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父親

ソファーに座った佐々木は大きく息を吐いて話し始めた。


「ここ、凄い部屋だろう?」

「うん、ビックリした。」

「俺の父親が取った部屋なんだ。」

「佐々木のお父さん?」

「おう、俺の……血だけ繋がった父親。」

「血だけ、って……?」

「俺は愛人の息子なんだ。」

「えっ!」

「知らなかったんだ。

 母は何も教えてくれなかった。

 シングルマザーで育ててくれて……苦労した母に親孝行したかった。」

「……そうか……そうだよな。」

「母が亡くなった日、俺は父だと名乗る男の訪問を受けたんだ。

 父だと名乗った男の話だと、愛人として通った日は少なかったらしい。

 妊娠したことも知らなかったそうだ。

 だのに、今更……急に就職先を紹介すると言いやがった。

 はははっ………そんなに簡単に就職できるはずないのに、俺は………。」

「佐々木……。」

「父親の名前は峯浩一郎。

 同期の峯の父親だ。」

「嘘だろ!」

「本当さ、峯は本妻の子、俺は愛人の子。

 それも、俺の母は捨てられて……妊娠したことに気付いたのは捨てられた後だっ

 たみたいだ。」

「会社に入れたのは父親のコネだ。」

「それは、峯も?」

「おう、そうよ。

 ……父親、峯浩一郎は本妻の末子の峯を溺愛してる。

 俺とは違って……だから、あいつは専務秘書になった。

 父親の口利きでな。」

「峯と何の関係があるんだ?」

「ふっ……ふふふっ……そう思うよなぁ……そりゃ……そうだ。」

「佐々木……。」

「加納、済まなかった。」

「だから、何がなんだよ! 佐々木に謝られるようなこと無い!」

「あるんだ……あるんだよな……それが……。」

「佐々木。」

「加納、お前に危害を加えるような動きをしていたのは、俺の父親なんだ。」

「えっ?」

「階段とか駅のホームとかで押された……よな。」

「……あぁ……まさか………。」

「あれを指示してたのが父親だ。

 怪我をさせない程度に怖がるように……したんだ。

 だから、落ちなかっただろう?」

「あぁ……。」

「階段では転倒しても手前だっただろう?」

「あぁ……。」

「ホームでも線路に落ちることがないホームドアがある駅だったはず……。」

「そうだ。」

「怪我をさせる気は全く無かったんだ。

 そんなことしたら全てを失う。

 だが、加納を怖がらせて何も発しないよう……それだけの為に、加納を脅した。

 脅す前に恐怖の体験をさせたんだ。」

「なんで! なんで佐々木のお父さんが出て来るんだ?

 うちの会社の上層部の一人なのか?」

「否、総会屋だっただけだ。

 会社側に立つ総会屋。

 だから、会社の上層部に顔が効いた。

 それで、末子の峯浩司を入社させて、ついでに俺も経理部へ入社させたんだ。」

「経理部に入るって決まってたのか?」

「そうみたいだな。俺にあの仕事をさせるために入社させたんだ。」

「だったら、何故? あの仕事、西城が引き継いだんだ?」

「うん、当初、峯浩一郎が描いていたことだけど変わったんだ。

 峯が……峯浩司が経理部に入りたがったから……。」

「峯が?」

「あぁ……そんな汚い仕事を本妻が産んだ大事な息子にさせたくなかったんだな。

 浩司にさせない!と決めてた峯浩一郎は、浩司に諦めさせるために俺にもさせな

 いと決めたんだ。」

「佐々木……。」

「あいつは……峯浩一郎は俺に汚い仕事をさせる為だけに呼んだんだ。

 また捨てられたんだ。

 お袋は既婚者なんて知らなかったんだ……知らずに付き合った。

 お袋が残した日記に書いてあったんだ。

 知らずに妊娠してた……捨てられて良かった、って書いてあった。

 罪を重ねる所だった、って書いてあった。

 それを言ってやった。

 俺が出来るたった一つの復讐だ。

 そしたら脅しやがった。」

「脅すって……。」

「どんなことを、御尊父様ごそんぷさまは仰ったんですか?」

「加納のお父さんは優しいですね。御尊父様ごそんぷさまと……。

 僕は育てて貰ってません。

 認知もして貰ってません。

 だから……父は居ないんです。」

「……何を佐々木さんは言われたんですか?」

「解雇させると言ったんです。

 それでいいと僕が言ったら………あいつは……祖父母に何があっても良いのか、

 と言ったんです。」

「そんなことを………。」

「祖父母を守りたかった。

 だけど、屈したくなかったし……多分、あいつは何かする気は無いと……。

 それで、言いました。

 『会社は辞める! 祖父母は絶対に俺が守り通して見せる!』と……。

 出来るかどうかなんて考えないままに言いました。

 ただ、あの仕事をやりたくなかった。」

「お父さんは納得したのか?」

「さぁ、分からない……ただ、俺にはあの仕事を引き継ぐ話は来なかった。

 ホッとした半面、西城に悪いと思った。」

「佐々木……。」

「加納、済まなかった。

 加納に恐怖を植え付けたのは……脅したのは俺の父親だ。

 今更だが……会えたから謝る。

 済まなかった……で、済む話じゃ無いことは分かってるけど……

 謝らせてくれ。

 申し訳ありませんでした。」

「佐々木、土下座なんかしないでくれ!

 佐々木とお父さんは別だよ。」

「奥さん、峯が加納の不倫を仄めかしたこと申し訳ありません。」

「佐々木さん……。」

「峯はたった一言で不倫だと思い込んだようです。

 加納の『問題があった場合どうする?』とかいう言葉を聞いただけだったんで

 すけれども、その言葉だけで不倫だ、と思ったみたいです。

 今から考えると加納が言った『問題があった場合』というのは会社のこと。

 加納に女性が居る―という話ではないのですけれども、峯はたった一言で誤解し

 たようです。

 不倫し放題の父親の息子だから、何でも不倫だと思うのかもしれません。」

「佐々木さん、それを言う為に?」

「ええ、奥さんは……それから、あの可愛いお子さん……。

 会社の被害者ですから……僕が知っていることはお伝えしようと思いました。」

「ありがとうございます。」

「加納に会うとは思わなかったから……顔を見て、全て知っておられたのかと思い

 ました。」

「いいえ……。」

「加納、お前いいよな。

 いいお父さんで……羨ましいよ。」

「佐々木……。」


妻は佐々木の話を聞きながら、辻褄が合っているようで違うような気がした。

何かが気に掛かった。

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