7 月の入り
━空間を捻った?━
━「なんだ、ボケなりにやるじゃねえか!」━
大火はゆっくりと起き上がり、口を抑えて目を見開いている。その目には明らかな興奮の笑みが浮かんでいた。
「今の攻撃はなんだ?ははっ…なんだ?」
「それは…」
━こっちも聞きたいですね。━
部屋は異様な空気に包まれる。緊張して誰もが動けずにいる中、扉が開かれ多くの隊員が入ってきた。
「地下繋界にて崩壊連星、大火を確認。」
「総員、戦闘準備!」
「ちょっと成長早すぎかなー…なんか変なのもも湧いてるし。もうちょっと頑張ろっか。」
大火が炎を燃え上がらせ、彼らの顔をジリジリと熱し始めたが、体はふと止まった。老人の声が部屋の中に静かに響く。
「君のようなベテランが若い子をいじめるというのは良くないと思うよ。」
頭部が黒い何かに覆われている老人がゆっくりと部屋の中に入ってきた。
「久しぶりだね、大火。今から戦るかい?」
「体重すぎたんだけど…黒淵か…最っ悪。どうしよっかなって、連絡?」
大火は耳についていると機械に指を押し当て、何やら呟いている。
「…えー、いや、分かった分かった。戻りますよー。
はぁ…黒淵、僕は君と戦るつもりはない。」
大火は繋界の前に瞬時に移動し、入ろうとするときに2人の方を見た。
「さっきの、正直びっくりしたよ。僕たちの予想を遥かに超えてる。そのまますくすく成長してってくれよ。」
大火は不適な笑みを浮かべる。
「長い付き合いになりそうだ。また会おう。」
そう言い残して異世界へ消えていった。
「逃がすな!追え!」
「待て!」
奥から川崎隊の隊長が出てきた。小柄だが、一目で上の立場の人だと分かるようなオーラがあり、実際一声発せば他の隊員は水を打ったように静かになる。
「今は繋界を閉じるのを優先しろ!
民間人に負傷者が出ている!それを無視して追撃など愚の骨頂!スタビライザーの風上にもおけん!分かったか!」
「「「はい!」」」
「さあ早く閉じろ!レッドランプの皆さんは救護を!」
「「「はい!」」」
バタバタと一斉に人々は動き出した。繋界はどんどん閉じていき、医師たちが負傷者たちに向かって駆け寄る。
「な、何はともあれ助かった…。」
少年の元にも1人の女医がやって来た。少年より少し背の低いくらいの女医で、大きめの古い白衣を着ている。
「大丈夫…じゃないですよね、すみません。」
「…?えーっと。いやまあ大丈夫じゃないけど。」
「そうですよね、変な質問してすみません。」
━あ、あの、彼の治療を頼んでもいいでしょうか?━
「は、はい。すみません、待たせてしまって。本当すみません。」
━いえ、ですから治療を…━
少年の元へやって来たのは癖の強い女医だった。びっくりするほどに自信がない。少年がどうしたものかと悩んでいると、影が彼を包み込んだ。
「内本。自信、持て。腕、お前、俺、同じくらい。良い腕、持ってる。」
「ぎゃーっ!」
少年が後ろを見ると、大男が立っていた。身長は2mはある。布団かと思うくらい大きな白衣を着ている。
「2人とも患者さんを困らせないで。特に内本、あんた桃内先生や私と同じくらい腕良いんだから自信持ちなさい。自信があればあんた最高の医者なんだから!」
「百目木、言う、通り。百目木、同じくらい、自信持て。自分、誉めるくらい。」
「ちょ、それはいいでしょ!自分を信じるのが一番大切なんだから。」
「ありがとう…ございます。」
「ガイード、もう疲れたろう。俺も疲れたんだ。なんだか、とっても眠いんだ。」
「彼、死ぬ前、台詞、言ってる。」
「ああごめんなさいすぐに処置します!」
そうして内本は桃内と百目木のサポートを受けながら、少年を治療した。実際手際はかなり良く、少年も痛みをほとんど感じずに治療は済んだ。
またその間、少年は事情聴取を受けた。自分のことが分からないことや、仮面の集団、大火に襲われたことなどなど…追崎にも聞けば分かるはずと話した。
少年は民間人ということで、警備が強固な1人部屋に運んでもらった。追崎たちも他の部屋に運ばれ、治療を受けた。怪我はそこまで深刻なものではなく、2週間程度で治癒するものだった。
少年は部屋のベッドに座り、貰った栄養食と水を開封した。無意識のうちに毒が入っていないかの確認を行ってから口に運んだ。
食べ終わった後、少年は窓の外に広がる工場の夜景を見る。白や黄の花のような光が疲れ切った少年の閉じかける瞼に差し込む。それを少年が眺めているとガイードが少年の体から出てきた。そのまま流れるように少年の横に座る。
━ふう、やっと一息つけますね。━
「そうだな。なんだかんだ、ガイードには本当助けてもらったし、ありがとな。」
━ふふん、礼には及びませんよ。それにしても…私たちって、なんなんでしょうね?━
「確かに、冷静になってみればそうだな。
(まず気がついたときには工場の近くにいて、疲れて倒れて寝て、追崎とチェイサーに起こされて、助けてもらうってときに異世界に引き摺り込まれて、変な仮面の集団に囲まれて、かと思ったらガイードに出会って、全員倒した!と思ったら大火にボコボコにされて、千速とアウトロードに助けられたけどまた大火に会って…意味不明な数時間だった。)
少なくとも、俺たちのことを欲してる奴らがいるってのは確かだな。仮面の集団と崩壊連星。なんで俺たちのことを欲してるか分かんないけど。」
━それはもちろん、私がきっとすごい魂だからですよ!━
「いや、ガイードがすごい魂だからこそ、俺はすごい魂の力を使いこなすすごい人間として重視されてるのかもな!」
━いや私の方がすごいですよ!━
「いいや俺の方がすごい。」
━私です!━
「俺だ。」
━私!━「俺!」
小さな沈黙の後、2人は馬鹿らしくなって笑い合った。
「…はあ、でもさ、すごい二人組なんだから、きっとこれからもなんとかなるよな?」
━そうですね。自分のことが分かんなくたって、すごい存在だと分かっていれば、この先どうなろうと大丈夫ですよ。━
「そうだな。…今日はもう疲れたし寝ようかな。おやすみ。」
少年はベッドに入り込む。ようやく安心できると思ったそのとき、ガイードがベッドに潜り込もうとした。
「…ん?え、ガイードはベッドで寝るの?なんか俺の中に戻ったりとか、そういうんじゃなく?」
━え、こちらの方がふかふかそうなので…。━
「いや、2人で寝るには狭いしガイードみたいに入る場所を持ってない俺がベッドで寝るべきじゃ?」
━いや、誰にでも幸せを追い求める権利はあると思います。なので私もベッドに入るべきです。━
「…。」━…。━
「俺がベッドで寝る!」
━私もベッドで寝ます!━
「ガイードは俺の中入れば問題ないだろ!そっちで寝ろ!」
━こっちの方が居心地良いんですよ!ほらその手をどかして!ふん!━
「うわっ力強っ!おい押してくるな!」
━もっとそっち行って下さい…!━
「うるさい床で寝ろ床!」
そんな取っ組み合いが数分続いたが、流石に疲労には勝てずそのまま2人は深い眠りについた。




