17 忠告
行森兄妹から出動車の点検には1時間強かかると言われ、その間やることがなくなった特殊派遣部隊の隊員たちは、京葉基地の見学をすることにした。
「わあ…やっぱすごいなあ京葉基地!何もかも大きいや。」
━ ( ̄▽ ̄)あのパーツホしいな…ねえアヤカ、トってきてもいい?━
「それは駄目!でもちゃんと許可取りにくるのは偉い!」
━( ̄▽ ̄)えへへー。━
━感覚が麻痺してるな。━
「なあガイード、あのパイプ上手く使えば煙突の上まで行けると思わないか?」
━…行けますね。行きましょう。━
「よしきた!」
━先に着くのは私です!━
「あっ、おいコラ!何してる!チェイサー!」
━世話が焼けるな。━
「うわあ地面が急上昇してくる!」
━私たちが落ちてるんですよ!━
「人様の基地で変なことするな!」
そんな騒ぎ声も京葉基地の工場の騒音に比べれば小さいもので、周囲に気にする者は誰一人いなかった。
30分ほど歩くと、隊員たちは端に着いた。
「あれ、ここ端っこ?」
「そうみたいだな。」
━もうすぐ時間だ。そろそろ戻ったほうがいいんじゃないか?━
「そうだね。じゃあ来た道を戻ろっか…って、あれミツキくん?何してるのー?」
八代は端の古びた建物の窓から漏れている光が気になっていた。思い切り背伸びをして窓から中を覗き込もうとしたそのとき。
「うわっ!」
破裂音と共に八代は叫び声を上げながら後ろに倒れ込んだ。
「何やってるんだ?」
「いや、ちょっと中が気になって…。」
「工場は危険が多いんだから勝手に動くんじゃない。さっきのパイプ登りしかり。」
「ゲホッゲホッ。はぁ、失敗か。」
建物の扉が開き、タバコを咥えた老人が出てきた。腕は太く、肩幅は広く、服は年季の入った作業着と風格漂う見た目だ。
「ん?なんだ若いの。こんなとこで何してる?」
「俺たちは特殊派遣部隊だ。出動車の点検に来たんだがそれに1時間強かかるらしくてな。それまでやることもないから京葉基地の見学をしていたんだ。」
「特殊か…。黒淵は元気にしてるか?」
「え、黒淵隊長の友達?」
━黒淵隊長って慕われているイメージが強くて友達というか横のつながりのイメージがありませんね。━
「元気にしているか聞いてるんだ。」
「げ、元気にしてますよ!ご飯だってお代わりしてますし。」
「そうかい。」
老人はタバコの煙をフーっと吐いてから、気だるそうにドアノブに手をかけたが、開けずに立ち止まって隊員たちの方を向いた。
「…ん。そういや、特殊に最近新人が入ってきたって聞いたが、本当か?」
「それは俺と」━私です。━
「お前らか…新人、忠告しておくが半端な意志ではやっていけないのがこの世界だ。例えばお前らみたいに遊び呆けてるみたいなやつらとかな。」
「ん…。」━…。━
八代とガイードはその言葉に反論したい気持ちもあったが、謎の説得力に黙っているしかなかった。
「悪いことは言わねえ。早めにそんなとこ離れて味気ないとこで暮らした方がいい。…味すらも感じられ」
「爺ちゃん!部品できたっすか?」
緊張を破る聞き覚えのある声が隊員たちの耳に入った。行森ナオトだ。
「あれ、特殊の皆さんも?なんでこんなとこにいるんすか?」
追崎がここに辿り着いた経緯を説明した。
「なるほど、そういうことっすか。でもすいません、もうちょっと時間がかかりそうなんすよ。エンジンが結構劣化してて…記録を見る限りそんなに時間が経ってないはずなんすけどね。」
隊員たちは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
「それは俺たちの運転手の運転が荒かったせいだな。」
「法定速度ギリッギリでずっと飛ばすんだもん。やっぱ18号は再教育決定!」
「ってことで、爺さんに修理用のパーツを作ってもらってたんすよ。」
「え、もしかしてそんな短時間で作ってたのか!?」
━一体この人は何者なんです?━
「フン…。」
「え、もしかして爺さん、自己紹介してないんすか?」
老人は再びタバコをフーッと吹いた後、建物の壁によりかかった。
「勝手にここに来たのは特殊の方だ。どうして俺がやらなきゃならない。」
「…はぁ。すいません。
爺さんの名前は行森エイイチって言って、僕とノアの師匠的な立場の人でもあるっす。腕前もピカイチで魂持ちと疑われるほどなんすけど、とにかく無愛想で。トラブルを避けるために僕らが端に拠点を移したんす。」
「おい、話してる暇あんなら早くこれ持ってけ。」
行森エイイチはどこからともなくパーツを取り出してナオトに渡した。
「おお、やっぱ腕前は流石っすね!」
「俺はまだやることがある。お前らもさっさと帰れ。」
そう言って行森エイイチはドアを閉めて再び建物の中で作業に戻ってしまった。
「すいません。爺さん、なんか変なこと言ってなかったすか?」
「別になんも言われなかったよ。」
計良が何か言おうとしたのを遮るように、八代は答えた。ガイードは黙っていたが、八代と何か一致していた。計良たちは不思議な目で八代を眺めていた。
「そうっすか!なら良かったっす。爺さん無愛想だから、なんでもキツい言い方しちゃうんすよ。」
行森ナオトは部品を持って駆け出した。
「エンジン直せば終わりなんで、皆さんも戻ってきて下さいっす!」
そう言い残して入り組んだ工場の中へと消えていった。
「ねえミツキくん。どうしてあのこと言わなかったの?」
「まあ、結構キツい言い方ではあったよな。」
「うーん、行森…えっと兄の方、ナオト、妹と爺さんが癖強いから大変そうだなって思ったのもあるけど…なんか、反論する気になれなかったんだよな。」
━私も同じです。そう言う説得力があったようにも感じました。━
「ふーん。まあ、2人が気にしてないならいっか!」
「そうだな。さて、俺たちも言われた通り戻ろう。」
━そういやアウトロードとシンイチはどこにいるんだ?━
「さっき連絡があった。野暮用があるからもう少し待っとけボケ、とのこと。」
━アイツらチャット上でもボケって言うんだな。━
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特殊派遣部隊が京葉基地に到着する2時間前。千葉県市川市のとある交番。
「最近、事故が多いですね。」
「年度末、年度始めだからな。初心者ドライバーが増える時期だから事故が多いんだろう。」
「にしても、ちょっと異常ですよ。全国じゃなくて、首都圏だけ増えてるんですよ。」
「そういうこともあるだろう。事故はいつだって"偶然"起こる悲劇だからな。」
「そうですけど…。」
「ほら、事故を防ぎたいんだったら喋ってないでパトロール行くぞ。」
「あっ、ちょっと待って下さいよ!」
「早く来いよ。先に乗って」
そう年配の警察官が言った途端、轟音と共に建物が揺れた。割れたガラスが飛び散り、赤黒い結晶となって突っ込んできた黒い車のフロントに散らばる。
「え?じ、いや、せんぱ、先輩!救急車!」
「ふむ、準備運動はこれくらいでよろしいでしょうか。そろそろご挨拶に参りましょう。」
「う、うん。でも僕、ちょっと怖いな。やっぱり僕は行かなくてもいい?」
「ええ、ええ、まだ行かなくても大丈夫ですよ。ほら、このお菓子をあげるから少しだけ待っていて下さいね。」




