15 黄霧四塞
最初に入ってきた繋界まで戻り、そこを通って現世界へと戻った。
日はもう落ちており、バリケードの奥には仕事や学校帰りの人々が行き交っていた。
「おかえりなさい!今閉じるね。」
計良は労いながら、リモコンのような装置を使って、繋界を閉じた。
「なにもなくなった。」
八代は繋界があった場所に手をかざしてみたが、何の変化もなかった。
「世界鍵を見るのは初めて?こうやって繋界を閉じるんだよ。楽ちんでしょ。」
━「ふう、なんとか片付けたぜ。」━
「お腹すいたなあ…。」
「みんなお疲れ様。帰ったらすぐに食事にしよう。」
そう各々が話していると、糸瀬隊長が特殊派遣部隊の元へ駆けつけた。姿は任務の前と異なっており、四肢の首には糸が巻き付いていて、指と指の間には糸を発射する装置のようなものがついていて、口から耳元にかけては縫い目のようなものがある。
━「あ、こっちも大丈夫そうですね。」━
「その姿は…魂装だ!」
「学んだ成果が出ているね。」
「はは、その通りですよ。最後まで油断はできませんからね。暴走意志の鎮圧は完了しました。本当に助かりました。ご協力感謝します。」
「こちらこそ、力になれてなによりだよ。」
━「それからそこの2人とも。八代君とガイードだったっけ。実はオージャからの映像で君たちの暴走意志との戦いを見せてもらったんだけど…」━
八代とガイードは身構えた。黒淵隊長の足を引っ張ったとか、倒すのに時間がかかりすぎているとか、そういう説教をされるのではないかと恐れていた。だが口から出てきた言葉はその真逆だった。
━「凄いね!あんな力見たことないし、想像もつかなかったよ。ああやって常識を破っていくことこそがこの2つの世界の平和を守っていくときに大切なことだと僕は思う。君たちは絶対にポテンシャルがある。これからも頑張って!」━
そう言って糸瀬隊長は笑って見せた。
「はい!」━はい!━
八代とガイードは元気よく応えた。
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「んー…」
━ぐかーっ。んご。━
深夜0時。食事をとり、風呂に入り疲れが溜まっていた特殊派遣部隊は、眠らない街東京の片隅で静かに眠っていた。ただ1人を除いて。
「はあ、報告書書くのめんどくさいなあ…オージャ…は今充電中だし、やるしかないか。」
黒淵隊長は夜遅くまで報告書で作成に当たっていた。彼にとって睡眠がとれないことは苦ではなかったが、デスクワークは苦であった。1人で唸りながらも懸命に空欄を埋めていく。
「…。」
黒淵隊長は立ち上がり、部屋を出る。そのままキッチンにコーヒーをとりに行くでもなく、トイレに行くでもなく、世界鍵を手に建物、そして敷地を出た。
「ここだね。」
黒淵隊長が世界鍵を使うと、通常の2倍の速さで繋界が開いた。そのまま手を振りかざし、魂の力を使って自身を無理矢理異世界へ送り込んだ。
「…驚いたな。」
黒淵隊長はそのまま繋界を閉じた。異世界から現世界に侵入しようとしていたのは、1人の男だった。老い、疲れている顔つきではあるものの、マント付きの軍服を見に纏い、その荘厳な立ち姿から凄まじい圧力を放っている。
「イクサか。」
「覚えているのか。」
「まあね。だって君、強いんだもん。本気出せば日本消せるでしょ?」
「お前に防がれるのを俺は知っている。無策な破壊は馬鹿のすることだ。」
「君は頭がよく切れるね。で、僕の隊に何の用?」
「或る魂とその相棒が目覚めたのを感じた。」
「あの子たち、もうファンができちゃったのか。それで一目みたいとか?」
イクサは軍刀を作り出し、手に持った。
「そうだな…何をするにしても、貴様は障壁になりそうだ。」
「じゃあ障壁らしく阻ませてもらうよ。特殊には絶対に手を出させない。」
男は前に出て、マントを大きく広げた。空気に靡き、不穏な風音を奏でると、黒く光る砲台が4つ現れた。
「発射。」━御意。━
砲弾は発射音と同時に黒淵に着弾したようにも見えた。
「2発目」
黒淵は背後に回り込み、砲台を全て粉々に押し砕いた。
「速いな。」
イクサは手に持つ軍刀で、襲いかかってきた黒淵隊長の腹を切ろうと構えて放った。しかし刀は黒淵隊長に当たる前に折られ、その破片はイクサに突き刺さる。それでも男は怯むことなくハンドガンを作り出し黒淵隊長の頭を狙う。だがまたしてもそれは効かずに弾は地面に落ちた。
「怯まないね。」
「恐怖は常だ。」
2人は一歩も譲らずに戦闘を繰り広げる。時に崩れかけた建物の屋根を使って攻撃の軌道を逸らし、飛んでくる軍刀を街灯で薙ぎ払い、街路樹で予備動作を隠し砲撃への対応を遅らせる。
「…通らないな。」
「通ったらこんな老骨、すぐ砕け散っちゃうよ。」
「では砕かせてもらおう。」
そう遠くない頭上から空気を押し除けるような轟音が鳴り響く。その正体は無人の破壊兵器、ミサイルであった。
「久しぶりに使おうか。」
黒淵隊長はイクサを高速道路の外壁に当たるほど遠くへと突き飛ばし、ミサイルの方向に手をかざす。
「『胎星』」
黒い死星が宙に浮かぶ。それを見る者の目さえ吸い込んでしまいそうなほどの強い力で周囲のものを吸い込んでいく。ミサイルは徐々に歪んでいき、細い線のように消えてしまった。
「ブラックホールか。」
イクサはさっきの攻撃のダメージをものともせず、すぐに戦闘体制に戻った。
「君、結構やる気みたいだね。僕もやる気出せるけど、どうする?」
両者は睨み合う。窒息死してしまいそうなほどの緊張感の中、イクサは顔色ひとつ変えず言い放った。
「やめておこう。今戦ったとして、不利なのは私の方だ。」
「どうだかね。」
イクサは腕を後ろに組んで兵器を仕舞った。
「また君は来るんだろう?」
「どうだろうな。」
「来てもいいけど、そのときは覚悟していた方がいいよ。あの子たちに倒される覚悟をね。」
イクサは黒淵隊長の顔を見た後、マントが彼を覆い尽くすと、そこにはもう何もなかった。
「…どうやら、思っていた以上にあの子たちはこの世界において重要な役わりを果しているのかもね。」
黒淵隊長は現世界へと戻る。
「僕も、もう少し…頑張らないとな。」
黒淵は自身の手を握って、見た。




