22 DNS
「…っしょと。重かった。」
アウトロードは引き摺られて、安全な建物の中に寝かせられた。
「おーい。」
返事はない。男児はアウトロードの固い体をゆすってみた。それでも返事はない。
「こうなったら…ていって痛い!」
━…ん?━
アウトロードを思い切り蹴った男児はその固さに足を少し痛めたが、その衝撃でアウトロードは起き上がった。
━あ?んだお前。━
「僕は千速シンイチ。君が道の真ん中で倒れてたからここまで引っ張ってきたんだ。」
━千速…シンイチ…お前人間か!人間つうのは俺らのことを都合よく使おうとするって聞いたぞ。━
エンジンを吹かせてアウトロードは立ち上がる。だが千速はその様子に臆することなくただアウトロードの目を見た。
「都合よく使おうだなんて思ってないよ。僕はただ君と友達になりたいだけなんだ。」
━…はあ?ふざけたこと抜かしてんじゃねえこのボケ!お前とダチになる義理なんか━
「静かに。」
千速はアウトロードの口を塞いだ。暴れようとしたアウトロードだったが、窓からの光景を見てすぐに落ち着いた。
そこには、謎の大型機械を荷台に積んだトラックと、男が3人いた。
「おい、さっき纏めて狩った魂、一つ足らねえぞ。」
「っかしいな。最後のはここら辺にいたはずなんだけど。」
「まあいいさ。こんだけ手に入ったんだ。暴走意志も軽く作れちまうさ。ずらかるぞ!」
━んだよあれ。━
「魂の闇業者だよ。僕も詳しいことは知らないけど、特殊な機械を使って魂を乱獲して、人を暴走意志に変えて犯罪に使うらしい。」
千速はアウトロードの口を戻して目を見た。
「僕があそこから運んでなかったら、君はどうなってたかな?」
━ざけ…ん…。そう…だな。俺も今頃あのクソボケどもに捕まってたかもしれねえ。━
「ギブアンドテイクってやつさ。とっても重要なことだと思うよ。」
━……ダチか。━
「いいってこと?」
━ああ。じゃあダチなら協力しろよ。━
「やった…って、協力?」
アウトロードはトラックを指差した。
━今からあれをぶっ壊す。━
「…え!?なんで!?せっかく僕があれに捕まらないように助けたのに!?」
━お前は人間なんだろ?同じ人間が捕まってたらお前は見捨てんのか?━
「…で、でもそれとこれとは」
━同じだ!お前、ギブアンドテイク?ってやつが重要とか抜かしてたな。━
アウトロードはエンジンを再び吹かせながら建物の扉を蹴破る。
━そんなん必要ねえよ!感情で動くのが大事なんだ!協力する気がねえならダチでもねえ!そこで見てろボケが!━
アウトロードは勢いよく飛び出してトラックに蹴りをいれた。
「うわあっなんだ!?」
「あっ、コイツだ!コイツがさっきの最後!」
━オラアッ!━
蹴りが機械に当たった。機械からは火花が飛び散り、黒い煙を上げて壊れた。中から魂の声が微かに響く。
「ああ俺たちの…!」
「この野郎ふざけんな!」
━ふざけてんのはお前らの方だこのクソボケ!━
威勢よく飛び出してきた男2人はアウトロードによって瞬殺されてしまった。腹を蹴られ、うめき声を上げて倒れ込む。
━へん、こんなもんか。大層なことする割にはそうでもな━
「後一人、いるぞ。」
トラックの陰に隠れていた一人の男が、携帯型の魂を捕獲する機械を持ち、奇襲を仕掛けた。勝利の余韻に浸っていたアウトロードはまんまと隙をつかれ、地面に倒れ込む。
━…クソ、力が…!━
「よくも俺たちの邪魔を…!この借り返させてもら」
更なる奇襲だ。千速は壊れた機械のアーム部分を必死に持ち上げ、男の頭蓋めがけて振り下ろした。
━お前…。━
「ギブアンドテイクは大事なんだ。」
アウトロードは差し伸ばされた千速の手を躊躇いながらも結局握り立ち上がった。
「さっき僕と君は喧嘩して友達じゃなくなった。だからもう一回君に恩を売って、それで友達になろうって算段。どう?すごいでしょ?」
━…その割には、武器も行動もその場合わせだったように感じたけどな。━
「…そっちだって、結構こっちのこと見てたよね?もしかして心配してくれてたの?」
━…。━
2人とも素直ではなかった。お互いの足りない部分を思い遣ったのをバレたくはなかったからだ。ただ、その2人の対となる性格が、2人を強く結びつけることとなった。
━ダチは却下だ。━
「…え。」
━お前らは人と魂が協力することを相棒って言うんだろ?じゃあそっちで行こうじゃねえか。━
「相棒!?ほんとに、ほんとに僕と相棒になってくれるの!?」
━やっぱお前興奮するとうるさいからやめるか。━
「え!?ちょっとそれはないって!」
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「千速って、アウトロードと違って結構理性的って言うか…。」
「そこがアイツらの良いところだった。
相棒ってのは大体2パターンだ。性格が極端に似てるか、極端に対かだ。例えるなら時計の針で0時と6時みたいなもんだ。アイツらは6時側。アウトロードの感情的な性格と千速の理性的な性格が、暴走意志になることを防いだんだろうな。」
