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WORLD)SOUL(WORLD   作者: 六等星
消息盈虚編
9/21

8 君たちはどのダイナマイト?

「は〜あ。やっぱコーヒーなんかよりオレンジジュースの方が美味しいよ。何でそんな苦いの飲むのさ?」


「豆を引く瞬間に広がると香りは心を落ち着けてくれます。それに、苦味、酸味など豆の種類や焙煎方法によって様々な風味を織りなしてくれるんですよ。」


「うーん理解できない!やっぱオレンジジュースを飲んでる方が幸せだよ。」


男女の話し声とコーヒーの香りが部屋の中には満ちていた。2人が目を開けると、そこは昨日の部屋ではなかった。


「あ、起きたね。」


「おはようございます。お変わりは?」


「場所がお変わりすぎ!」

━どこですかここ!?━


2人は丁寧に革張りの椅子に座らされていた。対面には片目を髪で隠したスーツ姿の男が、左の重厚な机の上にはシワの入ったワイシャツを着ている女がだらしなく座っていた。


「おはよう、八代ミツキ、ガイード。よく眠れたかい?」


「いやーおかげさまでゆっくり眠れました。」

━言ってる場合ですか!ここどこですか?八代ミツキって誰です?━


「僕から話しましょう。ここは東京都新宿区内にある、世界安定化機関『スタビライザー』本部の総隊長室です。八代ミツキ、という名前はあなたに与えた仮置きの名前です。記憶喪失との情報、そしてあなたのことを知る人も見つかっていないので、一時的にですが裁判所に申請して仮の戸籍を発行させていただきました。保護された日が3月8日だったため、その数字を取り入れています。もしこの名前が嫌だということがあれば、すぐに変更手続きを行います。」


「そういうことだったのか。中々良い響きの名前で気に入ったし、それで行こう。」

━そうですね、良い名前です。あなたは私をガイードと呼ぶように、私もあなたをミツキと呼んでもいいですか?━

「それでいいよ。」


「自己紹介もしておきましょう。僕は問覚ケイゴ。秘書課長です。」

「私は総隊長の知念ミナだ。」


「そ、総隊長と秘書課長?」

━何故そんな重要そうな役職の人が?━


「そんなに緊張しないでくれ。敬語なんかも要らないさ。ちなみに私が好きなものは甘いもの全般で、趣味はとにかく研究。知識欲が止まらないものでね。彼が好きなものはコーヒーで、あ、そういえば思い出したんだけど、彼はシャツを新調する度に汚していてね、前回は確か」

「ちょ、なんで僕のそんなことまで話すんですか!」

「君は初対面の人から怖がられやすいじゃないか。だから君の抜けてるところを話せば『あ、ちゃんと人間なんだ』と思ってくれるかなと。」

「ロボットか何かだと思っているんですか?」

「まあまあ落ち着いて。ほら、サングラスとレバーアクション式のショットガンだよ。勿論おもちゃだけど。」

「殺人機じゃないんですよ…!」

「じゃあどら焼きでも食べる?」

「それは違うロボットでしょう!」


「なんか、緊張とかはなくなったな。」

━同じくです。━


とりあえずアイスブレイクも済んだとのことで、2人は飲み物を出してもらった。飲み物についても、知念総隊長はオレンジジュースを、問覚秘書課長はコーヒーを勧めたことでしばらく揉めたが、知念総隊長は「総隊長の方が偉い」と言って無理やりオレンジジュースを出した。2人からしても苦いのはあまりという感じだったので嬉しかったが、問覚秘書課長は密かに不満を抱いていた。


「本題に入りましょう。あなた方をここに連れてきたのは、君たちにかけられた容疑の真相を確認するためです。そう緊張しないで下さい。あなた方はただ、質問に答えてくれれば大丈夫です。」


問覚秘書課長はタブレットを俺の方に見せながら、机の上に紙を置き、スーツの内側からペンを取り出した。


「昨日、君たちは異世界の神奈川県川崎市水江町から繋界を通って現世界に出た後、倒れているところを追崎コウイチに発見された。」


「そうらしいな。申し訳ないけど、倒れる直前くらいから記憶が始まってて、繋界のこととか覚えてないんだよな。」


「シン。よし。」


問覚秘書課長の方から物凄い勢いで書く音が響く。しかしそれは彼の手によるものではなく、ペンが愉快に踊るタップダンサーのように、手元を離れて自分で動いている。


「僕の『質疑』の魂、インクイジターです。」

"オイラが紙に書いた質問に回答者が答えた際、『シン』か『ギ』を判別するのさ!この判別は、回答者の記憶に由来するから、それが真実かは分かんないけどさ!"


