スマホ
夫が置いたままだったスマホを妻は常に持っている。
スマホはロックされていなかった。
全て見ることが出来た。
だが、スマホの中には女性の影が無かった。
スマホの中は妻と子の写真が溢れていた。
LINEなどのメッセージも友人知人も義両親が知っている人たちばかりで、やり取りも多くは無かった。
夫が毎日、メッセージを送っているのは妻だけだった。
「ひーくん、ご機嫌かな?」
「美月、無理したら駄目だよ。」
「ひーくんの写真、めっちゃ嬉しい♪
同僚に見せびらかすぞぉ―――っ!」
「美月さん、申し訳ございません。
少し遅くなりましたが、今、駅に着きました。
帰ったら、ひーくんの入浴間に合うかな?」
妻は涙が出て止まらなくなる。
スマホを見る度に涙が出て止まらなくなる。
スマホの中は妻と息子への想いで溢れている。
スマホの中も、妻の記憶の中も、夫が誰かを……妻以外の誰かを愛したことを示すものが見つからなかった。
ふと……もう一台スマホを夫が持っていることを妻は思い出した。
そう、会社から支給されているスマホ……もう退職時に会社へ返却されてしまったスマホがあった。
⦅もしかしたら、会社のスマホで連絡を取ってたのかしら……。
もしかしたら……会社のスマホはロックしてたのかしら……。
……会社のスマホ………でも、もう見れない。
退職をした時に返しているのよね。
最後の日に私物を持って退職したのよね。
最後の日………何を考えてたの?
私のこと……ひーくんのこと……全く思い浮かばなかったの?
ひーくん、あんなに可愛がってたのに……。
簡単に捨てたの?
お義父さん、お義母さんのことも思わなかったの?
何もかも捨ててまで……一緒になりたかったの?
……あなた……あなた……せめて弁解して……お願いだから……。⦆




