妻と息子……と、夫
妻にとって何よりも大切な存在は息子である。
息子さえいて居れば妻は生きていくことが出来る―そう思った。
涙が流れ落ちる。
⦅私が妻なのよ。
それなのに……何も知らなかった。
何も教えてくれなかった。
妻の私が知らないのに……他の二人の女性が知ってた。
どこに居るのか……何をしているのか……。
妻は私よ!
何も知らず、何も伝えられず、捨て置かれた私は………妻?
………6年間も離れて……夫婦らしいことは全く無かった。
夫婦だったかな?
会話すらなかったのに……たった一度だけよ。
会った時、北海道で会った時に……会話しただけ……。
そんなの……夫婦って言えるの?
……………どうして? どうして泣いてるの?
海斗さんの前では泣いてないのに……どうして?
悲しいから?
悔しいから?
………それとも愛しているから?
分からないわ……私、自分の気持ちが分からない。⦆
妻は息子の傍で一晩過ごした。
両親には何も話さなかった………話せなかった。
夫は翌日、会いに来た。
息子は喜んだ。
息子を連れて3人で出掛ける。
それが辛いと妻は思った。
公園でボールで遊んでいる夫と息子を妻は見ていた。
離れたベンチに座って見ていた。
「こんにちは。」
「!………こんにちは。」
「良いお天気ですね。」
「……ええ、そうですね。」
「息子さんはパパとサッカーを?」
「ええ、そうです。」
「可愛いお子さんですね。」
「ええ、親の私にとって誰よりも可愛い息子です。」
「そう思えるんですね。親になると……。」
「ええ。」
「私も、そう思うのかしら?」
「……不躾ですが……赤ちゃんが?」
「ええ! そうなの。
大好きな彼の赤ちゃんが私のお腹の中に居るの!
こんな幸せって……私、幸せだわ。」
「そうですか。それは、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」と言って満面の笑顔で、初めて会った女性は立ち去った。
妻は羨ましかった。
誇らし気に、そして優しく大切そうにお腹を優しく撫でる姿。
それは、息子を妊娠中の妻自身の姿だった。
⦅あの頃は……あの人と同じだったのに……。
もう変わってしまったわ。⦆
息子が走って「ママぁ~~!」とやって来た時に、泣いている自分に妻は気付いた。
急いで涙を拭い、笑顔を息子に向けた。
夫は息子の後からやって来て息子に聞いた。
「もう、いいのか?」
「うん………いいよ。
だって、ママが寂しそうだから……。」
「ひーくん。」
「ひーくんは優しい……いい子だな。」
「だって、ママ、見てるだけだもん。
寂しいよね。」
「寂しくないわ。ひ―くんが居るから!」
「パパも居るよ。」
「そうね、パパも居るわね。」
「昨日と今日、パパとママと一緒!」
「そうね。」
「パパは嬉しいよ。」
「僕も! 嬉しい!
毎日、パパと一緒がいいな。
お仕事、遠くから近くになったらいいのに………。」
「ひーくん……。」
「……………………………。」
「ねっ! ママもそう思うでしょ!」
「えっ?」
「聞いてなかったの? もお!
ママもパパと一緒がいいよね。
早く、遠くのお仕事から近くのお仕事になって欲しいな。
ねっ! ママ。」
「………そう……ね。」
妻は胸が苦しくなった。




