18 SST8
アウトロードと千速、千装隊長はお互いに向き合って立っていた。事情を知らずとも分かるほどに気まずい空気がその間には流れていた。
「…変わりはないのか?」
━「まあな。良くも悪くも。レッドランプの連中に見てもらったが、魂装してねえと即死だってよ。」━
「…そうか。」
沈黙が少し流れる。
「…あれから5年か。アウトロード。いつまでお前は1人で苦しみ続けるんだ?あの"事故"だって」
━「俺はその"事故"を起こした女も!救えなかった俺も!どっちも嫌いなんだよ!」━
アウトロードの激昂が部屋に響く。
━「…俺はヤツを俺の手で殺す。そしてその俺の意志が果たされれば、俺もシンイチも同じ場所へいける。」━
アウトロードは呼吸を整えた後千装隊長の目を見て口を開いた。
━「これは俺の復讐で、罪滅ぼしだ。俺1人でやんなきゃなんねえんだ。」━
アウトロードは部屋の扉を開いた。
━「元気でな、リンさん。」━
部屋の扉は閉まった。
「…まだ、私は未熟だな。」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
出動車を預けた場所へ戻ると、行森兄妹が手慣れた手つきで修理を行なっていた。
「兄さん!それとってくれるかい?」
「これっすね。」
「ナイススロー!あともうちょっとだ!」
「2人ともすごいなあ。若いのに作業がすっごく早い。」
「ねー。兄妹だからってのもありそうだけど。」
━( ̄▽ ̄)なんだかんだイいコンビにミえるね。━
「まだ2人とも若いだろ。」
「俺は分かんないだろ。」
━記憶がないんですから実質生後1ヶ月くらいですよ。━
「子供扱いするな!」
━まあ見た目的には高校生くらいだけどな。━
そう話しながら作業を見ていると、チャイムが鳴り響いた。
「何の音だ?」
「これは確か、昼ごはんの時間のチャイムだね。京葉基地は大きいから食堂に人が集まりすぎないよう、ブロック毎に使える時間が決まってるんだよ。」
「へえ〜。なんかそういう話してるとお腹空いてきたな。」
「確か隊員なら他の隊の食堂でも食事を取れたはずだ。行ってみるか?」
「「行きたい!」」
「決まりだな。」
特殊派遣部隊の隊員たちは食事に行く気満々だったが、行森兄妹は作業に没頭していた。
「おーい2人とも!飯食いに行かないか?」
「おや、もうそんな時間か。」
「やっぱ作業してると時の流れは早いっすね。」
「どうする兄さん?後もうちょっとで終わりそうだが。」
「いや、混む前に行くっすよ!仕上げをするにも何をするにもお腹が空いてちゃ何もできないっすからね。」
「流石兄さん名案だ!じゃあ行こう!」
そうして行森兄妹と特殊派遣部隊の隊員たちは食堂へと向かった。
「広ーい!」
━椅子の数が段違いですよ!━
「よっしゃ椅子ジェンガしよ!」
「馬鹿やめろ2人とも!」
特殊派遣基地メインルームの10倍はありそうな大食堂には、たくさんの隊員が集まってきていた。様々な美味しそうな料理の匂いが混ざり合って隊員たちの鼻に押し寄せる。その香りはどんな人間の口からもよだれを垂らさせてしまいそうなものだった。
「東京湾って結構いい魚が取れるんで、ここの魚料理は他の基地よりも美味い自信あるっすよ!」
「ワタシ様はさんが焼きが好きだな!そして今日はさんが焼きがある!神だ!」
「地元の食材を使ってるんだな。」
「東京湾って工業だけじゃないもんね。」
各々が好みの食事を注文し、空いている席について食事をとり始めた。
「これうまーい!」
「ヒラメのフライっすか。中々いいチョイスっすね!」
「見てくれ兄さん!さんがタワーだ!」
「こらノア!食べ物で遊ぶんじゃないっす!」
千葉県の食材をふんだんに活かした京葉基地の美味しい食事をとっていると、彼らの前に2人の男がやってきた。
「すまない、ここに座ってもいいかい?空いている場所が少なくてね。」
「いいっすよ…って、SST8!?」
「こんなところで出会えるとは、今日のワタシ様は超超ラッキーだな。」
「ん?知り合い?」
驚く行森兄妹に八代が尋ねた。2人の反応を見ていた男たちは笑っていた。
「そんなに驚かれるほどじゃないよ。」
「あくまで俺たちはサポーターだからな。」
「だとしてもすごいんすよ…!」
「他の隊でも有名なんだ!」
「有名人!?サインください!」
「いやいやそういう有名人じゃないよ。僕たちはせん…Special Support Team 8の1stこと飛戸と、」
「5thこと後藤だ。」
Special Support Team 8、通称SST8。千装隊長をサポートすることに特化している精鋭部隊だ。彼らの華麗なチームワークは他の隊からも一目置かれている。ただ、有名な理由は他にもある。
追崎は代表して1stと5thに紹介をした。
「特殊派遣部隊か。川崎じゃなくてこっちに飛ばされるなんて不運だったね。」
「魂が多いと思ったらそういうことだったんだな。確か黒淵隊長のところか。黒淵隊長の訓練はキツイと聞いたことがあるんだが、それは本当なのか?」
「本当!体が滅茶苦茶重いんです。」
━アヤカと黒淵隊長を除いて他の隊員はいつも情けない声をあげていますよね。━
「情けないとはなんだ!」
「いやー精進したまえコウイチくん。」
「うるさい!」
「ははは!僕も一度受けてみたいなあ。」
「偶には他の隊と訓練をすると言うのも、悪くはなさそうだな。」
「でも精鋭の2人にはそこまでトレーニング効かないんじゃないですか?俺ももっと早く強くならないとなあ。」
