親心
妻の父と母が義父の連絡を受けて、やって来た。
妻は両親と泣いた。
気が付くと幼い子のように声を上げて泣いていた。
「海斗君が辞めたというのは本当ですか?」
「それを明日、確かめます。」
「お願いします。」
「お義父さん、私も聞きたいです。」
「勿論だ。美月さんこそ聞かなきゃならない。」
「はい。」
「気を確かにね。」
「うん、お母さん。」
「美月をよろしくお願いします。」
「はい。バカな息子のせいで……本当に申し訳なく思います。」
「お義父さん……お義母さん迄……。」
義両親が床に座って頭を下げた姿を見た妻は哀しくて辛かった。
「止めて下さい。」
「どうか頭を上げて下さい。
それよりも警察には届け出られたんですか?」
「はい。電話で相談し、先ほど警官の訪問を受けて捜索をお願いしました。
今は行方不明届というそうです。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「それで、警察はどのように?」
「行方不明者が成人なので、明確に事件性が認められなければ、一般行方不明者に
振り分けられるということでした。
一般行方不明者は、積極的な捜索がなされることはないそうです。
データを全国で共有し、他の捜査や職務質問などで見つかった場合のみ届出人に
連絡されるそうです。
成人ですので、もし見つかっても……本人の意思が……
『戻らない。』と……いう場合、無理に戻せないということでした。
データベースには入れて頂けましたが、見つかるかどうかは分かりません。」
「そうですか……見つかって欲しいですし、戻ってきて欲しいです。」
「……ありがとうございます。
これからのことですが……。」
「はい。」
「先ずは、退職しているのなら退職金が僅かでも出ていると思います。
それを息子の口座に入っていると思うのですが、どの銀行の口座か知りたいと思
っています。」
「それは大切なことですね。」
「はい、全額、美月さんが受け取るべきだと思いますので、どこの口座か教えて貰
いたいと思っています。
警察に行方不明者として届けましたので、個人情報保護など無視して欲しいと思
っています。」
「そうですね。
でも、誰か知人友人宅に身を寄せているということはないのでしょうか?」
「私達が知っている海斗の友人知人には妻と遠方に居る娘とLINEなどを通して連絡
を取ったのですが、残念なことに何方もご存知ではありませんでした。」
「そうですか………。
美月、お前、一緒に暮らしていて何も気付かなかったのか?」
「……ごめんなさい。」
「そうか……何も気が付かなかったのか……。」
「それは無理ですよ。ひーくんのことで美月ちゃんは大変だったと思うんです。
だから気が付くのは無理ですよ。
初めての子育てで大変だったでしょう、ね。」
「……お義母さん……。」
ちょうど、その時、隣の部屋のベビーベッドで寝ている息子が泣き出した。
「あ……。」
直ぐに隣の部屋に行った姿を見て、「母親になったのよね。」と母が呟いた。
「母になったのだから、どんなことがあっても子だけは守り切らんと。」
「本当に……あの子を私達が支えましょうね。お父さん。」
「何を当たり前のことを言う! 我が娘……大切な娘……。
親が支えなくて、どうする!」
「本間さん、どうかお願いします。
私は息子を探すことに力を注ぎます。」
「加納さん、海斗君を探すこと、お願いします。」
「はい。」
夫はスマホを置いて行った。
置いてあるスマホに海斗の母が気付いた。
スマホが置かれたまま出て行った夫。
二度と戻らぬつもりで出て行ったことを、置き去りにされたスマホが物語っていた。




