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WORLD)SOUL(WORLD   作者: 六等星
消息盈虚編
13/22

12 特殊派遣部隊隊長 黒淵ケンゾウ

コツ、コツ、コツ…


妙な足音で八代は目が覚める。時計の針たちは4:30を指していた。


「誰だ…?朝から風呂にでも入るのか?」


八代は覆い被さっていたガイードを退けてベッドから出る。音が気になりドアスコープから廊下を見ると、そこには人の姿があった。


「ふふ、ふふふ…これだけあれば足りる…。」


「(泥棒…?でも幸いにも盗んだ金を数えるのに浮かれていて油断しているようにも見える。

…よし、力は使える。今からガイードを起こすとバレる可能性もあるから、俺があの泥棒を捕まえよう。)」


八代はドアをこれ以上ないくらいに静かに開け、人影の背後を捉える。こちらには気づいていない。今なら行ける、そう思って八代は足を踏み出そうとしたが。


━いだっ!んんー…。━


ガイードが頭から落ちた。


「なんてこったい。」


「ん?誰だ?」


人影は振り返って闇の中から姿を現す。しかしそれの正体は人ではなかった。頭部が普通の人のものではなく、渦巻く黒い何かであった。


「人じゃない!あれでも見覚えが…あるような?」


「なんだ、やれやれ、僕も幻覚を見るようになったか。疲れているのかもしれないね。」


その謎の人影は八代に寄っていく。


「にしても随分とリアルな幻覚だ。手を触れたら触れてしまえそ…ん?」


八代の膝に謎の人影の手が触れた。


「あれ、もしかして…人ぉぉぉぉ!?」


━「だーっ!うるせえぞボケがぁーっ!」━

「眠い…。」

「何!?」

「こっちも!」

━「なんなんだこんな早くから!」━

「何があった!?」

「こっちもこっちも!ウッ」

「今電気を点ける!」


廊下の電気が点いた。闇が拭われた廊下の真ん中には、頭部が黒く渦巻く老人が倒れていた。


「黒淵隊長!?」

「追崎…皆に伝えてくれ…僕は今まで」

━「隊長?おい、何やってんだよ隊長!」━

「とにかくまずは安静に!」


朝からパニックとなったが、追崎の冷静な指示で黒淵隊長はメインルームで安静にされ、そのお陰で一命をとりとめ皆も落ち着くことができた。


「いやー、ごめんねみんな、朝から起こしちゃって。」

「一体何があったんですか?」

「それはえっと…俺から…。」


八代は経緯を話した。


━「「「「あー…」」」」━


「僕が含みのある独り言を言っていたのが悪かった。あれはみんなに買ってきたお土産の饅頭を数えていたんだ。後で食べるといい。」


━「っしゃあ全部取グゥッ!」━


黒淵隊長が指を地面に向かって指すと、饅頭に飛びかかったアウトロードと千速は地面に叩きつけられた。


「2人とも欲張りはいけないよ。」


━「…わーったよ。」━


「あれ、前、川崎の地下で大火から助けてくれたのって…。」


「うん、僕だよ。」


「そうですよね!あのときはありがとうございました。もし助けが来なかったら俺絶対死んでましたよ!」


「何、礼には及ばないさ。彼とは腐れ縁があってね。今回もいつも通り対処しただけだよ。


さて、少し早いが朝食にしようか。僕のせいで皆を早く起こしてしまったし、普段よりも食材を多く使っても構わないよ。」


「ほんとですか!?わーいじゃあ朝からちょっと豪華にしちゃお!7、8、9号起きなさい!」

「朝から計良は元気だな。」


「あ、2人ともちょっと待ってくれるかな。」


2人は皆が朝食の準備に向かおうとしていたので着いて行こうとしたが、それを黒淵隊長が呼び止めた。


「いやはや、こんな挨拶になってしまって申し訳ないね。」


「いや!俺の方こそすいません。」

━この度は私のミツキが失礼しました。━


「はは、君たちは随分仲が良いみたいだね。

改めて。僕は黒淵ケンゾウ。特殊派遣部隊隊長を務めさせてもらっているよ。歳は確か…300いくつだったっけ。まあいい」

「よくない!」━よくないですよ!?━