「ん?もしかして君は最近入ったのかい?」
「そうです。」
━1ヶ月経ったから経っていないかくらいですね。━
「1ヶ月か。見たところ魂と相棒で悪くない関係を築いているようだし、まあ良いんじゃないか?」
「大変なこともあると思うけれど、頑張ってね。」
「ありがとうございます。」
そうして話をしながら食事を摂っていると、入口の方で小さなガヤができていた。男女問わず端末を手に黄色い声を上げている。
━なんでしょう、あの人だかりは。━
「まさか本当に有名人が来た?」
「…いや、あの人だかりは…」
「おい、行くぞ。」
そう言って1stと5thは立ち上がって人だかりの方へと向かった。何やら話したと思うと人だかりは無くなっていき、中から1人の女を連れて出てきた。背は比較的高く、体は筋肉質で、ウルフカットの髪がその立ち姿によく似合っている。
「助かった、1st、5th。」
「いえいえ、あなたのサポートが僕たちの責務ですから。」
━僕たちの責務…まさかこの人が千装隊長ですか!━
「ん?この子たちは?」
1stと5thは千装隊長に特殊派遣部隊のことを話した。
「なるほど。出動車の点検に来ていたのか。特殊派遣部隊は良く知っている。黒淵隊長とは隊長同士関わりがあるからな。」
「やっぱり千装隊長なんですね。」
「いかにも。私は京葉隊隊長、千装リンと言う。さっきは隊長として見苦しい姿を見せてしまったな。まさかあんな人に囲まれてしまうとは。何故みんな私を囲むんだ?」
「きっとあなたのことを皆尊敬しているんですよ。その感情が大きすぎただけです。」
「そう…なのか?まあ、隊員たちに好印象を持ってもらえているのは、隊長として嬉しい限りだな。この席、座ってもいいか?食事をとってくる。」
「はい!確保しておきます。」
「ありがとう。1st、5th。」
そう言って千装隊長は席を後にした。
「かっこいいなあ。」
━素敵な女性です。皆さんが慕う気持ちもよくわか…あれ?━
2人は千装隊長の姿に見惚れていたが、それ以上に見惚れている者がいた。
「あーまじでなんなんあの美貌。犯罪でしょかっこかわいすぎでしょあれ。なんらかの罪に問われるよ。目に良すぎて逆に悪い通り越してやっぱ良いよ。」
「恐らくシャワー後だあれは。髪が微かに濡れていた…。色気が限界突破している。惚れる。」
「「あー彼女にしてほしい…。」」
2人は何も聞かなかったことにしようとして目を必死にそらしたが、1stと5thはそれを見逃さなかった。
「ねえ2人とも、千装隊長のことどう思う?」
2人の背筋は凍った。
「と、とてつもない美しさとカッコよさを両立していて非常に魅力的な女性だと!」
━筋肉質な肉体とその中に見える愛嬌が数々の人々の心を奪ってきたのだろうと!━
1stと5thはにこやかに笑った。
「お前ら、見込みがあるな。千装隊長の推すべきポイントをしっかりと抑えている。」
「これはSSTに入ってもいいかもね。」
「え、SST?」
━…S、S、T…はっ。まさか、SST8とはSpecial Support Team 8ではなく…!━
「そう…
Sen Sou Taityo daisuki club top8
のことだッ!」
これがSST8が有名な裏の理由である。千装隊長はその美貌から男女問わず人気のある人物。そんな彼女のファンの中から最も彼女の活躍を引き立てることのできる8人が選ばれた。それがSST8だ。だがそのことが千装隊長にバレてはならない。何故なら彼らは千装隊長が真実を知ったら、多大なプレッシャーを感じると知っているから。そのためSST8は愛によって培った抜群の実力と千装隊長を想う気持ちで他のSSTをまとめ続けている。
「〈なあガイード。なるべく早く帰らない?〉」
━〈奇遇ですね。私も帰りたいです。〉━
「さて、ではまずは軽く千装隊長についての魅力を5時間ほ」
5thが身を乗り出して千装隊長についての魅力を語ろうとしたそのとき、京葉基地全体にサイレンが鳴り響いた。
「北ブロックにて火災発生。同時に侵入者も確認。迅速に避難をして下さい。繰り返します。北ブロックにて…」
「火災に侵入者!?」
「基地に乗り込んできたやつがいるの!?」
「緊急事態だな…!」
「SST8!行くぞ!ここにいない者にはすぐに連絡しろ!そして戦闘可能な隊員は待機を!それ以外の者は総員避難だ!」
特殊派遣部隊含む周囲の隊員が慌てる中、千装隊長は通る声で混乱を抑え、人混みを軽やかに飛び越えて外へ向かった。
「行くぞ!」
「応!」
さっきまでのおかしな雰囲気とは打って変わり、真剣な表情で1stと5thも千装隊長に続いて行った。
━…おい、北ブロックってお前らの爺さんがいるとこじゃないのか?━
「そうじゃん!」
「そうっすけど…僕たちはSST8を信じます。」
「私たちも行きたいが、行ったって無駄死にするだけかもしれない。」
行森兄妹は唇を噛み締めながら外を見ていた。不安が脳を蝕んでいく。
「追崎、俺たちも行ったほうがいいんじゃないか?」
「行きたい気持ちは山々だが、今は千装隊長の言葉に従ってここで待機だ。装備の確認を済ませておこう。」
「そうだね。無事に済めばいいんだけ」
━「俺たちも行ってやるぜーっボケがーッ!」━
「急遽変更行くぞみんな!」
「何してんだあいつら!」
「連絡がないと思ったら!」
特殊派遣部隊も食堂を飛び出して、いつもの調子で駆け抜けて行ったアウトロードと千速を追いかけて行った。




