会社
息子が寝てから、夫と義両親、従兄、そして妻の5人で話し合う時間を設けた。
「美月さん、全て気持ちを吐き出して。
海斗、お前は全て受け止めろ!
それから、包み隠さず話すんだ!
いいなっ!」
「分かってるよ。分かってる。」
「カイちゃん、順序立てて何があったか……それから話してくれないか。
美月ちゃんがどんなに心配したか!
叔父さんも義叔母さんも、どんなに……ちゃんと説明してくれよ。」
「うん。」
「海斗、美月ちゃん、ここに来る車の中で何て言ったと思う?」
「……………。」
「海斗が生きてる、って聞いた時に何て言ったか……分かる?」
「……分からない……よ。」
「良かった……って……生きてくれてて良かった、って……。
そう言ってくれたのよ。
そんな美月ちゃんを……あんたは………。」
「ごめん。許せないことをしたと分かってます。」
「……不満があったの? 私に不満があって……出てったの?」
「違う! 不満なんか無い!」
「だったら、何で? なんで出て行ったの?」
「会社で問題を見つけてしまったんだ。」
「問題……。」
「これからいう話は他言無用にして欲しい。」
「分かったわ。」
「分かった。」
「分かったけど、話の内容によっては口を挟むぞ。
いいな、カイちゃん。」
「いいよ、挟めないと思うぜ。」
「聞こう! 話しなさい、海斗。」
「はい………俺は経理課で会社の経費の流れを知っていた。」
「それが経理の仕事だもんな。
……でっ? 何が問題なんだ? カイちゃん。」
「妙な流れを見つけたんだ。
それも、たまたまだ。」
「妙な流れ………。」
「契約している会社への支払いが可笑しかった。
多いんだ。
俺はそう判断した。
それで、課長に話す前に流れを確認した。
それからだったんだ。
調べれば調べるほど不思議な流れは何年も続いていることが分かった。
誰かが着服していると思った。
課長に話した。
それが可笑しいんだ。
何も話していないのに、課長は俺が核心を話す前に言った。
『何も問題ない!』と言ったんだ。
『君は今まで通りに勤めれば良い。何も見なかったんだ。』って、ね。」
「それって……!」
「会社ぐるみなのか、課長が着服しているのか分からなかった。
それに、課長が何故知ったのか……俺が何を話そうとしているのかを……。」
「誰かに相談したのか?」
「同期に……ちょっとだけ話した。
核心には触れてないけど……『何か問題を見つけたら、どうする?』って聞いた
ことがあった。」
「同期……誰に?」
「峯という営業課の同期に……。」
「峯さん!」
「会ったことがあるのか?」
「ええ、あなたが居なくなってから、お会いしたわ。」
「何か言ってたか?」
「あなたが居なくなったのは不倫で……駆け落ちしたのだろうって……。」
「そんな! 嘘だっ!」
「嘘だって分かるわ。今は……。」
「それで、どうして家に帰らなかったんだ!」
「それから、俺は経理課で今までしていた仕事をしたんだ。
だけど、それは着服の片棒を担がされて……。
上に話さないといけないと思ったんだ。
内部告発をしないといけないと思って覚悟したんだ。
それで、専務に話したいと思った。
それにはデータをコピーして見せる必要があった。
その資料を持って専務に内部告発をした。
告発したんだが、無理だった。
握りつぶされた。
それから、通勤途中で車に轢かれそうになったり、社内で階段から落ちそうにな
ったり……。
恐怖を感じたんだ。
階段で後ろから押されたように思った。
それは通勤時のホームでも……起きたんだ。
怖くなった。」
「そんなこと……!
なんで言ってくれなかったの?」
「ある日、脅されたんだ。
誰か知らない男に……『このまま退職して姿を消したら家族には危害を加えな
い!』と……。」
「そんな!」
「美月と陽向を守りたかったんだ。
父さんと母さんを守りたかったんだ。
だから、退職した翌日に家を出た。
そして、着の身着のまま……遠くに行こうと思った。
着いたのが、ここだった。
ここのご夫婦が優しくて、何も聞かずに置いて下さった。
だから、生きていられた。感謝してる。心から……。」
「内部告発者は保護されるはずだけどな。ねぇ、叔父さん。」
「そうだな……会社ぐるみ、なんだろうな。」
「退職金は? 出てたか?」
「ええ、貰ったわ。」
「足りなかっただろう……ごめんな。俺のせいで苦労させて……。」
「二人で乗り越えたかったわ。」
「うん……何かされたか? 誰かに……。」
「いいえ……何も…一回空き巣が入っただけよ。」
「空き巣?」
「ええ、ちょうどその頃、近所で空き巣が多発してたの。
だから関係ないわ。」
「それなら、いいけど……。」
「今は実家に居るから大丈夫よ。」
「そうか……お義父さん、お義母さんにご迷惑をお掛けしたんだな。」
「お前、健康保険も無しで身体は大丈夫なのか?」
「父さん、大丈夫だよ。
……ありがとう。」
「海斗、お前……データを残したりして無いか?」
「……なんで?」
「危ないからだ……もし、美月さんの荷物のどこかに残してたら……美月さんが危
険になるかもしれない。」
「あるけど、家に置いてないよ。
それに、今は言えない。
父さん、今は言えないんだ。分かってくれ。」
「くれぐれも誰にも危害が加わらないようにな。」
「分かってる。それだけは……。」
「ここのご夫婦にも危害が加わらないように気をつけないとな。」
「勿論だよ! 勿論、気をつけてるから……。」
「カイちゃん、いつか出すつもりなんだな。」
「しかるべき時に、しかるべき人へ……。」
「分かった。俺は従兄だけど、カイちゃんのこと、弟だと思ってるからな。
頼る一人に入れてくれ!」
「ありがとう。」
「でも……課長クラスの人の着服なら会社は動かないわよね。」
「そうだよ、義叔母さん。
だから、会社ぐるみなんだと俺は思うんだ。」
「それに、誰かが動いて海斗に危害を加えようとした。
脅す必要があった。
それは、会社が大きな問題を抱えている証拠だな。
しかも脅すことを……本職としている人物とも接点があるかもな。
海斗、お前はこれからどうする気だ?
美月さんと陽向をどうする気だ?」
父に今後のことを聞かれた夫は言葉に詰まった。




