19 事故は来るもの
「来い!」
━認証完了。出撃用意。━
千装隊長は走りながら魂の名を呼ぶと、空から黒い塊が飛来した。千装隊長の横に並んで飛ぶ。
『装甲』の魂、ライフブレイカー。命の破壊者の名の通り、あらゆる兵器を自在に装備し、敵を殲滅する。
「魂装、装甲III。」
━装着完了。━
黒い塊は装甲に変化し、全身を覆った。
━「一気に行くぞ!」━
強化された脚部を用いて高く跳び上がる。そのまま炎の中へと飛び込み、まるで炎の方から避けているかのように華麗に回避して現場に到着した。
━「熱探知する…SST8!私の今いる場所から右前方、前方、左後方2階、右後方の建物内にいる要救助者の救護を!」━
「ラジャー!」
━「そして後方の…」━
後方から焼けた自動車が襲いかかる。
━「敵は私が排除する。」━
千装隊長とライフブレイカーは右肩から伸びるアームの先端に錘をつけ、自動車に向ける。
━「『砕』」━
自動車はバラバラになり、足元に散らばった。
「あら?私からの手土産、お気に召しませんでした?」
赤黒い染みと黒い汚れが付いている白いドレスを身につけた女が、舞い散る花びらのように華麗に降りてきた。
その姿を見た千装隊長はすぐさまライフブレイカーに頭を絞めさせた。感情のエネルギーを痛みで抑え、深く息を吸ってから女の目を見る。
━「気に入らないし、いらないな。」━
「あらまあ、それは残念です。でしたら今度は別のものに致しましょう。そうですね…家族4人入りの自動車などはどうでしょう?旅行に行く途中を襲われて地へ堕ちるあの表情が堪りませんの。」
━「手土産はいらない。何故お前はここを襲撃した?」━
「これから始まる楽しいパーティの開会式…とでも言えばよろしいでしょうか?」
女はその行為と内容に反した美しい笑顔を見せた。
━「…なるほど。参加の拒否は可能か?」━
「強制参加ですよ。」
━「そのパーティの目玉は?」━
「それは秘密です。パーティにはちょっとしたサプライズがあった方が楽しいでしょう?」
━「私の他に参加者は?」━
「沢山、とだけ。」
━「パーティの目玉はいつ行われる?」━
「…どれもこれもまだ秘密、ですよ。」
━「…やはりダメだったか。となれば第二手段で交渉させてもらおう。」━
右肩の錘は鉄の紐に、左腕にはアームギアを装着して女に向かって急接近する。
━「『縛』『殴』」━
鉄の紐は女に当たる寸前のところであらぬ方向へと捻じ曲がり、焼け落ちた瓦礫に絡まった。
「ふふふ、当たりま…え?」
左腕のアームギアが伸び、飛んで避けようとした女の足を掴んだ。即座に右肩の紐をアームに変え、焼け落ちた瓦礫を遠心力と共にぶつけようとする。
━「『拘』『弾』」━
女は目を見開いて驚きつつも、咄嗟に自動車をぶつけて威力を相殺した。
「危な」
女が口を開く隙も与えずに、間髪入れず女目掛けて左肩右肩のアーム、左手右手のアームギアで拳を叩き込む。
━「『殴』」━
女の方も攻撃する余裕がなく、攻撃を交わすだけで精一杯だった。
━「ここだ。」━
「っ…!?」
無数に打ち込まれる拳の一つが女の脇あたりに直撃した。
「(魂を吸収しているのだから肉体の強度はかなり高くなっているはずなのにこの威力…やはり京葉隊隊長は馬鹿になりませんね。)」
女は5つの世界鍵を取り出して、同時に押した。繋界が開いていき、中から唸り声が轟く。
「目的である"ご挨拶"も済みましたので、この辺りで一度帰らせていただきます。では。」
━「逃すか!」━
そう言い残して姿が消えたと同時に、10体ほどの暴走意志が一斉に千装隊長とライフブレイカーの前に立ちはだかった。
━「!装甲Ⅳ…」━
━「『ターボ・プロップ』!」━
炎の中から現れたアウトロードと千速が、暴走意志を思い切り蹴り飛ばした。
━「リンさん!なんだこの量!?10は超えてるぜ!」━
━「よく来た。そうだな、左端の暴走意志の対処を頼む。脚部を見るに動きはかなり素早そうだ。お前の得意分野だろう?」━
━「分かった。…まさか残りは全部アンタらが片付けんのか?」━
━「ああ。」━
アウトロードと千速は何か言いたげだったが、実力を知る者として何も文句は言えなかった。
━「装甲Ⅳ、起動。」━
千装隊長とライフブレイカーに向かって暴走意志たちが襲い掛かる。アウトロードと千速は言われた通り、真っ先に突っ込んできた俊敏な暴走意志を膝蹴りで自分たちごと遠ざけた。しかし残りの暴走意志たちは完全に千装隊長とライフブレイカーを覆い尽くしてしまった。
━「おいおい…いや、余計なお世話だな。オラそこのボケ!相手は俺らだかかってこい!」━