咄嗟に叫んだ八代の頭の中に、知念総隊長の言葉が思い出された。「崩壊連星の奴らはみんな老いる様子がないんだ。」


「ま、まさか黒淵隊長の正体は崩壊連星の」


「違う違う!ごめん、そりゃ混乱するよね。」


黒淵隊長は2人を落ち着かせてから話を続けた。


「それを説明する前に僕の魂のことを。」


黒淵隊長は指を振ると、段ボール箱が加速しながら2人の元へと滑って来た。


「これが能力だよ。『重力』の魂、全心。重力自体まだ解明されてないことが多いから説明するのは難しいんだけど…自在に力を操れるとでも捉えてくれればいいよ。」


「…それって強すぎませんか?」


「お、良い着眼点だね。まさにその通りで、この魂の力ははっきりいって過剰だ。全心の力は人1人の体じゃ抑えられないくらいに強くてね、対等な関係は不可能となっている。だからこういう形で魂の力が溢れ出ているっていうわけ。」


黒淵隊長は自身の黒く渦巻く頭部を指した。


「僕の体は魂に呑まれかけてるとも言えるね。実際、僕の肉体の構造は魂に近くなっている。だから300年もの歳月を生きることができたんだ。魂に寿命はないからね。」


「魂って寿命ないんですね。」

━じゃあ私は不老不死です!━


「いや、魂が死ぬことはあるよ。暴走意志となった後鎮圧されたときとか、相棒が死んでその衝撃に耐えられなかったときとか…って、こんな辛気臭い話はやめよう。とりあえずこれで僕のことは大体分かってもらえたかな。」


━はい、改めてよろしくお願いします。━

「よろしくお願いします。」


「うん、よろしく。じゃあその段ボールを開けてご覧。」


八代とガイードの前には、先程全心の力によって運ばれてきた段ボール箱が置いてあった。


「入隊を祝して僕からのプレゼント、っていうわけじゃないんだけど、隊員の基本的な装備品だよ。開けてご覧。」


「これ、全部俺に…?ありがとうございます!」


段ボールの中には、隊服と端末が入っていた。隊服は普段の使う軽めの訓練服と、防火防水など防御性能が高い戦闘服に分かれている。戦闘服は訓練服の胸についている小さなコードを読み取ることで自動で装着される。端末は簡単に操作できるよう液晶の大きなスマートフォンタイプになっているが、耐久性を高めるため自動で閉じるカバーもついている。いたってシンプルな2つだが、どちらとも性能はピカイチと言ってよい物だ。


「サイズはどうかな。ロゴスが君のデータをとってくれたらしいから、多分ぴったりと思うんだけど。」


「ぴったりです!戦闘服も…うおっすごい本当に自動でついた!というかロゴスはいつの間に俺のデータを取ってたんだ?」

━ちょっとストーカーチックですね。━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「あれ、ロゴス。なんだか不機嫌そうだけどどうしたの?」


━いや…何か失礼な誤解を受けているような気がしてな。━


「うわ、自意識過剰だきもっていーった…ねえ!こんな分厚いのじゃなくたっていいじゃん!」


━目の前にもっと失礼な者がいたな。━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「えーっと、ここをこうすればいいのか。」


八代は手慣れた手つきで端末の設定を済ませていく。


「手慣れてるね。確か君は記憶喪失のはずだったけれど、この端末のことは知っているのかい?」


「これはスマホですよね。使うのは初めてなんですけど、使い方は知ってます。」


「記憶喪失の人というのは初めて関わるけれど、日常生活では特に困ったことはなさそうだね。」


「はい、特に困ったことはありません。常識的なことであれば大体分かるので。でも、少し気になることがあって。」


「気になること?」


八代にはこの濃い2日ほどの間に違和感があった。八代は記憶喪失とはいえ、言語は人並みに扱え、生活をするにあたって苦労しない程度には物を知っている。だがその人並みの生活には確実に不要であろう知識があった。それは仮面や大火との戦闘で現れた戦闘のやり方、食をとる前に毒の有無を見分けようとする行動。その2つを黒淵隊長に話した。