━私たちは0時ですかね?━
「6時だろ。俺はインテリ理性的だし。」
━な!まるで私が感情的な猿みたいな言い方を!━
「お前たちはどっちも感情的じゃないか?」
「なっ!」━そんなことはありません!━
「(俺と会ったときの行動を忘れてやがる…。)」
━そういえば千速ってどうして異世界にいたんですか?━
「当時のスタビライザーの記録によると、偶々開いていたから入ってみたとのことだ。割と好奇心は旺盛だったからな。」
━…どうやら秒針はピッタリとアウトロードに重なっていたみたいですね。━
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相棒となった千速とアウトロードは、そのまま順調に社会に馴染んでいく…というわけにはいかない。千速は親にこっぴどく叱られたが、アウトロードと離れるわけにもいかないので、京葉基地付近にある養成校へと入学することとなった。
「じゃあ千速。この問題の答えを。」
「はい。最」
━最大値5!最小値0!━
「うわあアウトロードって二次関数解けるんだ!」
「すげえな!」
━へん!こんくらい俺にかかれば朝飯━
「ちょっと!僕の答え見て言ったでしょ!後勝手に出てくるな!」
「コホン。2人とも、授業妨害をするなら単位は没収しますよ。」
「うわ!すいません。ほら、アウトロードも。」
━チッ、さーせん。━
「没収。」
「アウトロード!」
2人は親友…とまではいかなくとも、気の許せる仲にまで成長した。お互いの持ち得ないものをお互いに教えていくうちに、2人が人として、魂として成長していく。
だが、そんな2人の成長も全てが良いとは言えない。相棒などなれるかどうかも分からない雛達に囲まれて育った若鳥は、ぐんぐん成長していったが、それと同時に余分な自信までついていってしまった。
「今日から四学年。世間の学校で言うところの高校一年となった諸君には、実戦訓練を行ってもらう。」
「実戦訓練!まあ行ける!」
━へん、俺らなら余裕だな。ボコボコにしてやるぜ!━
「早速訓練を行うのだが…千速、アウトロードはあの建物に行け。」
千速とアウトロードは皆が訓練する場所とは異なる、別の屋内に移動した。
「急に行けって、なんだろう?」
━知らねえよ!俺たちが強すぎて周りの雑魚どもじゃ話にならねえから特別強いやつがいるんじゃねえか?━
「かもね。」
「君たちが千速シンイチと、アウトロードか。」
中央には1人の女が立っていた。
━あ?お前が俺たちの相手か?━
「いかにも。私は千装リン、六学年。君たちの相手を頼まれている。」
千装は手で招いて戦闘体制をとる。
「かかってこい、2人とも。」
「…?2人とも?」
━おいおいそれじゃオーバーキルだぜ。シンイチも俺よりは遥かに弱えが、昔のヒョロガリなガキじゃねえ。━
2人は千装の前に立つ。
━救急箱は持ってきてある。全力で来い。━
「それはこっちの台詞だ!」
━行くぜボケが!━
30分後。
「10勝。終わりだな。」
━…ってえ…お前魂か!?━
「いや、人間だよ…人間なのにこんなに強い…!」
千装は2人に背を向けて帰ろうとする。
「待てよ!」
「…。」
━負けっぱなしでいられるか!また明日ここに来い!ボコボコにしてやるわボケが!━
「首洗って待ってろよ!」
2人にとって、初めての、そして最大の挫折だった。魂と人間の2人がかりで戦っても、1人の人間に負けた。その事実がどうしても悔しくてたまらなかった。
「…私の弟子であり、ライバルってわけか。楽しくなってきた。」
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━いや、千装隊長強すぎませんか?━
「話盛ってます?まだ相棒にもなってないんですよね?」
「事実だ。千装は養成校を圧倒的な成績で合格、入隊後も類を見ない早さで隊長まで上り詰めた。はっきり言っておかしいとは思う。だがそのおかしさが、アイツらを大きく成長させた。」
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2人が七学年の春。もうすぐスタビライザーに入隊するというのに、未だ千装には勝てていなかった。それでも千装はスタビライザーに入隊した後も、OGとして毎日訓練に参加していた。
そんな訓練も最後の日。
「おら、ガキども。特にそっちのエンジン。ちょっと脚見せてみろ。」
━げ、出たなジジイ!━
行森エイイチは京葉隊に入った千装の付き添いとして訓練によく訪れていた。出会いは遅かったものの、機械を見る目は一流であり、『エンジン』の魂であるアウトロードの体のどこが悪いかなどを調べ、訓練のサポートをしていた。行森エイイチが訓練に付き合う前と後では、成長率がかなり変わったと皆も実感していた。
