
妻は義母が入院中に夫と共に息子を連れて幾度も見舞った。
義母が退院してからは日常の生活に戻った。
夫との再構築は難しかった。
元の心に戻ることは無理なように妻には思えた。
寝室を別にしたままなのが、その現れだった。
それからも息子はあの若い女性と幾度か会っている。
そのことを妻も夫も知らなかった。




