ホテル
夫が勤めていた会社の同期、佐々木が指定した場所に着いた。
指定された場所は、都内のホテルだった。
その部屋の前に着いた。
妻は何を聞かされるのか分からなかった。
何に為に佐々木に呼ばれたのか分からない。
大きく息を吐いた。
義父が「大丈夫かい? 大丈夫なら入ろう。」と言った。
父が「傍に居るからな。」と言った。
妻は二人の父の言葉に「はい、大丈夫です。入ります。」と答えた。
義父がドアをノックした。
中から佐々木の声が聞こえた。
その声と同時にドアが少し開き、来訪者を確認した佐々木が大きくドアを開けて3人を招き入れた。
「お久し振りです。
来て頂きありがとうございます。」
「……お久し振りです。
佐々木さん、お話というのは……どんな……。」
「奥さん、まぁ座って下さいよ。
加納君のお父さんも座って下さい。
そちらは……奥さんのお父さんですか?」
「はい、美月の父です。」
「どうぞお座りください。」
「では、座らせて頂きます。」
「……あの……お話って何でしょうか?」
「加納君の居場所を本当に知らないんですか?」
「知りません。」
「本当に?」
「ええ……本当です。」
「どうして息子のことを御知りになりたいのですか?」
「お父さん、ご存知でしょう。
今の我が社を取り巻く環境を……。
奥さんもご存知でしょう。」
「はい、知っております。」
「こんなことになったのは、加納君が原因だと上層部は確信しています。
僕も……ですがね……。」
「それが原因だと仰るのなら、息子が行方不明になった原因も御社にある!という
ことですね。」
「まぁ、そうですね。」
「婿の身に何があったんですか?」
「本当に何も知らないんですか?
何も加納君から聞いていない?」
「ええ、聞いていません。妻の私が知らないのは不信でしょうけれど……。」
「聞いてないんですか……そうですか……。
加納君はある会社への支払いが多いことに気付いたんです。
その会社から大目に支払った分が、別の会社に渡っていることを……
加納君は気付いてしまったんですね。
それを上司に告げた。
内部告発をしたんです。
勿論、握りつぶされて、仕事も無い状態になったんです。
そのまま会社に居ると僕は思ったんですよ。
結婚して子どもが生まれた。
そんな状況だったら会社に居続ける……そう思ったんですよ。」
「それは、佐々木さんがですか?
それとも、上司の方ですか?」
「僕も、ですが……当然のこと上司もですよ。
奥さん、加納君は貴女を本当に愛してると思いました。
生まれて間もないお子さんも、ね。」
「そう見えました?」
「ええ、だから、あんなことするとは思わなかった。」
「先ほどからお聞きしたかったのですけれども……。」
「何でしょうか? お父さん。」
「息子がしたこと、ご存知だったのに、私達に話して下さらなかった。」
「はい。当然でしょう。」
「……会社側に立たねばならぬ貴方なら、そうですね。」
「あいつは……あいつは違った。
正義を貫いた……。」
「佐々木さん、何を仰りたいんですか?
全く分かりません。」
丁度その時、ドアをノックする音がした。




