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彼岸花が咲く丘の下で  作者: 卯月 絢華
Phase 01 渡瀬亮介という男
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4

 とは言ったものの、どうやって新庄さんに事件のことを伝えれば良いんだろうか。私は自分のアパートに戻った上で悩んでいた。


 ――確か、事件現場は芦屋川の河川敷で、阪神芦屋駅の近くだったな。阪神芦屋駅の近くの公園はいわゆる「憩いの場所」で、芦屋市民に親しまれている。確か、芦屋署もその近くにあったような……。


 もしかしたら、新庄さんは芦屋署にいる可能性もあるな。そう思った私は、自転車を漕いで芦屋市役所付近へと向かった。


 阪神沿線というのは「治安が悪い」というレッテルを貼られることが多いけど、芦屋に関して言えばあまり治安が悪いとは思わない。まあ、市役所や消防署、警察署が近くにあるから当然だろうか。


 警察署の近くに自転車を停めて、私は正面玄関から芦屋署の中へと入った。


「あの……私、伴埜都紀子という者です。刑事の新庄敦司さんはおられますでしょうか?」


 受付でそう言ったところ、受付のお姉さんは「確かに新庄刑事はウチの署におられます」と言ったので、私は事情を説明した上で「新庄さんに会わせてください」とお願いした。


「――ああ、あなたは伴埜さんですか。一体、どうされたんでしょうか?」


 新庄さんがそう言うので、私は「事件について分かったことがある」と話した。


 もちろん、新庄さんの食いつきは良かった。


「なるほど。事件の犯人はわざわざ墓地から彼岸花を引き抜いて犯行に及んだと言いたいのか。確かに、その可能性は考えられますね。――しかし、どうして彼岸花なんでしょうか?」


 思い当たる節は結構ある。――私は話す。


「多分、『死者を弔うため』だと思います。まあ、その『死者』を作り出しているのは犯人そのものですけど……」


 しかし、私の考えは新庄さんに否定されてしまった。当然だろうか。


「死者を弔うためにわざわざ犯行に及んでいるんですか? うーん、僕は伴埜さんのそういう考えに対して懐疑的ですね……」


 仕方ないな。私は(うつむ)きながら話す。


「やっぱり、そうですか……。まあ、良いでしょう。――ところで、容疑者について目星は付いているんでしょうか?」


 そうは言ったものの、やはり犯人に対する目星は付いていないらしい。


「残念ですけど、容疑者については分かっていません。一応、明日にでも港楠大学の六甲キャンパスで聞き込み調査は行おうと思いますが」

「ということは、港楠大学の中に犯人がいるかもしれないと考えているんでしょうか?」

「今のところはそう考えざるを得ませんね」

「なるほど」


 つまり、新庄さんは「港楠大学の生徒の中に事件の犯人がいる」と考えているのか。確かに、その考えは一理あるかもしれない。


 それから、私は「何か変わったことがあったらすぐにスマホに連絡してほしい」と伝えて新庄さんに自分のスマホの電話番号を伝えておいた。多分、これで大丈夫だと思う。


「これじゃあ、私はこれで失礼します」

「ああ、分かった。――これ以上、痛ましい事件が起こらないことを願うしかないですが」


 新庄さんがそう言ったことを確認して、私は芦屋署を後にした。外はすっかり暗くなっていた。まあ、10月も半ばとなると外が暗くなるのも早いか。


 自転車でアパートに戻る過程でコンビニに寄り、適当な弁当を買って帰った。確か、ハンバーグ弁当とか書いてあったか。割引シール貼ってあったけど。


 アパートに戻ると、今までの疲れがドッと出てしまった。――言われてみれば、長い一日だったかもしれない。


 風呂キャンセルなんてもっての外なので、私はさっさとシャワーを浴びて部屋着に着替えた。


 部屋着に着替えたところで、ハンバーグ弁当をチンして食べる。別に旨いとも不味いとも思わないが、普通よりは少しおいしいと感じた。


 パソコンを見ると、クライアントから仕事を督促するメールが来ていた。――そういえば、今の仕事の納期って1週間後だったな。こっちもやらなければ。私は渋々とクライアントからの依頼をこなすことにした。どうせ、今そこにある事件のことを考えても仕方ないし。

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