海斗
離婚を求めている妻に夫は、「別れたくない。」と伝え続けた。
「北海道での最初の2ヶ月ほど、彼女のお父さんが契約してくれたアパートから出
られなかった。
俺がお世話になっていることを知られたら、迷惑を掛ける…そう思っていた。
出られない間、俺の世話をしてくれたのは彼女だった。
何故、元カノに頼ったんだ、と思うのは当たり前だ。
今の俺なら、そんなことはしないと言い切れる。
だけど、あの頃の俺は兎に角、身を潜めたい一心だった。
アパートを出られるようになってから、時が経てば経つほど……
俺の心の中に……恋の残り火が燃える……そんな心の動きもあった。
でも、思い出すんだ。
赤ちゃんのひーくんを……今、どんな風に大きくなったのか……。
ひ―くんを抱く美月の笑顔が目に浮かんだ。
だから、俺の心は大学の頃の恋の残り火が燃え上がることは無かった。
もしかしたら、彼女はそれを望んでいたのかもしれない。
だから、俺は彼女に対しても不誠実だった。
早く元に戻りたいと思った俺は、彼女のお父さんに頼んで働かせて貰って……。
お金を貰った。
正式な給与というものだったとは思えないが、それでタブレットを買おうと思っ
た。
そう話したら、酪農場にあるパソコンを使っても良いと言って頂けた。
それで、村上に連絡したんだ。
村上の連絡先は彼女が知っていたから、教えて貰って村上にメールアドレスを聞
いた。
彼女は大学の友人たちと俺を探してくれてた時に、村上と繋がったらしいんだ。
俺は大学の頃の友人達に連絡をして、そして村上にも……。
そして、あのことを表に出す為に村上と一緒になって……。
主に動いてくれたのは村上だったんだ。
スマホが届いてから、俺は北海道を出たんだ。」
「私達に会ってからよね。」
「うん。」
「北海道では彼女と彼女のご両親の世話になった。
感謝してる。」
「恋の残り火……燃え上がったんじゃなくて?」
「燃え上がってない!」
「無責任よね。あなた……。」
「うん、返す言葉が無いよ。」
「元カノさんにも、私とひーくんにも……。」
「うん、その通りだ。
……遅すぎるけど、今から責任を取らせてくれないか?」
「元カノさんはいいの?
あちらへの責任は?」
「世話になったけど、それは彼女よりも彼女のお父さんに……だから……。
それに美月が思うような世話にはなっていない!
男と女には一度もならなかった。
信じて貰えないだろうけど……。」
「………今……直ぐに……離婚は出来ないね。」
「美月! じゃあ……。」
「籍は入れたままで、このままで暫く……居ましょう。」
「それは、三人で暮らせないってこと?」
「このまま私とひーくんは私の両親と暮らすわ。」
「美月……会えないのか?」
「会うのは、自由よ。
あなたが、ひーくんに会いたかったら会ってあげて。
何よりも、ひーくんがパパに会いたい!って言ったら会ってあげて!」
「勿論! ひーくんとは離れたくないんだ。もう二度と……。」
「…………………。」⦅ひ―くんには……ね。⦆
「美月には? 会えない?」
「ひーくんと会う時は一緒に……。」
「そうか! 会えるんだ!
………別居…………いいよ。それで!
離婚しなくて良いなら、別居でいい。」
「……いいのね。」
「うん、いいよ。」
妻と夫は離婚せずに別居することにした。
夫は探していた三人で暮らせる賃貸マンションに居を構えた。
三人で出掛ける日も多い。
夫は⦅いつの日にか三人家族で暮らしたい。⦆と願っている。
妻は穏やかな暮らしが続くことを祈っている。
テレビでは今も国会議員、県会議員と会社との話題で持ちきりだった。
検察が動いたからだった。




