夢現(ゆめうつつ)
長い時間を掛けて北海道に向かった。
途中で食事を摂った。
美月に義両親も従兄も「少しでも寝て欲しい。」と言った。
だが、妻は身体が疲れていても眠れなかった。
息子は旅行気分と……初めて父親に会えることをドキドキしながら待っているようだ。
何かにつけて「パパは?」と聞いてくる。
「パパは何が好きなの?」
「パパは遊んでくれる?」
「パパは………。」
目をキラキラ輝かせて息子は父親のことを聞いてくるのだ。
一緒に暮らせないかもしれないと思う妻は、母として笑顔で答えながら苦しかった。
辛かった。
⦅ひーくんに何も話さずに来た方が良かったのか?
もし、もう二度と会えないとしたら……ひーくんの心は………。
心に傷を残したくない。
守りたい。
守るには……会わせない方が良かったの?
……でも……あんなに嬉しそう……会いたいのよね。
どうすれば良かったのか………分からないわ。⦆
思い悩みながら、少しの後悔をしながら、妻を乗せた車は、夫が居る畜産農家に着いた。
従兄の後を義両親が続く、そして、その後を妻が息子の手を繋いで歩いた。
出迎えてくれたのは優しそうな夫婦だった。
ちょうど夫や妻の両親と同じくらいの年の夫婦。
その後ろに………あの日以来の懐かしい……たった一人愛した男性の顔が見えた。
「ようこそ御出で下さいました。」
「先日は見学させて頂き誠にありがとうございます。
また今日は色々とお手数をお掛けしました。
ありがとうございます。」
「いいえ……。」
「こちらが私の叔父と義叔母です。
それから、こちらが加納美月さんと陽向君です。」
「こんにちは、陽向です。5歳!」
「まぁまぁ、お上手にご挨拶してくれて……。」
「さぁ、ここでは何です。中にお入りください。」
「ありがとうございます。
では、お言葉に甘えさせて頂きます。」
「パパは? パパ、どこ?」
「ひーくん……パパは……。」
「ひーくん、パパだよ。」
「パパ? パパなの?」
「そうだよ。パパ………ごめんな……ごめんな。」
「ママ! パパが居た!」
「そうよ。」
「保育園で皆にパパが居るのに、僕のパパ、居なかった。
パパ! 僕のパパ!」
「ひーくん……会いたかったのよね。」
「うん!
パパ? 泣いてるの?
どこか痛いの? 大丈夫?」
「……大丈夫だよ。パパも会いたかったよ。」
泣きながら息子を抱き締めている夫を見ても、妻は現実なのか夢なのか分からなかった。
夢現の中に妻は居た。




