5年後
夫が帰って来なくなって4年過ぎようとしている。
明日、あの日から5年の朝を迎える。
今はもう夫と暮らした家を出て実家で息子と暮らしている。
両親へ妻は感謝の念に堪えない。
義両親は夫を探すために義父の会社と関係がある興信所と弁護士に依頼していたが、もうその依頼も辞めて久しい。
法律では行方不明者が生死が不明なまま7年間満了した時に、失踪宣告の申し立てを家庭裁判所に出来る。これにより生死不明の者に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせることが出来る。
その宣告を申し立てするかどうか妻は考えるようになった。
待つ身の辛さを感じ続けた。
自分が悪かったのではないかと責めた。
あの家で待たないのは良くないではないかとも責めた。
自分を責め苛む日々を妻は送ったのだ。
もう、そのような日々を送るのに疲れたのかもしれない。
ただ、失踪宣告は夫の死亡届を出すのと同じだ。
その点が妻を逡巡させた。
まだ2年ある―そう妻は思っている。
息子は5歳になった。
父親を写真と動画でしか見たことが無い。
生後三ヶ月までしか一緒に居なかった父親である。
それでも動画を見て「僕とパパ!」と喜んでいる息子が哀れだ。
夫と息子が映っている写真、動画を息子は「見る!」と言って強請る。
3歳くらいから見たがるようになった。
そこにしか居ない父親。
息子は夫の姿を認めると「パパ!」と指さして妻や祖父母に見せるのだ。
5歳になった今も父親との写真や動画が好きな様子である。
息子は妻と夫の結婚披露宴の時の動画も喜んで見る。
そこには明るい未来を二人で過ごすと思い描いている妻が居る。
妻と生まれて間もない子を捨てる未来を……この動画の中の夫は思い描いてなど居ないと……妻はそう信じている。
そう信じたい!と思っている。
⦅夫が帰って来たら……息子は喜ぶのだろうなぁ……。
私は?
私は……どう思うのだろうか………?⦆
そして、夫が出て行った日を……5年後の同じ日を迎えた。




