16 京葉基地
八代とガイードが入隊してから3週間が経過した。三軒茶屋の一件から特に出動はなく、その期間を使ってスタビライザーの生活へ順応していった。スタビライザー全体のことから食器洗い当番まで、たくさんのことを学んでいた。そんなある日…
━(O_O)これはナニかな?━
「えっ、そ、それは…。あっ、現代アートってやつだよ!」
━(O_O)ヨゴれだよな?━
「……。」
━(O_O)やりナオせこのバカヤロウ!ソウジもできねえでナニができんだこのクソクソクソ!━
「痛い痛い痛い肉体も精神も攻撃してくるな!」
━(O_O)タイしてガイードのソウジはテイネイだな。ミコみがある。━
━ふん、まあ当然ですね。それに比べて私の相棒と来たら…。━
「ガチ平手打ちヨーイ」
━(O_O)ヒラテウちもごショモウか?━
「はい本当にすいませんでしったい!なんで!?謝ったじゃん!」
━(O_O)うるさい。━
「あーもうやってやろうじゃねえかよこの野郎!」
「あーやっぱあの漫画のキャラの厳しさ5倍にして6号作ったの失敗だったかな。」
「どう見ても失敗。」
「声が建物の奥まで響いてるぞ…何があったんだ?」
「お掃除中ー。」
「掃除というより訓練じゃ?」
━(O_O)テえトめていいってダレがイった!━
「うわああああああ!」
「…そういえば、今日は出動車の点検日?」
「そうだね。昼前にここを出る予定。」
「千速とアウトロードは?」
「もう行ったよ。先にやることがあるって。」
「よし、どうだ!?」
━(O_O)んん…まあ、ゴウカクサイテイテンってとこだな。キョウはこれでオわりだ!ツギはイッパツでクリアしろ!━
「っしゃあ!合格!」
昼前になり、先に走って行っているアウトロードと千速、留守番の黒淵隊長と雨龍を除いた隊員は出動車に乗り込む。
「じゃあ留守番よろしくお願いします!」
「何もなければ夜には戻ってきます。」
「任せて。」
「何かあればすぐ連絡するんだよ。」
昼下がりの湾岸線を、出動車は走って行く。
この日は京葉隊が行う、出動車の定期点検に行く日であった。
京葉基地はスタビライザーで使う道具の整備・製造工場を兼ね備えている、市原市にある隊だ。他にも佐野、鹿嶋、川崎にもあるが、京葉基地は規模が他3つに比べて段違いに大きい。
特殊派遣基地が1番近いのは川崎基地だが、運悪くいっぱいだったため、今回は次に近い京葉隊に回された。
━ ( ´Д`)ミえてキたぜ!ヒダリマエによお!ぶっトばしていく━
「だーからスピード抑えろってば!緊急じゃないんだから法定速度守って!」
「ここなら故障しても大丈夫じゃない?近いし。」
「そういう問題ではないだろ。」
計良が18号の暴走を必死に抑えながら、なんとか京葉基地に到着した。
煙を吐き続ける煙突が天を突き上げ、その下に広がる薄汚れたダンジョンには無数のパイプが張り巡らされている。その間をある人は車を運転しながら、ある人は工具を抱えながら、ある人は缶コーヒーを飲みながらと言うふうに、無数の人々が行き交っていた。
出動車は工場の端に到着し、追崎と計良を先頭に点検の手続きへと向かった。
「こんにちは〜。特殊派遣部隊です。出動車の点検をしてもらいたいんですけど。」
「出動車の点検ですか…」
「もしかしてここも満員?」
「えー川崎からもダメって言われたのに…。」
「ああいえ、別に満員ってわけではないんですが、ちょっと問題がありまして…。」
「問題?」
「と言ったかマイブラザー!?」
「…あれが問題です。」
受付の奥の扉を勢いよく開いた。そこから汚い作業着、虹色のゴーグル、よく分からないキャラクターの靴を履いた奇天烈な姿の少女が入ってきた。
「ヘイヘイ何か問題があるんだって?任せろ、ワタシ様がズバパパチョキンッと解決して見せよう!」
「あなた前もそう言ってストーブを破壊したばかりじゃないですか!」
「破壊なんかしていない。ただこれから来たる灼熱の夏に向けて冷気を出すように改造しただけだ!」
「それをやったのが1月だから問題なんですよ…!」
「あっ、いたいた!ちょっと何やってるんすか!また爺さんに怒られるっすよ!」
続けて奥から背の低い少年がやってきた。奇天烈な少女とは打って変わって、まともな格好をしている。
「あ、もしかしてお客さんすか?」
「まあ、そうだな。出動車の点検をしてもらいに来たんだが、急にこうなって…。」
「いやー申し訳ないっす。あれは行森ノアっていう僕の妹なんすよ。腕前は確かなんすけど好奇心が強すぎて僕も手焼いてて…」
「それは大変だね…って、君は!?普通に馴染んでたから気づかなかったよ。それに落ち着きすぎじゃない?」
「あはは、ノアが元気すぎなんすよ。僕は行森ナオトっす!さっきも言った通りノアの兄で、ここで兄弟2人とも見習いとして働いてるっす。皆さんは特殊派遣部隊の方っすね。」
いかにもと頷き、特殊派遣部隊の隊員も軽く自己紹介をした。その間にノアと受付の男の口論も決着がついた。
「じゃあワタシ様たちが担当するって事でいいんだね?」
「はい…もう…それで…いいです。すみません特殊派遣部隊の皆さん、私ではなんとも」
「いや、大丈夫だ。」
「うん。」
「な、なあ追崎、アヤカ、何が問題なんだ?」
「へ?い、いやだってあの人どう見てもおかしいじゃないですか!」
「いや別に…」
「そんなに…」
「普通に俺たちの隊にいそう…」
彼らの頭にはアウトロードやオージャなどのうるさい面々が浮かんでいた。
「もう嫌!味方がいなくなった!撤退!」
そう言い残して受付の男は涙ながらに去って行った。
「ふむ、マイブラザーがいなくなってしまったな。」
「本当のブラザーはここにいるっすよ!」
「兄さんは兄さんだ!ブラザーじゃない!」
「英語、勉強し直すっすよ。
…てことで、もしよければ僕たちに出動車の点検は任せてもらいたいっす。こんなでも腕前には自信あるっすよ!」
「いいよな?」
「いいよー。」
「う、うん。」
こうして特殊派遣部隊の出動車は、行森兄妹の手によって点検されることとなった。
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「おい、なあお前!あれ見ろよ。」
男の目線の先には、かなりの重量のあるバーベルを片手で一心不乱に振り続ける、女の姿があった。
「かっけえよなあ…。」
「俺もあんなんになりてえよ…。」
女はトレーニングを終え、タオルで汗を拭いながらトレーニングルームを出て、シャワー室に向かおうとしたところ声をかけられた。
「千装隊長!」
「ん?どうしたんだ新田。」
「せ、2ndって呼んでくださいよ。そんなことより、"彼ら"がやってきました。」
「"彼ら"が?何故?」
「出動車の点検があるそうで。」
「なるほど。でもまずは一旦シャ」
「早く会いたいと。」
「んん…そうか。」
千装隊長は"彼ら"が待つ部屋へと向かう。
━「…よお、リンさん。」━
「…久しぶりだな。」




