10 入隊と予感とみっともなさ
「じゃあロゴス、2人の入隊資料の作成は頼んだよ。とはいっても素性不明だから、不明なところは不明でいいよ。」
━我々の扱いをもう少し考えたらどうなんだ?━
「〈2人のこと、君の中で少し引っ掛かるところがあるのだろう?データ作成という名目で好きに調べると良い。ただ、最低限のプライバシーは守ること。知識欲に溺れてはいけないよ。〉」
━〈なるほど。全て見透かされていたというわけだな。〉━
「〈じゃあ、また後で。〉」
魂世界は消えていき、元の総隊長室へと戻った。
「やーお疲れ様、問覚秘書課長。彼らの入隊が決まったよ。」
問覚秘書課長が顔をしかめて椅子に座っている。インクイジターは手の上でコロコロと転がっていた。
「知念総隊長、一体どういう経緯で入隊が決まったんですか?」
「まあまあ、そう怒らずに。有意義な話し合いの中で、彼らと意志の有無を判断して決めたんだよ。"負けても失っても絶対に諦めない"という簡素で難しい意志は中々興味深かった。きっと君も気にいるはずさ。」
「…では、この特別入隊の申請は行いましたか?」
問覚秘書課長がそう言うと、知念総隊長の目は明らかに泳ぎ始めた。
「え、あーうん、も、勿論やったよ?特別入隊には申請が必要なんだもんねうん知ってるさ。」
「インクイジターは元気に『ギ』と書いていますが?」
問覚秘書課長が後ろ側から紙を取り出すとそこにはさっきまでの質問の内容と、その下に元気なギの文字が書かれていた。
「…ちょっと私トイレ〜ぎゃっ!首を掴むな!痛い!」
「はあ、これ前もやりましたよね?いい加減学んでくれませんか?」
「だって申請が面倒くさいんだよ!それに結局最後は私が調印するんだから別にいいじゃないか!」
「権力の濫用です!それにもしあなたが特例で入隊させた隊員が事件を起こしたらどうするんですか?」
「そのときは、私たちが解決するさ。」
子供のように言い訳をしていた知念総隊長は、突如本気の雰囲気を醸し出した。私たちが解決するという言葉は、揺るぎない事実として世界に大樹として根を張っているように響く。当然、大樹は人1人の言葉で動かせるわけはない。
「はあ…分かりましたよ。今回は軽い罰で許しますが、次からは絶対に許しませんからね。辞職も覚悟して下さい。」
「分かったよ。ちなみに軽い罰ってなんだい?」
「オレンジジュース一ヶ月禁止です。個人的に所有している冷蔵庫、倉庫入っているものは全て食堂に譲渡します。食堂でのあなたへの提供も禁止です。」
知念総隊長が倒れた。
━へんじがありませんね。━
「ただのしかばねみたいだな。」
「それだけはやめてくれ…。」
「生きてる!?」
━いや元々死んでないと思います。━
「反省してほしいので駄目です。最もここまで効果があるとは思いませんでしたが。」
「やめてくれあれがないと無理だ。足でも靴でも床でも舐めるからそれだけは!」
「あなたが舐めてるのは仕事への臨み方です!反省して下さい。」
「嫌だ!やだやだやだやだやーやーやーやー!」
知念総隊長は問覚秘書課長の足にしがみついた。
「やめて下さい総隊長ともあろう人がみっともない!」
「頼むから!」
「すみません2人とも。とりあえず総隊長は僕がなんとかするので、エレベーターで下に降りていて下さい。話は通してあるので大丈夫です。それと、ロビーに迎えが来ていると思うので、そこからは彼らと行動して下さい。
…こんな入隊になりましたが、僕も個人的に、あなた方がどのような活躍をするのか少し興味が湧いています。"負けても失っても絶対に諦めない"、芯のような良い意志です。健闘を祈っています。」
「ありがとう、問覚秘書課長。」
「問覚さんでいいですよ。」
「問覚様、どうかお許しを…」
「うるさいですね!今しっかりとした別れの挨拶をしているところなんです!」
━じ、じゃあそろそろ行きましょうか。問覚さん、健闘を祈っています…。━
「ええ…ありがとうございます。あ、ちょ、コラ!靴を舐めるな汚い!」
2人は問覚秘書課長と彼の足にしがみつく知念総隊長を心配したが、言われた通りエレベーターに進んだ。
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その日の数時間後…
「やあ…ロゴス。彼らについて…分かったことはあるかい?」
━落ち込みすぎではないか?━
「はは、まあね…。」
━一ヶ月などほんの一瞬ではないか。辛抱するんだ。
話を戻そう。我々で彼らについて調べてみたが…情報が出てこなかった。━
「なるほど…待て、"彼ら"と言ったかい?」
━ああ、"彼ら"は我々を、つまり知識から逸脱している。以前に我々を逸脱した魂はあったが、相棒同士で我々から逸脱したのはこれが初だ。無知の知…感情が湧き上がるのを感じる。━
「まさかガイードだけでなく彼も…。どうやら慎重に調べていく必要がありそうだね。
ロゴス、私はね…
世界の均衡が崩れていく予感がするよ。私たちでその均衡を、1日でも伸ばすんだ。」