インクイジターはそう紙に書き付けた。この魂は筆談をするようだ。2人も自己紹介しようということで、机の上にあったペンを使って文字を書いた。


"よろしく、インクイジター。"

"よろしくお願いします。"


"うん、よろしくなのさ!"

「話を戻しましょう。君たちは水江町にて発見された後、仮面をつけた謎の人物らによって強制的に異世界へ連れ込まれた。そしてその研究員たちと崩壊連星の大火と接触した。」


「ちょちょ待って待って!なんでそんなことまで知っているんだ?」


「シンですか?ギですか?」


「そ、そうだと思う。」


"シン!"


勢いよくインクイジターが紙にそう書き付けた。楽しそうにコツコツとダンスを踊っている。


━で、どうしてそんなことまで知っているのですか?━


「あなたが治療を受けた後、止境隊長率いる川崎隊と特殊派遣部隊の追崎が捜査してくれたんです。」


「え、追崎って確か銃が爆破されて手に怪我を負ってたんじゃ!?」


「確かにその通りだけど、あの子、『これは俺が引き受けた任務だ。遂行は必ずする』って言うこと聞かなかったらしいんだよね。止境隊長から連絡があったとき、私も呆れてしまったよ。」


━責任感が強いんですね。━


「そうだね。それが彼の長所でもあり短所でもあるんだけども。まあ実際、彼とチェイサーはそういう捜査においては抜群に相性が良いから、君たちの捜査も比較的早く終わったんだ。徹夜のままここまで来ようとしてたらしいけど、止境隊長とレッドランプが無理矢理引き止めてくれたらしい。」


問覚秘書課長がタブレットのページをスライドさせると、2人にとって見覚えのある光景が写真として出てきた。倉庫の屋根、仮面、薄汚れた白衣、そして大火の焦がした建物たち…


「今までに君に話したことは全て、彼らが捜査から導き出した仮説です。ですが、どうやらそれは正しかったようですね。当事者であるあなたの記憶と、隊を挙げての捜査から導き出された仮説が一致したのですから、正確性は高いと言ってもよいでしょう。」

"うん、オイラも正しいと思うのさ!"

「問題はここからです。」


問覚秘書課長はタブレットを閉じて机の上に置いた。


「あなた方は何者なのか。それが一番の問題点です。」


一気に場の空気が張り詰める。


「捜査の中で怪しい点が幾つかありました。

まず一つ目は、その仮面に誰一人として出会わなかったこと。」


「出会わなかった?」

━そんなことあり得るのですか?狭い範囲な上、数十人にもなる集団が、あの人数の川崎隊の捜査を潜り抜けられるとは思いません。━


「そう思うのが当然でしょうが、事実は事実です。倉庫の屋根の上には、白衣と仮面、そしてスタンガン等の拘束武器が散乱していました。まるで、人だけが消えてしまったように。」


「ここからは私たちのただの推測に過ぎないけど、バラされてはいけない情報を持っていたために、消された可能性が高いね。」


━消す、なんて可能なのですか?━


「理論上は可能だと思うよ。例に、"崩壊剤"という違法なドラッグがある。」


「崩壊剤…なんかやばそうな名前。」


「崩壊剤は飲んだ人間を暴走意志に変えてしまう薬なんだ。暴走意志は知っているかな?」


━ええ。まだこの目で見たことはありませんが、確か相棒が魂に呑み込まれる、または魂自体の暴走によって生まれる怪物ですよね。━


「その通り。そして補足しておくと暴走意志は倒されると塵となって消えてしまう。恐らくそこを利用したんだろう。暴走意志の暴走の部分だけを切り取って、ダメージを受けると肉体が消滅する効果だけを残した。そうすれば作業をする理性を保ちながら、口封じもできるからね。…話していて心地の良いことではないな。」


