二夜(ふたよ)
息子が泣いている。
何をどうしたらよいのか分からない妻は、泣いている息子に授乳した。
泣きながら授乳した。
⦅事故に遭ったの?
何があったの?
どこに居るの?
無事なの?
……あなた……あなた……。⦆
お腹がいっぱいになって満足した息子は可愛い寝顔を見せて、母の腕の中で可愛い小さな寝息を立てている。
ベビーベッドに息子を寝かせた。
何も手に付かない。
掃除も洗濯も……ただ息子の世話だけしているのが今の妻だった。
⦅もしかしたら、お義父さん、お義母さんの所へ行っていたり……。⦆と思った妻は、夫の母に電話を架けた。
「美月ちゃん?」
「お義母さん、そちらに海斗さん行ってませんか?」
「えっ? 海斗? 来てないけど?」
「………うっ……ううう………。」
「どうしたの? 美月ちゃん!」
「うううっ………。」
「美月ちゃん、何があったの?
ゆっくり話して頂戴。」
「帰って来てないんです。」
「えっ?」
「もう会社も辞めて……て………。」
「えっ? 嘘よ! そんなこと……。」
「嘘じゃありません。嘘なんか……吐きません。」
「……ごめんなさい。
それで、何時から帰って来てないの? 何時からなの?」
「昨日、いつもと変わらなかったんです。」
「昨日の朝のこと?」
「はい。」
「おいっ、何だ?」という義父の声が聞こえた。
それに義母が「あの子が帰って来なくなったんですって……。」と答える声がスマホから聞こえる。
「あの子って、誰だ?」と義父が聞くと、「海斗よ。」と義母が答えた。
スマホをスピーカーにしたようだった。
「美月さん、海斗が帰って来ないんだって?」
「はい。」
「何時から?」
「昨日からです。
それで、会社に電話したら、辞めてるって仰って……。」
「退職?」
「はい。」
「聞いてなかったんだな。」
「済みません。」
「美月さんが謝ることじゃない。謝るのは私だ。
済まない。陽向が生まれて父親に成ったっていうのに……。」
「……いいえ、いいえ……。」
「警察へは?」
「……まだです。」
「今から、そっちに行くから……母さんと二人で行くから。」
「はい。」
妻は夫の両親の到着を待った。
長い二夜の始まりだった。