「なるほど、しかもそれらを無意識のうちに行っていたと。…となると、それらは身に染み付いていた記憶ということになるだろうね。」


「戦闘のやり方と毒への警戒心がですか?」


「うん。僕も君が記憶喪失ということを聞いてから知念さんから少し教えてもらったんだ。記憶喪失は自身の過去の経験が思い出せなくても、生活に必要な基本的なことや、習慣を忘れないということが多いってね。きっとそれらも、過去の君が形成した潜在意識なんじゃないかな?」


━そうなると、ミツキは相当過酷な環境にいたことが予測されますね。━


八代は俯いて少し黙った後、静かに口を開いた。


「俺は空っぽだから、それを埋めるためにスタビライザーに入ることにしました。楽も苦も全て詰め込んで、そうして俺になっていくって決めたんです。でもそれを過去が邪魔してきたらと考えると…。」


黒淵隊長は少年の肩に手を置き目を見た。


「大丈夫さ。過去がどんなに辛くても、それは未来を諦める理由になりやしない。どうしてもその過去が気がかりなら、過去を知る前にその悲しみを打ち消す楽しい記憶と優しい仲間を手に入れればいい。きっと君なら、それをここで手に入れられるよ。」


「…確かにその通りですね。俺ここで…まだ何やるかよく分かってないですけど、とにかく頑張ります。」


「さて、そろそろ朝食もできるだろう。今日から一緒に頑張ろう、ミツキ、ガイード。」


━絶対に諦めない、それが私たちの意志ですからね。頑張りましょう、ミツキ。━

「応!」


そうしていつもより豪華らしい朝食をとり、早速訓練が始まったが…


「諦めそう…。」

━さっきの意気込みはどこいったんですか!ほら、姿勢を正して!━


「私の言った通り…重い。」

「く…。」


「ほら、姿勢を崩さずに。やってることはただのブルガリアンスクワットだよ。」


「体が、いつもより、重いんですけど!」


特殊派遣部隊の訓練が重いと言われている所以は、黒淵隊長のスペシャルメニューにある。確かに内容は普通の筋トレと同じ。だがそこに黒淵隊長の全心の力が乗る。そしてその質量はダンベルのように一部分にかかるのではなく体全体に分散してのしかかるので、重力が大きくなっているのと同じ状態になっている。文字通り重いのだ。


「ほら、僕と一緒に頑張ろう。体力筋力は何をするにしてもあって損はないよ。」


「そりゃ、そうですけど!」

━…ちょっと待ってください?あの、黒淵隊長って300歳超えてるんですよね?━


「うん。でもまあ、体は60〜70歳くらいだと思うし、それに老いたとしても努力は欠かしちゃいけないね。」


「ストイック!てか、ガイードも、見てないで、やれよ!」

━魂なので私に筋肉という概念はありません。頑張ってください。━


━俺たちは意志の具現化だからな。━


「クソ…あれ、そういえばアヤカは?」


計良はダンベル片手に涼しい表情でやって来た。


「黒淵隊長、今日のメニュー終わりました。」


「うっそ…。」

━ええ…。━


「アヤカは、ああ見えて力、すごく強い。」

「ああ、羨ましい。」


そうして2名を除いた隊員にとって過酷なトレーニングは終了した。昼食の時間も終わった昼下がりのメインルームで、八代は伸びていた。


「疲れた…。」

━ただのトレーニングでへばってちゃこの先大変ですよ?━

「ガチ平手打ちヨーイ」

━残念当たりませんよ。━

「うわ壁にぎゃあっ!」

━(壁…?なんでしょうこの"胸"のざわめきは…。)━


その瞬間、軽い喧嘩の声が響いていたメインルームに、更なる轟音が参加した。


━(>_<)ジリリリリリリ!セタガヤタイよりシエンヨウセイ!シエンヨウセイ!サンゲンヂャヤにてケイカイがフクスウハッセイ!ジンインブソクユエ、スギナミタイとトモにゲンバのタイオウにムかえ!クりカエす!セタガヤ…━


メインルームの扉が開き、計良が2人に声をかける。


「ミツキくん!出動要請だよ!装備は大丈夫そうだね。今すぐ下に降りて来て!」


━らしいです。行きますよ!初任務です!━

「……!この数日の内容濃すぎるだろ!!!休みが欲しい!!!」


そんな悲痛な叫びと共に、八代を含む隊員たちは、出動準備へと急いで向かっていった。

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