「このように、正体不明、しかもかなり黒の可能性が高い人物たちがあなた方を追っていたということは、何らかの繋がりがあるのは間違いないでしょう。

そして二つ目は、崩壊連星の大火との接触です。」


あの炎を身体中から放ち、狂気を感じる動きで辺りを焼いていく光景が少年の脳裏に思い出される。あのときは必死だった故に生きることのみを考えていたが、冷静になってみるとなんと恐ろしい光景だろうか、と。


「崩壊連星は、世界安定化機関が発足してからずっと戦い続けている異世界犯罪組織。大火はその幹部だね。『火災』の魂を取り込んでいて、狂気に満ちた凶悪犯。交戦的な性格だけど、むやみやたらに攻撃してくるのではなく、様々な攻撃手段を持っていて、多対一から暗殺までできてしまう、かなり厄介なヤツだ。しかも、恐ろしいのが大火の最古の記録は280年前からある。」


「280年前!?」

━本当に人間なんですか!?━


「崩壊連星の奴らはみんな老いる様子がないんだ。何故それが可能なのかはまるで謎。ちょっとくらい教えてくれてもいいのにね。私の魂も分からないって言ってたし、理超えの力なのは確定なんだけど。」


「そんな凶悪犯があなたを執拗に追っていたというのも気がかりな点です。

そして最後の一つは、今まで話した脅威たちは、あなた方を殺そうとしなかったという点です。」


「(言われてみればそうだ。そんな正体不明の奴らや凶悪犯に追われる中、軽い怪我しかしなかった。普通なら殺されていたって何もおかしくはなかったんだ。)」


「仮面たちは拘束武器を使用し、大火も水江町から川崎隊の地下に至るまで、あなた方を本気で殺めようとはしなかった、そうですよね?」


「言われてみればそうだな。仮面たちはスタンガンとか使ってたし…」

━大火も、私たちを弱らせてから捕まえようとしていたのを覚えています。━


"シン!"


インクイジターはまた踊るように書き付けた。


「となると、仮面たちは推測にすぎませんが…少なくともあなた方は崩壊連星という犯罪組織が、生け取りにして欲しがる存在だということです。」


問覚秘書課長から恐ろしい圧が放たれている。悪いことをしていないのに何故だか罪悪感が湧いてくる、そんな感覚が2人の肌を突き刺す。


「だ、だとしても俺たちが犯罪者ってわけじゃないだろ!」


そんなオーラは知念総隊長が掻き消してくれた。


「いやいや、君たちを犯罪者として見ているわけではないよ。私たちはね、君たちをダイナマイトのようなものとして見ている。」


━ダイナマイト、ですか。━


「崩壊連星が欲しがる君たちは、彼らの目的遂行に欠かせない強大な力を持つ存在であることは間違いない。それが武力であれ権力であれなんであれだ。そして君たちが彼らの手に渡れば最悪の結果が待っていることだろう。

まるで、ダイナマイトが戦争に使われて大量の死者を出したように。」


「つまり、俺たちは殺人兵器のようなものだって言いたいのか?」


「そうじゃない。だったら君たちのことをもっと別の言葉で例えるさ。

私が伝えたかったのは、力の使い道についてだ。

ダイナマイトは確かに恐ろしい道具だ。起爆しなければただの円筒に過ぎないが、一度火を付ければ簡単に人を殺してしまうし、さっきも言ったように、その技術が戦争にも使われた。

だがダイナマイトを作り出したノーベルの目的はそうではなかった。掘削を容易に、素早く行うことで人々の生活がより豊かになることを望んで作り出したんだ。」


知念総隊長は机の上から降り、問覚秘書課長の隣に座った。身を乗り出して、肘を太腿につく。


「さて、君たちに質問だ。君たちは、人を殺す、安静にされている、誰かのためになる、どのダイナマイトになりたい?」


「え?そりゃあ…誰かのためになるダイナマイトかな。」

━同じくです。人を殺したくはないですし、安静にされていても面白くはありません。━


「ははっ、まあ予想通りの答えかな。」


黙って聞いていた問覚秘書課長が困惑している様子で話し始めた。


「…え?あの、知念総隊長?まさか『誰かのためになるダイナマイト』というのは、『スタビライザーに入隊する』ということですか?」


━「え」━


「うん、そうだよ?」


━「「えぇぇぇぇーっ!?」」━

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