1 追う者
…『異世界』と『現世界』の繋ぎ目、『繋界』が最初に発見されたのはどこで何年前か、知ってます?」
「流石に分かりますよ。小学生の時に習うじゃないですか。300年前、東京湾ですよね!」
「おや、簡単すぎたようですね。」"
電話が鳴った。
「はい、追崎です。」
"「異世界と繋界は300年前、東京湾上に出現しました。それからというもの、その繋界を中心とするように関東地方では繋界が各地で出現し、その度に異世界も広がっていっています。」
「当時の人々はさぞ驚いたでしょうね。空間が裂けてそこを通るともう一つの同じような世界が広がっているなんて!しかもこちらの世界に呼応するように変化する…本当に不思議です。」"
「はい、水江町?…川崎市の工業専用地域…ああ、そこに繋界が。分かりました。」
"「そして現世界と異世界の安定化を行う機関こそが、世界安定化機関『スタビライザー』。彼らは危険に満ちた世界へ飛び込み、私たちの暮らす現世界の平和を維持しています。」
「色んな活動を行うスタビライザーですが…やっぱりスタビライザーといったら、『万象に宿る意志の具現化』の『魂』とそれと信頼関係を築く『相棒』ですよね。」
「確かに、スタビライザーと言ったらそれが1番有名ですね。あの常識外れの隊員の動きには誰もが一度は憧れを抱くんじゃないでしょうか?」
「私もよくやっていましたよ。魂と相棒ごっこ。私が相棒役で、友達が枝をたくさん持って『木』の魂!みたいな。」
「ふふ、可愛らしいエピソードですね。」"
「…なるほど。確かに俺たちが行った方が良いですね。」
"「でも、現実はそんなに可愛らしいことばかりではありません。異世界は本当に危険な世界なんですよ。」
「それは勿論分かってますよ!『暴走意志』ですよね。魂と適合できなかった者が魂に意識を呑み込まれて、または魂の突然変異によって破壊の限りを尽くす怪物と化してしまうという。」
「つい先月も、こちらの映像。JR浦和駅前に繋界が開いて、中から出てきた暴走意志が騒動を起こし、15人が怪我をする事件がありましたね。」
「スタビライザーもすぐに駆けつけられるわけではありません。もし暴走意志が近くに現れたら如何にして身の安全を守るかを、日頃から確認しておかないと!」
「その通りです。さて、では『異世界』についておさらいできたところで」"
「あーちょっとお客さん、勝手にテレビいじらないでよ。」
「へへ、いいじゃあれえかちょっとくわい〜。」
「はい、ではすぐに向かいます。」
追崎は支払いを済ませ店を出て、タクシーを捕まえる。
「水江町の東伊石油前までお願いします。はい、バス停のところで。」
タクシーは目的地に向かって横浜を抜け出した。
「(にしても、まさか迷子探しなんてな。繋界から出てきたのが1人の少年。出てきたときは周りに害を与えることもなく、何も持っていなかったとの目撃情報…。ただの迷子か、運び屋かのどっちかだろうな。)」
夜の光り輝く工場たちを横目に、タクシーは首都高速を駆け抜ける。20分ほどで到着した。
「ありがとうございます。支払いはこれで。あと、領収書も。」
少し歩くと、交差点は封鎖されていた。交差点の中央には赤黒い空間の裂け目が鎮座している。
「あ、追崎さんですか?特殊の。」
「はい、そうです。少年を1人見つければ良いんですよね?」
「はい。繋界の封鎖は川崎の方で行うので問題ありません。」
「分かりました。では、こちらも始めさせてもらいます。」
追崎の体の中から人型の魂が出てくる。黒いガス状の体にベージュのコートを羽織っている。加えているタバコからは黒い煙が立ち上る。
━話は聞いていた。異世界から飛び出してきた少年の"追跡"だな?━
「話が早くて助かる。早速取り掛かろうか、チェイサー。」
合図をすると、追崎の目には光の線が映った。
━こっちの方向だ。━
「了解。さあ、迷子探しの始まりだ。」
光り輝く夜の工場の中、追跡が始まった。




