見知らぬ来訪者
妻は佐々木に一抹の不安を感じたが、誰にも話さなかった。
南と安藤の訪問から5ヶ月、石井朱里に会ってから半年が過ぎようとしていた土曜日、インターフォンが鳴った。
インターフォンの画面を見ると、見知らぬ若い男性が立っていた。
息子を抱き上げて妻は通話をした。
「どちら様ですか?」
「加納海斗さんのお宅でしょうか?」
「はい。そうですが……どちら様でしょうか?」
「私は以前、経理課でお世話になりました谷村大地です。」
「……何か御用でしょうか?」
「お電話を差し上げたのですが、ご不在でした。
それで、こちらの方に用がございまして……。
急で申し訳なかったのですが、伺いました。」
「何か御用でしょうか?」
「お世話になりましたので、お礼をと思いました。」
「主人は、こちらに居りません。」
「あの……どちらに?」
「……分かり兼ねます。」
「あの……奥様でしょうか?」
「はい。」
「お会いしてお話を伺いたいのですが……。」
「……申し訳ございません。存じ上げないお方にお会いすることは出来兼ねま
す。」
「そこを、どうか!」
「申し訳ございません。お引き取りを……。」
「そうですか……加納さんと連絡を取ることがお出来になられましたら、どうかご
連絡ください。
名刺をポストに入れておきますので、お願い致します。」
「名刺は頂戴致します。」
「……急に伺って申し訳ございませんでした。
では、失礼致します。」
「失礼します。」
恐怖が妻を襲った。
誰か分からぬ若い男性が急に訪問したのだ。
1歳10ヶ月の息子に何かされたら……と思うと、恐怖で震えた。
息子を抱いている手が自ずと強くなっていた。
「いちゃい、ママ。いちゃいよ。」
「あっ……ごめんね、ひーくん。」
妻は先日の佐々木の電話で感じた違和感と併せて、義両親と両親に話そうと思った。
急ぎグループLINEにメッセージを送った。
親たちは4人とも直ぐに来てくれた。
待っている間、妻は怖くて家を出られなかった。




