再構築
食事をしている間、二人は息子のことだけ話した。
妻はまだ聞きたいことがあったが、食べ終わってからにしようと思った。
店員が料理を運んできた時に妻は「あの……この店、何時間居られますか?」と聞いた。
「2時間でございます。」と答えてくれた店員に妻は「ありがとうございます。」と言って、夫に向き合った。
「2時間ですって……。」
「後1時間か……。」
「食べ終わってないけれども聞きたいことがあるの。」
「聞いてくれ。何でも答える。」
店員が出て行ってから妻が重い口を開いた。
「………あなたは……信じてくれって何度も言うけれども……。
私は信じられないの。どうしても………。」
「……そうだろうな……。」
「………本当に抱き締めただけ?」
「………うん。」
「Kissは?」
「……………して」
「したのね。」
「美月………。」
「ハッキリ言えないでしょう。
間が開いたから……その沈黙が事実を物語ってるわ。」
「…………してないよ。」
「嘘よね。」
「……俺からは……。」
「じゃあ、されたって言うの?」
「うん。」
「確かめようがないじゃないの。」
「そうだな。でも! 俺からはしてないし、一回限りだった。」
「愛してるのに別れた女性でしょう。
心は残ってたから抱き締めてKissしたのよ。」
「別れてから彼女は直ぐに北海道へ帰ったんだ。
それからは想い出は残ってたけれども……心は次第に離れていった。
美月、お前に出逢ったから……忘れられたんだ。」
「………本当?」
「本当だ。
恋の上書き?……出来たんだ。
お前のお陰で………。」
「じゃあ、どうして私には何も言ってくれなかったの?」
「守りたかったからだ。
恐怖があった。
両親にも迷惑を掛けられないと思ったし、美月と陽向には俺が感じた恐怖を感じ
ることなく暮らして欲しかった。」
「北海道で会えたのに……それから、どこへ行ったの?
1年間も音信不通で……また行方不明になって……。」
妻は泣き出していた。
瞼は涙で一杯になっていた。
夫は席を立ち、妻の隣へ行き、妻の涙をハンカチで拭った。
そして、妻の肩を抱き締めた。
「ごめんな……週刊誌に出ると分かってから北海道を出たんだ。
それからは、週刊誌の取材を受けるために出版社が指定した所で暮らしていたんだ。
秘匿事項だったから、誰にも居場所を教えないことを条件で……。」
「どこに居たの?」
「週刊誌の編集長が用意してくれたワンルームマンション。
住民票は……俺の実家に移したんだ。」
「えっ? それ、お義父さん知ってるの?」
「伝えた。」
「教えて貰えなかったわ。」
「秘密にして欲しいと頼んだ。
記事が出て俺が美月を迎えに行くまで、話さないで欲しいと頼んだ。」
「お義母さんも知ってたの?」
「母さんは知らないよ。」
「じゃあ、お義母さんにも内緒にしたの?」
「うん。出版社でも調査してたみたいだから……。
大掛かりなものになったんだ。
内部告発を握りつぶした会社があることを出したかったんだけど……。
思わぬ展開になったんだ。」
「そうだったの……。」
「俺は就活もしてたから……就職出来ない間は迎えに行けない。」
「どうしてよ。」
「?」
「夫婦って助け合うものでしょう?
あなたが就活をしている間、私は働いてるんだから生活出来るわよ。
まぁ……あなたほどお給料は貰えてないけど……。」
「美月!」
「それに、私を守る為って大義名分のように言うけど……。
私とひーくんからしたら、捨てられたのよ。」
「済まない。」
「………これから、あなたは……どうしたいの?」
「美月と陽向と3人で暮らしたい!」
「北海道の人は? もう、いいの?」
「もう、ずっと前に過去の女性になってる。」
「不倫は……例え心の不倫でも私は許さないから!」
「分かってる。」
「もう、二度と嫌だから……。」
「分かってる!………美月……あの……俺と……。
俺と結婚を続けて下さい!」
「……ひーくんがね。
パパと一緒に暮らしたいって言うのよ。
ひーくんに免じて、もう一度……。」
「美月!」
3人でもう一度……と夫婦は決めた。
店を出てから夫婦は夫と家に帰った。
妻が息子と暮らす妻の実家に帰った。
再構築が可能かどうかは誰も分からない。
そう、夫婦を見つめている瞳にも分からない。




