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――この番号は誰からだろうか?
そう思いながら、新庄敦司はスマホの通話ボタンを押した。
「もしもし、どちら様でしょうか?」
「ああ、これが新庄刑事のスマホで間違いないんだな」
「はい、そうですけど……あの、あなたは――」
「俺は渡瀬亮介だ。伴埜都紀子の友人と言えば一発で分かるはずだ」
「ああ、あの時の小説家でしたか」
電話の主は渡瀬亮介からだった。新庄敦司は、安堵の表情を浮かべつつ話す。
「それで、僕にどういう用件があって電話を掛けてきたんでしょうか?」
「実は……俺、二件目の事件が発生した時に現場のすぐ近くに居合わせていたんだ」
「そ、それは本当か!?」
「本当だ。――あの時、俺は確かに白いフードの人物を目撃した。白いフードの人物は少女に寄りかかって犯そうとしていた。遠くで見ていたから詳しいことは分からないが、恐らく抵抗しようとした仮定で少女の首を絞めたんだと思う。新庄刑事、お前の証言が正しければ……恐らく、あの時の被害者は中村咲那で間違いないだろう」
これは大きな証言だ。新庄敦司はそう思った。
渡瀬亮介からの証言を踏まえた上で、新庄敦司は話す。
「つまり、渡瀬さんは中村咲那が殺害されるところを目の当たりにしてしまったのか。――あの時、君が警察に通報していれば……」
「その点に関しては俺も責任を感じている。俺は中村咲那という少女を見殺しにしてしまったことになるからな。――それはそうと、白いフードの人物について何か手がかりは掴めたのか?」
「その件に関してですけど、僕も神戸市内と芦屋市内に設置されている監視カメラを徹底的にチェックしているところです。今の監視カメラは精度が高いですからね」
「なるほど。確かに、監視カメラから犯人を割り出せば俺が出る幕はなくなる。――いや、出来れば俺が出る幕なんてない方が良いんだけど」
「そうですよね。そこは、渡瀬さんの言う通りだと思います。――それでは、僕はこれで失礼します。例の事件について色々と調べなければいけないですし」
「ああ、分かった。――それじゃあな」
渡瀬亮介がそう言ったところで、通話は終了した。通話時間は、30分ぐらいだっただろうか。
渡瀬亮介との電話を終えたところで、部下の刑事が新庄敦司に話しかけてきた。
「新庄刑事、少しお話があります」
「どうされたんでしょうか?」
「――実は、監視カメラの映像を調べていると不審な人物が引っかかったんです」
「不審な人物? まさか、白いフードの人物なのか?」
「はい。新庄刑事が言うとおり、『白いフードの人物』です。顔は分からないんですけど、監察医から聞いた落合翔子と中村咲那の死亡推定時刻から該当する時間の監視カメラ映像を見たんです。そうしたら、こんな映像が……」
そう言って、部下の刑事はタブレット端末を新庄敦司の方へと向けた。
タブレット端末には、芦屋川上流域の様子が映し出されている。こんな場所で殺人事件が起こったら、逆に目立ってしまうような気がするが……。
「こ、これは……」
新庄敦司はそこで言葉を切った。タブレット端末には中村咲那に襲いかかる白いフードの人物が映し出されている。まさしく、渡瀬亮介が証言していた通りである。
そして、何か思う事でもあったのか――新庄敦司は話す。
「そういえば、僕……ある証言を聞いたんですよ」
「証言? それって、どんな証言なんでしょうか?」
「港楠大学で聞いた証言ですけど、女子生徒がストーカーに付きまとわれているらしいんですよ。確か、女子生徒は『安西直子』って名乗っていましたね」
「なるほど。――とにかく、その安西直子という女性に話を聞いてみたらどうでしょうか?」
「その通りですね。――僕、少し彼女の家に行ってきます」
「分かりました。――証言、聞いてきてください」
部下の刑事にそう言われたところで、新庄敦司は安西直子の自宅へとパトカーを走らせた。