闇
三人で過ごす時を持つようになって間もなく、佐々木から夫のスマホに電話が架かって来た。
「加納、お前スマホに一度も出なかったのに……。
今なら出られるのかよ。」
「済まなかった。
着信履歴見てビックリしたよ。
こんなに心配かけてたんだな。」
「心配?」
「うん? どした?」
「いいや……何でもないよ。
加納、会えないか?」
「おう! いいよ。何時にする?」
「奥さんも一緒に……そうだな、ひーくんも一緒に。」
「えっ? 美月とひーくんも?」
「三人家族、仲が良い所を見たんだよ。」
「そっか……心配掛けたもんな。
美月に話すよ。」
「そうしてくれ。頼むよ。」
「おう。」
日時と場所が決まった。
何故だか、場所は動物園だった。
動物園だったので、妻も夫も佐々木が妻子を連れてくると思っていた。
だが、佐々木は一人だった。
「おはよう……。」
「おはよう。
奥さんも、ひーくんも、おはようございます。」
「おはようございます。」
「おはようございます。」
「ひーくん、おじさんのこと、もう覚えてないよね。」
「……パパのお友達……ってパパが言ってたよ。」
「うん、パパのお友達だよ。
ひーくんが1歳の頃に会ったんだよ。」
「そなの?」
「そうだよ。」
「えっ?」
「そうですね。うちに来て下さった時に……お会いしたのよ。」
「二度目なの?」
「そう……二度目だよ。
あの時……スーツ姿の大人が3人で会ったんだよ。」
「ふぅ~~ん。」
「ひーくん、おじさんを見て『パパ』って言ったんだよ。」
「えっ?………パパって……佐々木を?」
「おう! 初めてのパパ呼びだったんだよな。」
「ええ、そうでしたわ。」
「なんで? 僕、おじさんをパパって言ったのかな?
パパじゃないのに!」
「そうよね。あの頃は保育園でお迎えに来る他のお父さんを見てたからだと思う
わ。
みんな『パパ』って呼んでたの。
ひーくんは、お友達の真似をしただけよ。」
「パパが傍に居たら、おじさんのことをパパって呼ばなかったはずだよ。」
「そうよ、ひーくん。」
「………パパはお仕事が終わって帰って来たんだよ。」
「そうだよね。良かったね、ひーくん。」
「うん!」
「………佐々木、奥さんとお子さんは?」
「後で話すよ。」
「……分かった。」
不思議なことに息子は、佐々木とも手を繋いだりしていた。
「元来、人懐っこい子だから……。」と妻は夫に話したが、夫は「俺が家を出なかったら良かったんだな。」とポツリと呟いた。
息子は興奮冷めらやぬままの帰宅だったが、電車に揺られていると眠くなったようで寝てしまった。
このまま妻は帰宅するつもりだった。
その妻に佐々木が話があると言った。
「加納と奥さんに話があります。聞いて欲しいので、ひーくんが寝てからでも聞いて貰えませんか?」と言う。
妻は不安に思いながら、佐々木の「これで最後です。もうお目に掛かりません。」との言葉に、佐々木の伝える内容が重大だと思った。
「息子が寝てからで良いのでしたら……遅くなってしまいますが、お話を伺いま
す。」
「加納、お前は聞くんだろうな。」
「……分かった。聞くよ。」
帰宅して夕食を終え、後は両親に息子を任せて妻は家を出た。
向かう先は夫の家だった。
初めて妻は夫の家に入った。
「ありがとうございます。奥さん……。」
「いいえ……あの……お話って何でしょう?」
「………何の話なんだ?」
「実は妻が家を出てしまったんです。」
「えっ?」
「…………………………。」
「今、離婚に向けての話し合いをしています。」
「そうなんですか……それで、今日はお一人だったんですね。」
「ええ、そうです。」
「…………………………。」
「離婚の原因は、加納、分かるだろう?」
「えっ? どうして主人が…………?」
「加納、お前の6年間を支えたのは、俺の妻だろう!」
「………あの……それは……どういう?
佐々木さん! どういう意味ですか?」
「加納! 奥さんに全てを話せよ。」
「……………………………。」
「あなた……どういう……知ってるの?
佐々木さんの奥さんのこと………。」
「おいっ! 全てを曝け出せよ。
加納! 何か言うことは無いのか?」
「………………佐々木……………。」
「あなた……。」
「美月………俺は…………。」
闇が妻を覆った瞬間だった。