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「クソ、やっぱり速すぎる!」
━急ぐ気持ちも分かるが、ここは道を間違えずに慎重に行くんだ。━
「そこ左ね!」
━( ̄∇ ̄)ブジでいてくれよ〜。━
「なんかアイツらがやられるイメージないし大丈夫じゃない?」
━いや私たちと出会ったときに大火にボコボコにされてましたよ。━
「そういやそうだった。」
北ブロックへ急行しているそのとき、右の入り組んだ工場の中から戦闘服姿の男が飛び出してきた。1stだ。
「そっちは北ブロックだ!逃げるなら反対方向…って、特殊?」
「申し訳ない!うちのアウトロードとシンイチがこっちに走っていくのが見えたから連れ戻しに来ました!」
「本当ならそれも僕たちに任せて欲しかったけど、状況は思っていたよりも深刻そうだ。来てくれて良かったよ。」
「支援もするつもりなので任せてください。」
「ありがとう!この道を真っ直ぐ行けば千装隊長のところに着くはずだ。」
1stはそう言って目の前の道を指差したが、そこにはたくさんの自動車や鉄骨などが置いてあり、行手を塞いでいた。
━少し通りにくそうですね!━
「俺たちで持ち上げますか?」
「お気遣いありがとう!でも大丈夫。こういうのは僕たちの得意分野だ。おいで、マグネシア!」
━はーいはいはいお任せをー。なんでもかんでもピタッとポイっと!私の名前はマグネシア!━
1stの中から銀色のボディーに赤と青の四肢がついた、心地よいリズムで話す小さな人形のような魂が出てきた。
━話は聞いていましたよ!これらをどかせば良いのでしょ?ならば私にお任せを!さあさあやってしまいましょう!━
マグネシアが小さな両手を上に上げると、行手を塞いでいた障害物たちは上へと持ち上がって行った。
「すごい!」
━ひょっとして、『磁石』の魂ですか?━
「ご名答。この子は『磁石』の魂、マグネシア。小さくたって力は強いんだ。頼りになる相棒さ。さあ、早く行こう!」
━さあさあみなさん遅れなさるな!何があっても足は止めるな!臆せず前進スタビライザー!━
特殊派遣部隊と1stは真っ直ぐに千装隊長たちがいる場所へと走って行った。
「ここを越えれば千装隊長がいる場所だ!」
1stに続いて特殊派遣部隊も壁を色んな足場を駆使して登った。
「千装隊長!ただいま支援に…必要なかったみたいですね。」
そこには黒い機械の塊を身に纏った千装隊長が、消えていく塵の前に立っていた。
「…全部倒されてるってこと?」
「流石、としか言いようがないな。」
━「SST8、それにさっきの特殊か。すまない、支援に来てもらって悪いが鎮圧は完了した。」━
そしてそこへアウトロードと千速が駆け寄って行った。
━「リンさん!こっちも片付いたぜ!って、マジに全部片付けたのかよ…。」━
━「一体一体の練度は良かったが、チームワークが皆無だったからな。勝手に自滅し合っていたのもある。」━
━「だとしてもだぜ…。」━
━( ̄∇ ̄)あ、いた!━
「おいアウトロード、千速!少しくらい連絡寄越せ!」
「親みたい。」
━子供が自立したがそれが心配、でも不器用だから強い言い方をしてしまう、みたいなやつだな。━
「そうそう!」
「そうそうじゃない!」
特殊派遣部隊はアウトロードと千速の方へ、集まってきたSST8たちは千装隊長とライフブレイカーの方へ集まった。
「ん?千装隊長、もしかして装甲Ⅳを使いました?」
━「…使おうとした。」━
「何やってるんですか!」
「これくらいの暴走意志なら私たちの支援を待って、それからⅢで戦えば良かったじゃないですか!」
「その超ぜ…じゃなくてかわ…た、大切な体に傷が付いたらどうするんですか!?」
━「いやそういう魂だから仕方がないことだし…というかなんだか発言に含みがあるような?」━
「き、気のせいですよ!」
「ほら、早く魂装を解いて!」
━「わ、分かった。ライフブレイカー。」━
━魂装、解除。━
ライフブレイカーは千装隊長の体から離れていき、黒い機械の塊となって消えて行った。魂装を解いた千装隊長の左腕の一部は、青いあざのようになっていた。
「内出血してるじゃないですか!誰か、応急処置用の保冷剤持ってる?」
「俺が持ってる。早くこれを患部に当てて救護室行きますよ!」
「そこの皆さん!ここはもう危険です!早くこちらへ!」
消防隊員が必死に呼びかける声がやっと隊員たちの耳に届き、すぐにそこから撤収した。そして近くに停まっていた京葉隊の出動車に乗り込み、北ブロックを後にした。




