21 黄色信号
「この中です。」
SST8、4thが地下の頑丈な扉を開けると、同じような扉が並ぶ地下倉庫が現れた。
「ここは第0保管庫。他の基地から依頼を受けたり、ここの研究で作った様々なもののまだ世に出回っていない試作品が保管されています。今は9番倉庫しか埋まっていませんが。」
9番目の扉が開き広がった無機質な部屋の中には、頑丈なショーケースに入れられた小さなリモコン型の機械が2個置いてあった。
「これは最新型の世界鍵二十七式。繋界の開閉を0.5秒で行うことが可能な代物です。」
「「0.5秒!?」」
「それってすごいことなのか?」
「うん。普段私たちが使ってる世界鍵は開閉に5秒くらいかかるの。それが10分の1ってことだからすごい短縮だよ!」
「だがそれは崩壊連星を含む犯罪者たちが奇襲を仕掛けやすくなる。絶対に奪われたくない代物だな。」
「10分の1っていってもたった4.5、いや重要か。」
━大火との戦いで身に染みて分かりましたね。━
「ええ、これを使えば人口過密地帯である私たちの戦場、首都圏でもすぐに敵と共に私たちを異世界に送ることができます。ただそれが敵の手に渡った場合、逆のことが起こります。絶対に奪われるわけにはいきません。」
4thは装置を操作して最新型の世界鍵を取り出した。
「これは明日、川崎基地の地下実験場にて作動試験を行う予定があります。アンはそこへの輸送中を狙うつもりでしょう。ここに至るまでの道を通ったことで分かったと思いますが、侵入は相当困難です。」
「異世界側から世界鍵で侵入とかはされないのか?」
「その可能性は薄いだろうな。基地のみならず、最近の建物には世界鍵の作動を封じる電波装置があるんだ。それを破壊されるとアラートが流れるから、俺たちも気付けるってわけだ。」
━うまく対策されてるんですね。━
「そうでもしないと首都圏のプライバシーは消え去るからな。企業と国の努力に感謝だ。」
「アン側からしたら、保管庫に侵入するよりも、輸送中を狙った方がやりやすいでしょう。頑丈な扉を何枚も破るより、自動車を壊す方が幾分も簡単ですから。」
「じゃあ大ピンチ…?」
「ですね。川崎と京葉の間を直接繋ぐ頑丈なトンネルでもあれば楽なんですけど…アクアラインをなんとか全部封鎖とかできませんかね?」
「海上輸送や航空輸送でも危険だしな。」
「車両を偽装したってばれそうですね。」
SST8と特殊派遣部隊が頭を抱えていると、千装隊長とアウトロードが何か閃いたように顔を上げた。
「そもそも輸送を目的にしなければいいんじゃやいか?」
━「世界鍵を餌にするってことだろ?」━
「ああ。」
「…えっと、どういうことですか?」
「つまり、世界鍵を囮に崩壊連星を誘き出し、撃破するんだ。」
「崩壊連星と正面衝突するってことか!?」
「随分と大胆だね…。」
「俺たちだけで行けるか…?」
「なるほど、その手がありましたか。」
「いいですよ。やってやりましょう!」
特殊派遣部隊はその大胆な作戦に困惑していたものの、SST8は精鋭と呼ばれるだけあって肝の座った返事をしていた。
「この作戦は川崎隊と特殊派遣部隊にも協力を要請したい。特殊派遣部隊、協力を受けてくれるだろうか?」
━「俺は絶対にやる。」━
「俺も。ここまできて逃げ出すつもりはない!」
「不安は残るが、こういうのが仕事だからな。」
「怖いけど…後方支援でいいならやる!」
「ありがとう。ただ協力には隊長の許可が必要なんだ。その旨を黒淵隊長に伝えてくれ。」
追崎が端末を取り出して黒淵隊長に電話をかけた。少しすると黒淵隊長が出たので、千装隊長が作戦のこと、詳細が決まったら黒淵隊長にも伝えること、現地の特殊派遣部隊が参加すると言っていることを伝えた。