「学生としてあの化け物女に挑める最後のチャンスなんだ。万全で挑みたいだろ?」
「ちゃんと診てもらえよアウトロード!」
━ったく、しゃあねえな。ほらよ。━
行森が診たところ、アウトロードに異常はどこにもなく、万全の状態だった。
━ほらな、大丈夫だったろ!━
「念には念をだ。ほら、行ってこい。負けんじゃねえぞ。」
既に待機していた千装の前に、アウトロードと千速は並んだ。
「…。」━…。━
「…。」
もう彼らの間に言葉は要らなかった。互いに睨み合い、目と目が合った瞬間駆け出す。千装のしなやかで且つ強力な攻撃をかわしたりいなしたひしながら、千速とアウトロードは無闇に突撃せずに攻撃の隙を伺い続ける。
千装が飛び上がり大胆な攻撃を仕掛ける。動作に無駄はなく完璧なようにも見えたが、着地の際のふらつきを2人は見逃さなかった。
━「今だ!」━
2人の声が完璧に重なった。
「(遂に魂装…!となると一直線にこちらに来るはず。そこを撃つ!)」
━「『リバーサ』!」━
「なっ…!逆噴射!?」
今までの突撃的な攻撃方法とは打って変わり、カウンターで千装に勝利を収めた。
「…あれ?今なんか体が変だったような?」
「気づいていなかったのか。今のは魂装。相棒と魂の最高地点だ。」
━マジかよ…!━
「遂にやったんだアウトロード!」
「強くなったな、2人とも。」
千装は笑って2人の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「さて、お前たち忘れていることがないか?」
「忘れていること?」
「スタビライザー、どこに入隊するか知らないだろう?」
━そういや訓練ばっかしてたからそういうの何も考えてなかったな。━
「僕もー。」
「…相性バッチリだな。」
━おうよ!━
「皮肉だ。それはさておき、お前たちが属する隊は…京葉隊だ。」
「京葉隊…って、それって!」
「ああ。私と同じ隊だ。これからもよろしくな、2人とも。卒業式には私も出てやる。」
━っしゃあ!また訓練しようぜリンさん!今度は10、いや100連勝してやるよ!━
「京葉隊隊長の座も俺たち狙ってるからな!」
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「…本当に、どうしてこんなことになったんだろうな。卒業式の日がまたやり直せたなら…アイツらも…。」
行森エイイチは深く息を吐いた。
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桜が舞い散る春の千葉。スタビライザーへの入隊式兼養成校卒業式が行われた日だった。
卒業証書を手に、千速とアウトロードは晴れやかな気分で街を歩いていた。
「遂に卒業か…。まさかこんなことになるなんて思ってもいなかったな。」
━俺もだ。最初はギブアンドテイク〜とかほざいてた一丁前にほざいてたクソガキだったのが…認めてやるよ、お前は俺の相棒だ。━
「…ああ。これからもよろしくな、相棒。でもやっぱギブアンドテイクは大事だよ!それでこそやりとりは成り立つってもんさ!」
━まーた言ってやがる!俺そんな話聞きたくねえよ!━
そう言ってアウトロードは街の真ん中の大きな横断歩道を駆け抜けた。
「あ!おい待てよ!」
千速もそれを追いかけた。
━へっ!お前もまだまだ━
背後には千速の姿はなかった。代わりにあったのは悲鳴と…赤黒い液体。
━…は?━
アウトロードはおぼつかない足取りで赤黒い液体を辿る。その先には虚な目で手足を微かに震わせる千速の姿があった。
━なあおい!何してんだよ!おい!おい!答えろボケ!クソクソクソクソ!━
アウトロードは混乱して必死に千速の名前を呼び続けた。しかし声など返ってくるはずがない。
アウトロードは千速の腕を握った。すると無意識の魂装が発動し、赤黒い液体の中にエンジンを纏った人が生まれた。
━「(…鼓動がない。だが気配がある。千速はいる。いるんだよ!)」━
━「なあ!応えろよ!なんで俺の言葉しか出てねえんだよ!」━
「ううっ…ぐすっ…。」
アウトロードの前に1人の少女が現れた。
━「おいお前!泣いてないで誰か呼べよ!頼む!」━
「も、申し訳ありません…私の力でまさかこのような感動的なシーンを生み出せるとは…私今、自身の力とこの場に涙が…!」
アウトロードの中で何かが数本切れた。
━「…あの車。お前か?」━
「ええ。感動の香りがしましたから。」
アウトロードがエンジンを即座に吹かして少女を消し飛ばす勢いで飛びかかろうとしたが、一歩踏み出した瞬間、倒れてしまった。瀕死の状態での魂装。それはアウトロードの歩行を不可にするなど容易い傷だった。
「素晴らしいシーンをありがとうございます。それでは。」
━「(ざけんな…俺は…俺たちは…!)」━
少女は背を向けてゆっくりと歩き出す。
━「まだ…スタートできて…ねえんだよ…」━




