忍び寄る足音
妻と息子……そして夫……3人で暮らすようになった。
息子は毎日「パパが居る!」と喜んだ。
妻は笑顔の息子を見て⦅これで、良かったのよ。ひーくんに笑顔が見られるもの……。⦆と思った。
⦅夫婦として元に戻るのは難しい。無理……。⦆という気持ちが妻に残っているまま暮らし始めた。
暫くすると息子が小さな可愛い犬のぬいぐるみを持って帰宅した。
仕事を終えて帰宅した妻に息子は目を輝かせて、そのぬいぐるみを見せた。
「ママ! このぬいぐるみ、貰ったの。」
「そう、可愛いわね。
誰に貰ったの?」
「あのね、お姉ちゃんに貰ったんだ。」
「お姉ちゃん?」
「うん!」
「どこのお姉ちゃん?
ママ、お礼をしたいから教えて。」
「う~~~ん、どこの?
分かんない。」
「お姉ちゃんが誰か分からないの?」
「うん。」
「お名前も?」
「うん。」
「………えっと……ひーくん、そのお姉さんとは何時からお話するようになった
の?」
「う~~ん、分かんないや。」
「そう………。」
「でもね、優しいお姉ちゃんだよ。」
⦅お姉ちゃんってことは……6年生くらい? それとも中学生?⦆
「………ひーくん、他の子も貰ったの?」
「僕一人だったよ。」
「ひ―くんだけが貰ったの!」
「うん、僕一人だけだったよ。」
「お友達、一緒に居たでしょう?」
「ううん、やっちゃんはお休みだったから僕一人だったよ。」
「一人で帰って来たの?」
「うん。」
⦅まだ、暗くなってない季節だけど……一人は危ないわ。⦆
「そうだったのね。こっちへは、やっちゃんと二人なのよね。」
「うん!」
「迎えに行ける日は、迎えに行くわね。」
「いいよっ! 僕、もう小学生。」
「そう?」
「パパは?」
「パパは遅くなるって連絡があったわ。」
「えぇ―――っ! パパ、遅いのぉ!」
「お風呂の時間には帰って来るって!
お風呂は一緒に入れるわよ。」
「8時までにパパ帰って来るんだよね。」
「間に合うと思うわよ。」
「いっぱい、お話したいんだ。」
「そうなの?」
「うん!」
「晩御飯にしましょう。」
「うん!」
「手を洗ってね。うがいもね。」
「はぁ~~~い。」
その日から息子は「お姉ちゃんに会ったよ。」と言うことが増えた。
母親である妻にとって、どこの誰か分からない女性だ。
それでも、妻は不安に苛まれることは無かった。
年齢も定かではない。
⦅子どもの知り合いと親の知り合いは違う場合があるから……若い女性だったら心配しなくても大丈夫。きっと……。⦆と妻は思った。
何某かの事件を起こしてきたのが男性ばかりだと思っていたからだった。
誘拐しかり、性犯罪しかり……だからだ。
このことを夫には話していない。
再構築中の夫との仲は、ぎこちないからだ。
どちらも一緒に暮らしていた新婚の頃には戻れていない。
もう、戻れないのだろう。