「協力の許可は出すよ。緊急事態には僕、後は川崎隊の止境隊長にも掛け合って向かえるようにするよ。」
「ありがとうございます。黒淵隊長もいれば100人力ですね。」
「あ、みんな、この声は聞こえているのかな?」
「聞こえています。」
「そうかい。じゃあ1つだけ伝えておくね。"無闇に突っ走っちゃ駄目だよ。"じゃあみんな、どうか安全にね。」
そうして電話は切られた。
「よし、ではこれから迎撃作戦を立てよう。」
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22:00、京葉基地付近の埋立地。消化活動も無事に終わり辺りが一度の静寂に包まれていた。
━ミツキは仮眠しないんですか?━
作戦の要項が決まった後、作戦開始までの時間は準備に当てられた。深夜の作戦になるため仮眠をする者が多くいる中、八代は眠れないでいた。
「ああ、なんか寝れないんだよな。」
━まあ不安ですよね。大火との接敵で崩壊連星の恐ろしさは十分に知っているので。でも有事には黒淵隊長も来てくれると言ってましたし大丈夫じゃないですか?━
「それも勿論あるけど…。」
八代の心には何か引っかかるものがあった。このまま進んでいいのか分からなかった。まるで交差点の信号を見ずに進もうとしているような、そんな感覚があった。
「ごめん、ちょっと散歩してくる。」
━散歩ですか?気分転換にはちょうど良いかもしれませんね。行ってらっしゃい。━
八代は建物の外に出て、影のもとへと向かった。
「…千速、アウトロード。」
━「ボケか。」━
千速とアウトロードは八代に目を合わせようとはしない。ただ暗い海を眺めていた。
「何やってるんだ?」
━「お前こそ何やってんだ?」━
「俺は…えと、気晴らしの散歩ってとこ。」
━「そうか。」━
妙に張り詰めた空気が流れる。
「…あのさ。これ、聞いて良いか分かんないんだけど」
━「シンイチのことだろ。」━
千速と…いや、アウトロードは淡々と言った。
「…バレてたか。」
━「…シンイチは最高の相棒だった。」━
アウトロードはその一文を必死に振り絞った。
━「俺はこの作戦でアンを殺す。それが俺の揺るがねえ"意志"だ!」━
アウトロードはそう叫んだ後、建物の影の闇の中へと消えていった。八代にはそれを追うことはできず、その場に立ち尽くしていた。
━ああ、いましたよ。━
「どうしたんだマイブラザー!顔が真っ暗だ!私のこのライトでピカピカチョンっと照らして」
「駄目っすよノア!失礼したっすこんな夜遅くに。部屋にいなかったんで、ガイードに聞いてここら辺を探してたんすよ。ノアの言う通り元気なさそうっすね。」
八代の元に行森兄妹がやってきた。
「…午前中掃除のしごきを受けてたから。というか行森たちはどうして俺を?」
「実は爺さんが八代さんに話したいことがあるらしいっす。」
八代とガイードは行森兄妹に連れられ、治療棟にやってきた。無機質な廊下が月光を反射している。
「爺さん、入るっすよ。」
部屋のベッドの上にはエイイチが座っていた。痛々しい火傷を隠すように包帯が巻かれており、元からの無愛想も合わさると元気はまるでなさそうに見える。
「こんばんは。体は大丈夫ですか?」
「こんな傷どうってことない。心配は無用だ。…悪いな。こんな夜遅くに。」
「大丈夫です。俺も眠れなかったところなので。」
「理由は?」
「…アウトロードのことが気がかりでした。」
「だろうな。」
エイイチは煙草に手を伸ばそうとしたが、その手を引っ込めて膝につけた。煙を吹く代わりに小さくため息をつき、八代とガイードの目を見た。
「お前らもアイツらと同じ隊に所属し、同じ作戦に参加する身だ。」
エイイチは座り直して口を開いた。
「アイツらには悪いが、お前らには過去に何があったかを語っておこう。」




