南と安藤
佐々木からの電話を受けた翌月、南から電話があった。
「土曜日に安藤と二人で伺いたい。」というものだった。
何故、訪問するのか分からない妻は不安に思った。
義両親と両親に来て貰うことを話した。以前と同じように……。
出迎えると、前のように息子は大喜びだった。
抱っこして貰えて「高い高い」を待っているかのようだった。
保育園でも男性保育士が「高い高い」だけではなく、「ヒコーキ」とか色々遊んでくれているようだ。
でも、保育園では男性保育士を奪い合うような様相で、それが自宅では競わなくて良いことが嬉しいようだった。
一頻り遊んで貰えて息子は疲れたように午睡の時間になった。
「本当にありがとうございます。」
「いいえ、これくらいしか出来ませんので……なぁ。」
「うん、本当に何も出来なくて申し訳ありません。」
「そんなこと……ありません。
お世話になってばかりです。」
「それで、今回はどのような御用件でしょうか?
娘に会いに来られた理由をお聞かせ頂きたい。」
「お父さん、そんな言い方。」
「いいえ、佐々木からの電話もあり、僕たち二人が急に伺ったのですから……
当然です。」
「石井朱里さんとは何も無かったそうで、本当に良かったです。
ただ、それでも何故失踪されたのかが分かりません。」
「ええ、私も分かりません。」
「佐々木は他にも居たように思っていますが、それも定かではございません。」
「そうですね。」
「今は帰って来られるのをお待ち頂くだけで良いのではありませんか?
女性は居ないと僕達は思っています。
息子さんと二人で帰って来られるのを待って下さい。
可能であれば……。」
「ありがとうございます。
待ちたいと思っています。」
「あの……済みません。お手洗いをお借りしたいのですが……。」
「あぁ……こちらです。どうぞ……。」
「済みません。」
南が席を立ち、義母が案内した。
義母が戻って来て、安藤と皆で談笑していた。
なかなか南が帰って来なかった。
「南さん、どうなさったのかしら?
随分お時間が経って……。」
「あ! あいつ、朝から下してまして……。
済みません。尾籠な話で……。」
「まぁ……それは、大変ですわね。
何かお薬、美月、あるのなら……。」
「整腸剤があるわ。
ちょっと、お待ちください。」
「あ! いいです。持ってますから!
頂かなくても。」
「そうですか……。」
ちょうど、その時、南が戻って来た。
「南さん、大丈夫ですか?」
「は……い……。」
「おい、お前が下してるから……な。
それで、心配して下さったんだぞ。」
「あ! 済みません。ありがとうございます。」
「お前のお腹も心配だから、そろそろお暇しような。」
「おう、そうしよう。」
「済みません。お騒がせしただけで何も無くて……。」
「いいえ、ありがとうございました。」
「では失礼します。」
南と安藤が帰って行った。
午睡から起きた息子は寂しがった。
⦅夫が居れば……。⦆と妻は思った。
妻は午睡用の布団を上げようと、息子が寝ていた部屋に行った。
布団を上げようと押し入れを開けて、布団を仕舞い込んだ。
その布団は夫が買って来た物だった。




