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愛息

離婚すると決めた妻。

離婚したくない夫。

口を挟まずに見守っていた妻と夫の両親たち。


「美月さん、済まない。」

「お義父さん……お義父さんにはお世話になってばかりでした。

 謝って頂くようなことはありません。」

「いいや、全てを謝罪します。

 そして、口を挟むべきだと思った。

 それについても済まない。

 一言だけ息子に、海斗に伝えさせて下さい。」

「分かりました。」

「海斗。」

「はい。」

「海斗が居なくなってからも、お前と暮らした家を美月さんは出なかったんだ。

 出るきっかけの一つに美月さんが体調を崩したこともあった。」

「美月が……大丈夫なのか?」

「今は大丈夫よ。」

「お前を北海道で支えたのが大学の頃に付き合っていた女性だった。」

「違う! そんな関係じゃない!」

「海斗、違うと幾ら言っても誰も信じない。

 不倫だという証拠が無いとお前は言うだろうが、不倫でないという証も立てられ

 ないじゃないか。

 お前は美月さんを不幸にした。

 お前が居なくなってからの美月さんを支えたのはご両親だ。

 お前は捨てたんだ。捨てた後だから、何もしなかった。」

「父さん……証は立てられないけど何も無かったんだ。

 俺は彼女のことを愛していない。

 美月だけなんだ。」

「離婚に同意しろ。

 美月さんの心を大切にしろ。」

「父さん……。」


妻の母の明るい声がした。


「ねぇねぇ、ご飯にしませんか?

 折角の鰻が冷めてしまうわ。

 離婚の話はこれから時間を掛けてした方がいいのじゃないかしら?

 先ずは鰻よ。鰻を頂きましょうよ。

 それから、勿論ひーくんよ。

 ひーくんを全員で笑顔で迎えましょう、ねっ!」

「そうだな。ひーくんが帰ってくるまでに食べ終わらないとな。」

「それなら、遅すぎるわよ。

 加納さん、頂いても宜しいかしら?」

「……私達は……。」

「皆で頂いたらいけないかしら?

 美月も海斗君と一緒に食べなさい。」

「お母さん……。」

「お腹が空いていたら頭も動かないわ。

 悪い方にばかり考えるものよ。

 さぁさぁ、海斗君。

 こっちに座ってね。

 美月、手伝って頂戴。」

「はい。」


遅い昼ご飯を無言で食べている妻と夫。

そんな中、一人だけ笑顔で話しているのが妻の母。


「そうそう、ひーくんの卒園式と入学式に間に合ったわね。海斗君。

 間に合わせたのかしら?」

「はい……せめて式には……ひーくんに『おめでとう!』と言いたかったの

 で……。」

「そうなのね……やっぱり父親よね。」

「……父親とは言えません。」

「海斗君、あなたは陽向のたった一人のお父さんよ。

 これからは守ってやってね。

 どんな立場でも……守ってやって!

 私達は年老いていく身だから、美月と陽向を守れるのは海斗君だけなのよ。

 離婚しても守ってやって……助けてやってね。

 お願いします。」

「はい! 必ず!」

「本当に美味しいわ。

 加納さん、ありがとうございます。」

「本間さん……本当に申し訳ございません。」

「止めて下さいな。誰も悪くないじゃありませんか、ねぇ。」

「海斗君以外はな。」

「ああ~~ぁ、食べる時くらいは止めましょうね!

 早く食べて、今日は早くお迎えに行ってくるわ。」

「お母さん、私が行くから……。」

「そうね、海斗君と一緒に迎えに行ってくればいいんじゃないの。

 それがいいわ。そうしなさいね。」

「お母さん……。」

「お義母さん、ありがとうございます。」


食べ終わって、妻は久し振りに夫の横を歩いた。

話すことは出来なかった。

話すと泣きそうになるからだ。

義両親と一緒に居ると泣かないように!と気が張っていた。

夫は妻に身体のことを聞いた。

「本当に大丈夫なのか?」と……。

そして、「済まなかった。」と謝り続けていた。


保育園に着くと元気な子ども達の声の中から息子の声が聞こえて来た。


「ママぁ――っ!」


その声と笑顔が妻を支え続けてきたのだ。

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