1年後
妻は働きながら息子を育てていた。
夫と暮らした家で……。
両親は一緒に暮らそうと言ってくれた。
義両親もそれがいいと言ってくれた。
でも、妻は「この家を私が出て行ったら……帰って来てくれた時に困ると思うんです。だから、ひーくんと二人でこの家で待ちます。」と答えた。
妻は医療事務の資格を取り、病院で働いている。
息子を保育園に預けて、働きながら一人で家事も育児もすることの大変さを日々感じている。
その度に妻は夫が居てくれたら……と思ってしまう。
リビングには夫が居た頃と同じ写真が飾られている。
家の中は息子の成長につれて変わった物もある。
ベビーベッドで息子を寝かせなくなり、押し入れに入れて仕舞い込んだ。
玩具も絵本も増えた。
息子の物が変わっていった。
息子も大きくなった。
それを夫は知らない。
時々、身体が弱い妻は有休を取ることもある。
その時は、両親や義両親の支援を受けている。
あれから、義両親は夫と夫の不倫相手と思しき女性のことも併せて探している。
「興信所に頼んだよ。
昔は探偵だったらしいけれど……。
今はどちらも探してくれるらしいからね。
会社関係の興信所に頼んだ。」
「違うの?」
「違うんだよ。
興信所は企業の信用調査だけしてた。
探偵は個人の身元調査などだけらしいんだ。」
「そうなのね。」
「そうなんですか……お義父さん、ありがとうございます。
探すことはお願いします。」
「勿論だよ。任せてくれないか?
ただ、美月さんに頼みたいことがあるんだよ。」
「なんですか? 私に出来ることなら何でもします。」
「君にしか出来ないことなんだ。」
「はい。何でしょう?」
「海斗が勤めていた会社の同僚の方に相手の女性の名前を分かれば……だが、教え
て欲しいんだ。」
「はい。伺ってみます。」
「あの営業課の人は分からないって言ってたからね。
出来れば、同じ課の方に聞いてくれないか?」
「はい。分かりました。
連絡先も伺っておりますし……。」
「うん、頼むね。」
「美月ちゃん、本当にごめんなさい。
あの子がこんなことしなければ……ごめんなさい。」
「お義母さん……止めて下さい。
謝らないで下さい。
海斗さんは子どもじゃないんですよ。
子を持つ父なんです。
だから、もう……謝らないで……。」
「美月ちゃん……苦労掛けて……。」
「だから、もう謝らないで下さい。」
「母さん、美月さんの優しい心を無下にしないためにも、な。
探そう! 海斗を……。」
「はい。」
この1年の間に妻の所に夫と同じ課の同僚だった同期と後輩がやって来たことがあった。
それは、連絡を取って聞いてくれと義父に言われた日から間もなくだった。
妻が連絡を取り、「伺っても宜しいでしょうか?」との返事を得た。
妻は家に来て貰うことにした。
だが、約束した日には息子が発熱して話を聞けなかった。
息子が治り、やっと保育園に通った日、同じ課の同僚だった同期の佐々木へ妻は電話を架けた。
妻が話を聞く時は、義両親と両親も同席を……と伝えると、「勿論です。どうかご一緒に!」という返事だった。
妻はその日を待ちかねながら、不安と恐怖も感じていた。




