車
それは、あの日と同じ日だった。
夫が出て行った日……5年後の同じ日の夜、義両親から電話が架かって来た。
「今から伺いたい。」ということだった。
妻に断る理由は無い。
「どうぞ、お越しください。お待ちしています。」と伝えた。
義両親は直ぐに家を出た。
思ったより早く妻の実家に着いた。
「美月さん、今、甥から電話があってね。」
「あの……お義父さん、玄関ではなく中に入って下さい。」
「あ……急いでるんだ。ここで!」
「ええ、ここで充分よ。」
「そうですか?
じゃあ、ここで伺います。」
「美月さん、今から出られないか?」
「今からですか?」
「ええ、一緒に行って欲しいのよ。」
「あの……どこに…ですか?」
「おじいちゃん、おばあちゃん!」
「陽向!」
「ひーくん!」
「美月、こんな所で……もう!
どうぞ、中に入って下さい。」
「いいえ、今直ぐに向かいたいので……。」
「何処かへ行かれるんですか?」
「北海道へ行く。海斗が居る!」
「え…………かいとさん……が?」
「そうなの。見つかったのよ。」
「今から向かう。車で行くしかないので、私と甥の運転で行くことにした。
美月さんにも出来れば来て貰いたい。」
「美月ちゃん、一緒に行って下さる?」
「美月! 行きなさい。行かないと後悔するわ。」
「ひーくんは私が見てるから!」
「ひーくん。」
「何? ママ?」
「ひーくんのパパにママは会いに行きます。」
「パパ? パパに?」
「そうよ。ひーくんのパパ。」
「僕も行く!」
「ひーくんは保育園があるでしょ?」
「ばぁちゃん、僕、パパに会う。行く。」
「お義父さん、陽向も連れて行っていいですか?」
「ああ! いいとも!」
「お母さん、お父さんが帰って来たら海斗さんが見つかったって話して。」
「ええ、ひーくん、大丈夫?」
「大丈夫よ。私も居るし、お義父さんもお義母さんも居るから……。」
「じゃあ、加納さん、美月と陽向をお願いします。」
「はい。」
車で向かう北海道は遠い。




